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100万人に1人になるより、100万人にいい影響を与えたい

第一生命が発表した将来なりたい職業のランキングで、小学生の女子を除いて全ての年代で「会社員」がトップだった、というニュースが話題になりました。「夢がない」「野心がない」と将来を悲観する声もありますが、私はこれをむしろ希望だと感じました。

「100人に1人を3つ掛け合わせると100万人に1人になれる。井上さんにとって、その3つとは何ですか?」キャリアの相談に乗っているメンティーからこんな質問をもらい、考え込んでしまいました。100人に1人を3つかけ合わせる、事が難しいのではなく、100万人に1人を目指す、というそもそもの発想に引っかかるところがあったのです。

この「100人に1人のかけ合わせ」理論はSNSでもよく見かけます。ある種のミーム(微妙に変形しなが拡散し続ける話題)になっていて、多くの人の共感を集めている事がわかります。私はこの話を、ただ切り取られたこのフレーズでしか知らないので、これを初めにおっしゃった方の真意は別のところにあるのかもしれません。

そうお断りさせていただいた上で、この「100万人に1人になる」というフレーズに、そして多くの人がこのフレーズに共感しているという事に、私は少し不思議な感覚を覚えます。違和感といっても良いかもしれません。100万人に1人になる事、すなわちいい事という価値観が、私がもう一方で感じている時代の空気とそぐわないと考えるからです。

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日本語のほかにスワヒリ語が喋れて、アンモナイトの鑑定ができる印刷技術者、というのはおそらく相当珍しいでしょう。本当にそんな人がいたら、100万人に1人どころか世界に1人かもしれません。でも、それはただ「珍しい」というだけの話です。そこには「良い」も「悪い」もありません。

100万人に1人という事が、「珍しい」以外の意味を持つには、つまり「良い」「悪い」というベクトルを持つには、「序列」や「排他」の考え方が必要です。

年収がいくら以上の人は100万人に1人です。

日本で〇〇の称号を持つ人は100万人に1人です。

このように、何かを序列を持って評価したり、他のものを排他した集団を話題にする時、100万人に1人は良いことになりえます(人によっては)。

一つの尺度で序列をつけて上位を「良い」とする事だったり、ある排他的な集団を「良い」としその他をそうでないとする事だったりを、決して否定はしません。そうした、言ってみれば「競争の原理」は、これまでビジネスの発展を支え、経済を成長させてきました。

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しかし、それは全ての国、全ての企業が同じ経済的な発展を目指した時代の話です。「個性」や「多様性」を重んじる新しい社会のあり方、そして何より現代にあって個人が幸福を追求するあり方とは、むしろ真逆の発想だよなと思います。

それが単に「100万人に1人」の個性を持つべき、と言う話なのだとしたら、そんな事はわざわざ気にする必要はありません。私たちは全員、生まれつき「76億人に1人」なのです。

序列や排他を抜きに考えると、「100万人に1人」は、別に良い事でも悪い事でもありません。いわば当たり前の事、あるがままの事です。それをそうは受け止めず、良い事としてあえて「目指そう」とする風潮は、個性の尊重や多様性を求める時代の空気とは少しチグハグなところがあります。これが私が感じた違和感の正体です。

100万人に1人。

なんて、本当に目指す必要があるのでしょうか?

それは誰に良い影響を与え、誰を幸せにすることなのでしょうか?

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100万人にいい影響を与えるのに、100万人の人を幸せにするのに、100万人に1人の人材になる必要はありません。なぜなら、いい影響や幸せは、誰かが誰かの分を排他的に受け持っているわけではなく、1人の人にいくつも折り重なる事ができるからです。

お医者さんの数は全国に約32万人なので、400人に1人ということになります。自衛官の数は約25万人なので500人に1人。学校の先生の数は約145万人なので90人に1人。でも、それぞれ400人、500人、90人を超えて沢山の人にいい影響を与えています。

お医者さんに救われた人、 自衛官に命を助けられた人、学校の先生に人生を変えてもらった人がいるでしょう。その人たちがまた別の人に与えるいい影響を考えると、お医者さん、自衛官、学校の先生の中には、実際に100万人にいい影響を与えた人も沢山いるはずです。

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私はどうせならそういう人を目指したいな、と思います。

100万人に1人の優れた人、ではなく、100万人にいい影響を与えられる人。

100万人を幸せにできる人。

それは、この世界に何人いてもいいのです。ナンバーワンである必要も、オンリーワンである必要もないのです。そしてもちろん、幸せにするのは100万人じゃなくったって構いません。自分にできる最大限、でいいのです。100万人に1人、と言うときに、100万には「とても多い」という意味しかないのと一緒です。

そしてそれは、もちろんお医者さんや自衛官や学校の先生じゃなくてもいいのです。私自身がまさにそうですが、「普通の会社員」だって、自分が関わる仕事で1万人、10万人、100万人を幸せにする事ができます。子供たちはそんな新しい価値観に、大人たちよりずっと敏感に気づいているのかもしれません。

だとすれば、それは大きな希望です。

おわり

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