【ワルツを踊ろう】中山七里
※インスタに投稿した記事より、一部加筆修正してお届けいたします。
何だか数ヶ月に1冊、中山七里さんの本を読んでるような……麻薬的な吸引力と「クセ」に誘引され、大体の筋が読めてしまっても、最後まで目が離せずに読み切ってしまう、そんな中山七里さんの「最狂傑作」と謳われている【 #ワルツを踊ろう 】を読みました。
美しい音楽って、残虐なシーンと不思議にマッチするんですよね。音楽に対する冒涜だと怒られそうですが、特に映画では、印象的な残酷シーンに、時々美しい音楽が重ねられています。
多分、音楽で映像を中和するのではなく、美しさと残酷さのギャップが臨場感を加速させ、より恐怖を演出する、そういう計算なのだと思うのです。
例えば、【ゴットファーザー】がそうですね。ニーノ・ロータの甘美で哀愁漂う音楽と、マフィアの冷酷な抗争には、ミスマッチとも言えるぐらいの大きなギャップがあります。
他には、【羊たちの沈黙】も当てはまります。バッハのゴルドベルク変奏曲の美しいアリアが、猟奇的なカニバリズムの戦慄的な恐怖を増長させていました。
また、BGMとは違いますが、【時計仕掛けのオレンジ】でも、主人公が【雨に唄えば】の主題歌を歌いながら、激しい暴力を振るうシーンが印象的でした。
一方で、音楽と映像をマッチさせて、恐怖を煽る映画は、それが一般的だし当たり前の演出ですから、書き切れないぐらい沢山あります。例を挙げるなら、【ジョーズ】や【エルム街の悪夢】なんて典型的ですね。
でも、前述した映画のように、故意にミスマッチを充てがう演出も、静かに恐怖が増大していくような感じがして、また違った怖さが伝わると思います。
そして、この本も、そういうシーンが印象に残りました。
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以下、少しネタバレを含みます。
未読の方はご注意ください。
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この物語の最後の方で、理不尽な仕打ちの積み重ねについにブチ切れた主人公が、地域住民に対して残虐な殺戮を行うシーンがあります。もう、中山七里さん得意の生々しくグロい描写の連続ですので、苦手な人は避けた方が良いかもしれません。
でも、本書の場合、中山七里さんの他の著書( 連続殺人鬼カエル男 ヒポクラテスの誓い など)でのグロシーンとは、今回は少し趣が違います。
犯人が、エグい暴力を振るいつつも、常にシュトラウスの「 #美しき青きドナウ 」が脳内で再生されているのです。
読者は、とても優雅で気品のある美しいメロディが、まるでBGMに流れているような錯覚に陥り、その中で残酷極まる殺戮行為が行われるのです。だからこそ、なんとも言えない「やるせなさ」を感じました。
と、結末から書きましたが、物語は住民僅か7世帯9人、全員が高齢者という限界集落での出来事です。訳あって、この集落で暮らすことになった了衛は、壮絶な村八分にあいます。
田舎独特の偏狭な考え方、昔気質では済まされない不条理、固苦しく理不尽なしきたり……閉鎖的で凝り固まった思想と、感情優先の無法状態のコミュニティ。
風通しの悪い高齢者だけの世界は、とても浅慮で無知で、僻みと妬みで人間性は歪められ、将来に向けての光明は全くありません。
そんな地域に飛び込むことになった40代の了衛は、文字通りの地獄を見ることになるのです。
しかし、この了衛にも、問題が多々ありまして……気の毒過ぎて、目も当てられないような仕打ちに耐える毎日なのに、了衛にも同情出来ない部分が散見されるのです。
ピュアというのか、大人気ないというのか……いや、早い話、アホなんでしょう。
皆と打ち解ける為に色んなことをやってみるのは良いのですけど、やることなすこと、全て失敗に終わります。でも、読者としても「そんなの上手くいくわけないじゃん!」と思うような稚拙な行動ですし、「ほらね……」ってオチになるので、何とも虚しいものはありました。
まぁ、そこからどんどん負のエネルギーが積み重なって、精神に異常をきたし、妄想が暴走して、狂気に向かうのね……という筋書きは見え見えです。
でも、その過程が何とも胸糞悪くて、限界集落のあらゆる悪循環には居心地の悪さしか感じないし、ジジイ達の言動や思考にはムカつくし、了衛は了衛で「馬鹿じゃないの?」とイラつくし、胸のつかえが巨大化していくような物語でした。
逆に言えば、こういうフラストレーションがひたすら増大していく、そんな過程を楽しむ(?)作品なのかもしれません。そして、抑えようのない怒りとして、爆発する……復讐と言えばそれまでですが、決して胸スカものではないので、その辺りの狙いがよく掴めなかったことは否めません。
ひょっとして、惨劇の実行現場を書きたかっただけ? なんて思ってしまいました。確かに、グロいながらも読み応えはありました。
現実に、こういう小さなコミュニティでの陰湿な虐めは何処にでもあるでしょうし、実際に似たような事件も起きています。
フィクションでも、有名な『八つ墓村』が似ていますし、リアルな事件だと、戦前の『津山事件』もよく似た構図です。
そして、2013年に山口県の限界集落で起きた『連続放火殺人事件』は、まさにこの物語のモデルとなった事件でもありますから、とても現実味を帯びた物語でもあるのです。
そして、事が終わって——。
その後に、実は……という大どんでん返しが重ねられるのは、さすが中山七里さんです。
他作品との兼合いをたまたま知っていたので驚きましたけど、それは知らなくても問題ないでしょう。でも、何となく話がひっくり返る予感はありましたし、こちらが目的だったのかなぁ? とは思いましたが、この物語に限っては蛇足だったかな? とも思いました。
さて、私はこの本が面白かったのでしょうか?
自分でもよく分かりませんが、退屈ではなかったです。
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