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羊の瞞し

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残酷な運命に翻弄される、二世調律師の成長譚。物語はフィクションですが、楽器業界のリアルな裏話を交えながらお届けいたします。約22万文字の長編になります。
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羊の瞞し あらすじと目次

羊の瞞し あらすじと目次

【目次】第1章 MELANCHOLICな羊

(1)ファミレスにて〜プロローグに代えて〜
(2)ショールームにて
(3)地獄の審問
(4)釣堀
(5)ドイツのピアノ
(6)釣果
(7)騙すこと、騙されること

◉第1章のまとめ読みはこちらから(他サイト)

第2章 NOSTALGICな羊

(1)はじまりのノクターン
(2)家族のノクターン
(3)崩れゆくノクターン
(4)凋落のノクターン
(5)

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羊の瞞し 第3章 REALISTICな羊(1)

羊の瞞し 第3章 REALISTICな羊(1)

(1)羊は歩き出す

 国内最大手の楽器メーカー『KAYAMA社』の特約店である興和楽器は、県内最大のフロア面積を誇る総合楽器店だ。ピアノはもちろん、管弦楽器やLM楽器など様々な楽器を販売し、それらの教則本や周辺アクセサリー、専門書まで、総合的な販売業務だけでも全国有数の大型ショップとして周知されている。
 また、ピアノ調律をはじめとした楽器のメンテナンス業務、貸しスタジオや音楽教室の運営、楽器レ

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羊の瞞し 第3章 REALISTICな羊(2)

羊の瞞し 第3章 REALISTICな羊(2)

(2)初めての実践

 響は、梶山から送られたリストに再度目を通すと、幸いなことに本社のレッスン室が五部屋分も入っていることに気付いた。先ずは、慣れることも兼ねて、この五台からやってみることに決めた。
 教室担当者にレッスンの空き時間を教えてもらうと、今すぐ取り掛かれるピアノが三台もあった。但し、どの部屋も調律が可能な時間は15:30までとのこと。今はまだ十時前。なので、午前中に一台終らせ、午後か

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羊の瞞し 第3章 REALISTICな羊(3)

羊の瞞し 第3章 REALISTICな羊(3)

(3)羊の親分

 何度繰り返しても、調律が思うように収まらない原因は、すぐ目の前にあったのだ。この部屋は、エアコンの吹き出し口が天井にあり、ピアノに直接冷風を吹き付けていたからだ。
 特に、調律中は屋根を全開にする為、弦が剥き出しになり、より影響を受けやすくなる。金属は温度変化により伸縮する。夏なのに、ピッチが高くなっていたのも、冷風による影響を日常的に受けていたからだろう。そう、最初からヒント

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