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この春新しい仕事をするにおすすめしたい、ビジネス本じゃない本5選

この春あらたにマーケティングの仕事を始める、というメンティーの方から、おすすめの本を教えてください、というメッセージいただきました。先週のことです。それについて一週間ずっと答えを出せずにいます。というのも、誰もがすすめるだろう、という定番以外には、レコメンドを思いつかないのです。

もちろん、みんながすすめる定番以外にも、優れたビジネス本はたくさんあります。しかし、わざわざそう聞いてきてくれるぐらいなので、効率よく上澄みを吸収したいのでしょう。すると、+αのレコメンドより、やっぱり定番がいいのです。そして、定番品というのは、書店に行けばこれだとすぐにわかります。

そこで、こうしたいと思います。各分野のビジネス本のおすすめは書店さんにお任せするとして、ここでは知らなければそもそも棚にすら向かわないであろう、ビジネス本以外のおすすめを紹介するのです。

優れたイノベーターは、異なる複数の文化をバックグラウンドに持っていることが多いとされます。テスラの創業者イーロン・マスクは、南アフリカ人の父とカナダ人の母を両親に持ちます。アマゾンの創業者、ジェフ・ベゾスの母親の再婚相手は、キューバからの移民です。

異なる複数の文化に触れ合うことで、常識破りの創造性が育まれるという仮説を持つとすると、それを最も手近に実現できるのは読書ではないでしょうか。普段触れない分野や世界の本を読むのです。

そして、新たな仕事を始めるこの時期にこそ、それを異文化融合のチャンスと前向きに捉えるために、そんな読書体験が有効なのではないでしょうか。

イノベーターになりたいわけではありませんが、私が読書をする大きな理由の一つがそれです。自分がしらない世界や、異なる文化を擬似体験できること。それ故本の趣向は超雑食なのですが、だからこその選書ができるのではないかと。それではいきましょう。

ドイツの心理学者フロムの名著。愛するとは技術であり、不断の努力を要するものである、と説きます。止むに止まれぬ衝動、自然と沸き立つ感情は、商業主義のフィクションに正当化され何か崇高なものだと誤解されているものの、結局は何らかの「欲」であるとされます。

これは一見がっかりする事のようでいて、実は希望に満ちた考えです。技術であるがゆえ、身につければ再現性を持って「人を愛する」事ができるのです。そして、それは自分自身を愛する技術でもあります。自己愛も一つの愛の形であり、むしろそれが他人に対する愛の出発点でもあるのです。そんなお話。

今から2500年ほど前の古代ギリシャで書かれた物語ですが、驚くべきことにこれが読ませるのです。まずシンプルに読ませる。舞台になるのは、デーバイとコリントスという二つの国です。デーバイ王のラーイオスは、「自分の息子がお前を殺し、お前の妻と交わるであろう」というお告げを受け、家来に息子の殺害を命じます。一方、コリントスの王子オイディプスは、「お前は自分の父親を殺し、母親と交わるであろう」というお告げを受け、国を後にします。奇しくも、この二つのお告げはいずれも実現してしまう、という物語。

この物語は、単に読ませるだけではなく、古典としての深みがあります。単純な勧善懲悪ものではないのです。登場する人物は全員、当時の文化風習に従って正しいとされていること、決して間違ってはいないことをしています。全員悪人ではないのです。それにも関わらず訪れてしまう悲劇。そんな舞台設定にリアリティーを感じ、登場人物に感情移入しながら物語に没入する数時間は、まさに異文化体験といえましょう。

私が愛してやまない、70年代アメリカの西海岸の文学作品から一つ。この時代、サンフランシスコの「シティーライト・ブックストア」(ちなみに今もまだあります)に集った作家や詩人たちの作品は、「え、文学ってこんなんでいいの?」と思ってしまうような、常識やぶりのものばかりです。前衛的な作風というのは、その後定着してスタンダードになったりしますが、この時代に試みられた実験の多くは、斬新すぎたゆえか今日はあまり見られないものになっています。でも、今でも色褪せず面白い。

このブローティガンの代表作もしかりです。短編小説とも、ショートショートとも、詩とも、エッセイともつかない文章のタペストリー。ブローティガンはアメリカよりむしろ日本で人気のある作家で、彼自身日本を愛し頻繁に訪れましたが、この作品に見る、俳諧にも通じる繊細な感性にその理由が伺えます。日英両語で合計数十回読んでいますが、藤本和子さんの翻訳も殿堂入り級に素晴らしいです。

なぜかアマゾンだと中古しか出てこないようなので価格にお気をつけください。またなぜか評価も低いですが、私は圧倒的に名著だと思います。アメリカで書かれたあらゆる自己啓発書の古典に、リンカーン思想の強い影響を感じます。アメリカにおいて、自己啓発とはリンカーンのようになることだ、と言っても過言ではないかもしれません。リンカーンはなぜそれほどまでに尊敬されているのでしょうか?

その理由が垣間見れる一つのエピソードを紹介します。当時、田舎の名もない弁護士だったリンカーンは、全米を騒がす特許裁判の弁護士に抜擢されます。裁判が行われるイリノイ州に地の利がある、という理由からです。リンカーンは大いに発奮し、寝食を忘れて準備に勤しみますが、ある時期から訴訟を請け負う大手法律事務所と連絡が取れなくなってしまいます。事務所の連絡係に手違いがあり、別の有名弁護士に依頼し直していたのを、リンカーンに伝え忘れてしまっていたのです。そんな事も知らないリンカーンは準備を続け、裁判の日時も新聞で知りながら、当日大量の資料とともに法廷に出向きます。

リンカーンに代わり弁護を任されたのは、全米に名だたる著名弁護士のエドワード・スタントンです。裁判所で手違いを知ったリンカーンは、めげずに共同弁護を打診しますが、スタントンは取り合いません。無償でいいので、と食いついてもとりつくしまもなし。普通の人なら怒りと絶望にくれるところですが、リンカーンはそうなりません。それなら弁護を傍聴させてくれ、と裁判を全て傍聴し、スタントンの見事な弁護ぶりに感嘆する度量を見せます。

話はここで終わりません。その後、政治家となりやがて大統領になったとき、リンカーンはなんとこのスタントンを法務長官に任命します。大統領を罷免できる、強大な権限を持つ重責に、かつて自分をこけにした人物をあてがうのです。スタントンは後に陸軍大臣となり、南北戦争の要としてリンカーン政権を支えます。なんたる器の大きさ。この人間力があの歴史的偉業を可能にしたのか、と考えると、リンカーンがあらゆる自己啓発の原点となるのも頷けます。

ご存知、世界的指揮者である小澤征爾さんの青春時代と立身出世を綴った自伝です。今でも世界で活躍する日本人というのは限られていますが、当時はなおのことだったでしょう。そんな中、単身ヨーロッパに渡って孤軍奮闘する青年時代の小澤征爾さんの物語は、まるで漫画のように痛快でありとても勇気づけられます。

シャルル・ミュンシュやレナード・バーンスタインといった伝説的な指揮者に可愛がられ、自身も世界的な指揮者へと上り詰めていくその裏には、才能や努力はもちろん、独特の愛嬌と「人間を見る目」があるように思われます。そんな小澤征爾さんの人間哲学は、音楽関係者のみならず、広くビジネスパーソンに応用できるのではないでしょうか。

以上、「この春新しい仕事をするにおすすめしたい、ビジネス本じゃない本5選」をお送りしました。反響があれば後編としてもう5選追加します!

おわり

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マーケターのように生きろ: 「あなたが必要だ」と言われ続ける人の思考と行動


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