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「あなたのこの話が聞きたい」とみんなが言うことを書けばいい

noteを始めたいんだけど、何を書いたらいいのか解らない、という相談を受けることがあります。実際に、私はそれなりにnoteを書いているほうだと思います。数えてみると、今年に入ってから今日までの11ヶ月で38個の記事を書いていました。中には注目記事にピックアップいただいたり、Newspicksで「先週多く読まれた記事TOP5」に選ばれたものもあります。noteではなく経済誌に寄稿した記事ですが、ヤフートップに掲載されたものも今年は一本。

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何を書いたらいいかわからない、という気持ちはよくわかります。ブログを書き始めた頃は私もそうだったからです。長い間ブログを書いている友人に相談すると、「自分が書きたいことを書けばいいんだよ」というアドバイスをもらいました。ネット上には数えきれないほどの記事があります。その中で目に留まるには、自分だけの個性が必要なのだと。だから、自分らしく書きたいことを書くことで、個性を解き放つ必要がある。そういう理屈です。

言われた通りにやってみました。私は冷笑的で皮肉の効いた、ウィットに富んだ文章が書きたいと思っていました。カート・ヴォネガットというアメリカの国民的SF作家が大好きなのですが、彼のようなスタイルの文章です。しばらくそのスタイルで続けてみたものの、反響はほとんど無風といった状況が続きました。すぐにモチベーションを失ってしまい、ブログは開店休業状態となりました。

そんなあるとき、著名な編集者さんとビジネスイベントで出会い、少しお話しをさせてもらう機会がありました。一緒にいた知人が、この人の文章面白いんですよ、本を書いてもらったらどうですか? と私を売り込んでくれた際、直接反応を聞くのが怖かった私は、とっさにこんな質問を被せました。「○○さんが著者を選ぶ基準って何なのですか?」。そして、そのときの答えが、私の目を開かせくれたのです。「著者さんを選ぶ基準というか、著者とテーマの組み合わせですね。いい本をつくるのって『誰が』『何を書くか』の掛け算なんです」。

この言葉を聞いて、私のブログが全くの無風状態だった理由がよくわかりました。まず「誰が」ですが、私はアメリカの国民的SF作家ではありません。ヴォネガットの文章はヴォネガットであるからこそ皮肉が効くわけです。そして「何が」ですが、冷笑的で皮肉の効いた文章はあくまで私の好みであり、考えてみれば、自分以外にはそれを好む人にほとんど会った事がありません。はからずも、私は「誰が」「何を書くか」の掛け算の解がとてつもなく小さい文章を書いていたのです。

だいぶ後に、文章を書いてお金をいただけるようになって思い知ったことですが、プロの書き手にとって編集者さんというのは欠かせない存在です。それは、「みんなが『ほかでもない自分から』聞きたがっていること」を客観的に教えてくれるからです。先輩ブロガーのアドバイスはやはり正しいのです。読まれる文章には輝く個性がかかせません。しかし、自分の輝く個性というのは、案外自分では解っていないものです。例えば、自分のお母さんの素敵な個性をあげてみてください。その輝く個性を、お母さんは自分の魅力だと自覚しているでしょうか?

そんな輝く個性を見つけてくれるのが編集者です。しかし、当初の私には編集者などついていません。いまでもこのnoteには編集者がいるわけではありません。そこで考えたのが、「読者やSNSのフォロワーのみなさんに編集者になってもらう」ということです。書きたいことを書く、のではなく、読者やフォロワーのみなさんが私に書いて欲しい、と思っていることを書くのです。それも誰か一人ではなく、最も多くの読者が、私から聞きたいと思ってることを探り、それを記事にする。そんな方針を打ち立てました。

誰か一人ではなく、最も多くの読者が、というのがポイントです。なぜなら、それが私の唯一無二の個性である可能性が高いからです。クラスの友達10人が口をそろえて、私の○○なところが面白いよねと言っていたら、それは(それも)めちゃくちゃ際立った私の個性でしょう。自分ではそれを自覚していなくても、自分が思う個性とはまた別のものでも、輝く個性であることにはかわりありません。輝く個性はたった一つじゃなくてはならない、わけではないのです。

具体的には、二段階で調査をして、「最も多くの人が私から聞きたいと思っていること」を探り出すようにしました。まずはテーマ選びに際して事前の調査をします。ツイッターでアンケートをとることもありますし、何人かに直接話を聞いてみることもあります。ねえ、私から何が聞きたいですか? ということです。そして、記事を作成し公開した後に、反応に耳を傾けます。どれくらい読まれたのか、そしてどう読まれたのか。ツイッターなどに寄せていただいた感想を読んでいると、テーマ選びがうまくいったのかどうかの答えが何となく見えてきます。

そんなことを繰り返していくうちに、自分のスタイルが確立されてきました。すると、目に見えて記事の反応がよくなりました。それがやがて書籍や雑誌の編集者の目に留まるようになって、最終的には雑誌連載や書籍執筆の依頼をいただけるようにまでなりました。ビジネス系の書き手としての私のスタイルは、「エモいビジネス談」とでもいったものです。心が大きく動いた体験談を語り、そのなかで学んだ教訓を紹介する、というスタイル。最後にいくつか記事を紹介させていただいているので、興味が湧いたらお読みいただけると幸いです。

そうして確立したスタイルは、読者や編集者も認めてくれている、書き手としての私の個性です。しかし、私自身は、そういうスタイルで文章が書きたいわけではありません。君のこういう話が聞きたいんだ、というみなさんの声に耳を傾け、それに答え続けることで見つけだした個性なのです。言うなれば、みなさんに見つけてもらった個性です。ヴォネガット流のシニカルな文章を好むのも私の個性ですが、こうしてみなさんに見つけてもらった個性も、今ではとても愛着があります。

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。最後に一つお知らせをさせてください。この記事では、「何を書くか」「何を語るか」をテーマにしましたが、ここで述べたことは「どう生きるか」というテーマにも直接つながってくると考えています。「何を書くか」を見つけるプロセスは、「どうやって人を幸せにするか」「いかにして自分だけの価値を生み出すか」ひいては「何を仕事にするか」のプロセスにもなりうるのです。「個性は人に見つけてもらうものでもある」という考え方に興味をもっていただいた方は、こちらの私の新著も手にとってみてください。

書影

マーケターのように生きろ: 「あなたが必要だ」と言われ続ける人の思考と行動

<文集で紹介したスタイルで書かれた記事>

(東洋経済ONLINE)
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