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史上最高のクリエーターが、史上最高に創造的であった5つの秘訣

史上最高のクリエーターは誰か? 史上最高に創造的だった人は誰か? その答えをめぐっては世界中の人が大喧嘩できると思いますが、私の推しはジャズ・トランペット奏者のマイルス・デイヴィスです。

マイルスはチャーリー・パーカーたちとビバップの創設に携わり、その後クールジャズ、ハードバップ、モードジャズ、フュージョンと新しい音楽の「ジャンル」を次々と産み出しました。一つのジャンルの中で新しい音楽を産み出し続けた人や、新しいジャンルを一つ産み出した人は少なくありません。しかし、一人のミュージシャンが新しいジャンルを次々と確立する、というのは他に例をみません。

マイルスが創造したのは新ジャンルだけではありません。ジョン・コルトレーンはじめ、ソニー・ロリンズ、ウェザー・リポートの創始者ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、ビル・エヴァンス、キース・ジャレット、マーカス・ミラー。ジャズファンのみならずとも名前は知っているであろう彼らは、全員マイルスバンドの卒業生達です。長い音楽の歴史の中で、人材の発掘と育成という点でマイルスと肩を並べる人はいないでしょう。

世界を変えるシーンを0→1で次々と産み出し、自分と同じくらい輝くスターを発掘・育成し続ける。こんな人はどこの世界を見渡しても他に見つかりません。この尋常ではないクリエイティビティは、一体どこから来るのでしょうか。私が考えるその5つの秘訣は、ビジネスをはじめ音楽意外の他の分野にも応用することができるものです。

1. 新しいことに興味を持ち続ける


私が20年前にDJをやっていたとき、レコードを「掘る」という言葉がありました(そう、当時はレコード時代です)。レコード屋に出向き、文字通りまだ見ぬレコードを「発掘」するのです。当時はそれくらい貪欲に新しい音楽との出会いを求めていました。40歳を過ぎた今は、そういう意欲が全くなってしまいました。昔からのお気に入りと、Yoasobiとか髭男などの流行りの音楽を半周遅れくらいで聴く毎日です。

一方マイルスは、晩年ヒップホップに熱中するに至るまで、ジャズの新ジャンルはもちろんのこと、クラシックや現代音楽、ロック、ソウル、ファンクと様々な音楽に興味を持ち続けました。マイケル・ジャクソンやシンディー・ローパーなどのポップスターにも敬意を払い、レコードを聴き込んではコンサートにも足を運びます。こうした子供のような探求心が、いつまでも「変身」を繰り返すマイルスの音楽の原動力になっていたことは疑いありません。

2.プライドに創造の邪魔をさせない


テナーサックスのジョン・コルトレーンは、今やマイルスとも並び称されるジャズの巨人です。もともとはマイルスが発掘し、周囲の反対を押し切ってバンドに入れた無名の新人でした。やがてマイルスの名盤「カインド・オブ・ブルー」などで知名度をあげて独立し、フリージャズという新ジャンルを確立します。すると、マイルスはこのフリージャズに入れ込みます。いわば「弟子が始めた新しいレストラン」に、頻繁に通って味を研究するのです。

またロックの全盛期には、ロックスターの前座になることを申し出て、ロックの殿堂フィルモア・イーストでのライブに出演します。ロックを愛好する白人の観客が、ジャズとロックを融合させた自分の音楽をどう受け止めるかリサーチするためです。いい音楽を生み出すためなら、自分のプライドなどクソくらえだ。私生活ではひときわプライドの高いマイルスが、音楽に向き合うときはそれを一切かなぐり捨てる。その姿勢に圧倒されます。

3.偶然の力を知って信じる


マイルスは、数々の偉大なクリエイションを偶然を通じて産み出してきました。現代では教科書を読んで覚えるような「モードイディオム」という楽理(音楽理論)ですら、ギル・エバンスとの歓談やセッションの中から自然と生み出されました。それゆえ、マイルスはレコーディングにおいても即興を重視します。事前の打ち合わせやリハーサルは一切なし。事前につくっておいた短いテーマを吹き始めると、あとはメンバー同士のアドリブが織りなす化学反応に任せる。それがマイルスのスタイルです。

驚くべきは、そんな直感を重視するいきあたりばったりのスタイルを、バンドのメンバー選びでも実践していることです。信頼できるミュージシャンの推薦であれば、オーディションはおろか録音も聞かないまま、レコーディングやライブに参加させます。そんな独自のやり方で、後のジャズの巨人たちは発掘されていったわけです。まさにマイルスは偶然の力を知り、それを信じていたのです。

4. 自分の自我を殺し、チーム全体を自分自身と考える

マイルスのレコードの中には、マイルスのトランペットが入っていない曲が含まれているものもあります。マイルスは常にグループ全体のサウンドをこそ自分自身のサウンドと考えました。それゆえ、自分のパートやソロが悪くても、全体がよければそれをOKテイクとしました。

私生活でのマイルスは、派手な服に身を包み、スポーツカーを乗り回す強烈な自我の持ち主でした。しかし、音楽ではそんな自我を出さず、というよりはその自我をグループ全体に投影させて、グループ全体を自分自身と考えて演奏しました。大きな仕事はチームでこそ成し遂げられる。マイルスはそれをよく理解していたのです。

5. メンバーの自主性を重んじる

その派手な私生活やインタビューでの態度から、一般的には独善的なイメージがあるマイルスですが、メンバーの演奏に注文を出すことはほとんどなかったと語られます。マイルスのトランペットの音色は「リリカル(詩的でエモい)」と言われます。実はとても繊細な心根の持ち主で、同じアーティストであるメンバーの気持ちを汲み取ることに長けていたのでしょう。

また、偶然が奇跡を生み出すなら、偶然の度あいを高めることで奇跡は生まれやすくなります。メンバーの自主性を重んじることで、マイルスにとっては意図しないこと、予想がつかないことが起こりやすくなります。マイルスはそれを意識して、プロとして意図的に自分の激しい部分、独善的な部分を押さえ込んでいたのでしょう。

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この5つの特性は、私の周りにいる、常に新しいものを産み出しつづけるすごいビジネスパーソンにも大いに通じるところがあります。かといって実践するのは難しいですが、まずは意識し、常に自分で言い聞かせることで、自分もいつかは世界にいい影響を与える新しい何かを産み出したい、と生意気ながら奮闘しています。日々マイルスのアルバムを聞きながら! 新しい音楽を発掘しなくては、ですが。。。

おわり

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