とある靴修理人の歌
とある靴修理人の歌
俺は修理人
靴修理人
Wow wow wow !
俺は、クドゥセ
나는 구두쇠
Yeah yeah yeah !
ポンポンで、パンパンパン！
今日も、古靴のカカトを、ハンマーでたたく
明日、仕事を辞めるのさ！
お隣の国の言葉
「けちん坊」のことを、「クドゥセ」というそうな
直訳すると、「靴修理人」
靴をくり返し直して履くことから……とな！
そりゃないぜ、ベイベー！
ひどい、言われよう
俺はケチじゃないぜ
ケチになれる程、守る金なんかございやせん
ああ、but ! しかし！
命がけで守った言葉なら仕方なし
仕方なし！
ご尊敬申し上げるだけ
俺は、クドゥセ
나는 구두쇠
Yeah yeah yeah !
サランへ
サランヘ
사랑해요
愛しいお客様の、しばしの、安全な歩行をお守りいたします
カワイ子ちゃんが持ってくる靴は、可哀そうなほどボロボロ
靴修理屋あるある
知らんけど
もっと早く持ってらっしゃいよ
0.1ミリほどのキズを指し
「このキズ、直せます？」
「直せません」
ダッテ、ナカッタコトニハ出来ナイカラ……
即答したら、即お帰り
飾りじゃないのよ、靴は、お兄さん
道端の石ころやガラスの欠片を
犬の糞やらオッサンの吐いた唾なんかを
あんたらのやわらかい足裏の代わりに
やわらかいか知らんけど
身代わりに踏んでくれる、ありがたい道具なんだ
たまには、靴の身になって、てめぇの手を汚して、手入れしてやれよ
ちなみに、俺の靴はボロボロだけどな
医者の不養生ってヤツ
医者じゃねぇけど
미안해、俺の靴
先輩職人に、毎日、辞めろ、辞めろといじめ抜かれ
泣きながら……ついで鼻水まで流しながら、学んだ、修理技術
足を潰されてエビせんべい
愛してほしけりゃ、いじめるな
わかりづらいんだよ、アンタ
全く辞める気配のない俺に、先輩職人が言った
「お前、前世、靴底だったんじゃね？」
カカトのケツをポンポンでポン……
…That’s right !
That’s absolutely right !
俺は、靴底だったのか！……
霧散霧消
リーガルのオッサン靴を胸に抱きしめる
さぁ、出かけよう！
用事がなくても、約束がなくても
ボクを履いて、外に出よう
さぁ、ボクの上にその可愛らしい足をのせて
キミをそっと抱きしめ、連れてゆくのは、Paradise…
俺が、ポリ塩化ビニルの靴底だった頃
俺に足をのせていたのは、何も知らないおバカさん
自由だけ欲しがって
初めての海外、初めての一人旅
弾む足どり
迷いこんだのは、童話の森
きらきら流れる、ひそやかな小川
遠慮がちに踏む、みずみずしい緑
クロイボウシ、クロイフク、アカイクツ……
川辺でひとりお遊戯会
教会の鐘の音
仕事帰りの美女が、橋の上から、俺を見ていた
大きなお尻とミルクティーとビスケット
自分も同じ靴を持っていた
たぶん、そんなようなことを言った
赤い靴クリームのビンを持ってきて
傷だらけの俺のチェリーレッドの靴に、指で直接クリームをなすりつけた
靴は手入れをするものだと、知らなかった
この靴はつま先に steel が入っている、と教えてくれた
教会の鐘の音
視線がかち合う
逆光で陰る美しい微笑み
風に乱れ、光に透けた女の髪が、真っ赤に燃え上がる……
生きる、ということの恐ろしさ
人間など、とても靴なしでは歩けまい……
疲労困憊の太陽が沈み
世界の輪郭が黒々と浮かび上がる
ムンクの絵文字
汚部屋に風が通って……
床に積もった埃の上に、昼の光
ワンルームのアパートの、小汚いベッドの上で、ひとり冷たくなっている俺
激しく飛び散ったらしい吐しゃ物は、顔まわり以外にもあちこちで、白くとっくに乾いている
「死後一週間てとこですかね」
靴にビニールのカバーをつけた制服姿の男たちが、淡々と仕事をこなす
壁際に、遊んだあとのおもちゃのように転がる大量のワンカップの空き瓶
ドアの外では、イカつい顔をした刑事が、第一発見者の大家に話を聞いている
カメラを抱えた鑑識のお兄さんが、俺の手を直に見つめて、眉根を寄せる
インクやらワックスやらで、黒く染まった爪の間
……兄さん、今の内に教えといてやるよ
俺は修理人
靴修理人
Wow wow wow !
俺は、クドゥセ
나는 구두쇠
Yeah yeah yeah !
好きなドラマは、「相棒」
過去も未来も黒く塗りがち
ボクの悪いクセ
人々の懐で、懸命に、守られた言葉
濃厚で、強じんな光
구두쇠
彼の国から、俺に与えられた称号
今度こそ
今度こそ
今度こそ！……
ポンポンで、パンパンパン！
今日も、古靴のカカトを、ハンマーでたたく
明日、仕事を辞めるのさ！
今日もはりきって、ニッパーを折る
ちなみに、残業代が 없어요.
2022/3/2
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