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ペットが死ぬ喜びと、悲しみ

始まれば終わる。出会いがあれば別れもある。
人間関係の繋がりを現した言葉は数あれど、すべて生と死に収束するのではないかと思った。それとは別に、人の心は虹のようで、自分自身でも己のことをよく分かっていないのだなと思った。

朝起きると、ペットのハムスターが仰向けで固まっていた。今は冬だ。
冷気が当たらないような場所にケージを置いたり、電気毛布を掛けたりはしているが、寒いことには変わりない。
直感的に、「あっ、死んだな」と思った。
1分間ほどケージを揺らしたり、大きな音を立てたり、声をかけたけど反応はなかった。正直、これらの行為に意味があるとは思えなかった。ハムスターが巣以外の場所で寝ることはほとんどない上に、仰向けで身体をよじっていた。ポンペイの町に火山灰が降り注いで、街中の人が亡くなった災害のドキュメンタリーを、15年くらい前に見たことがあった。みんな、身体をよじっていた。苦痛に悶えたとき、人は身体をよじるのかな、と思ったように記憶している。このハムスターも、同じように苦しかったのかなと思った。
ケージを容赦なく揺らすと小さな身体がその形のまま、ケージと同じように揺れた。死後硬直かな、寒いから固まったのかな、と思った。
せめて、すぐに埋めてやろうと庭に向かって、刑事ドラマで犯人が死体を山に埋める時でしか見たことがない大きなシャベルで穴を掘った。かなり大変だった。人だったら、もっと大きな穴だから、朝までかかるなぁと思った。

ハムスターは1年9か月くらい飼っていた。かなり可愛がっていた。餌をあげる時に少し触ったり、いろんな種類のおやつをあげたりした。うちのハムスターは煮干しが嫌いだった。リンゴチップが好きだった。平均寿命が2年から2年半ほどだから、もう寿命も近いとは思っていた。ハムスターが死ぬことを考えると悲しくなった。
でも、実際に死ぬとあんまり悲しくはなかった。
「面倒なケージの掃除はもうしなくていいなだな」とか「もう餌代かからないな」とか「予備でストックしていた新品のトイレ砂はメルカリで売れるのかな」とか考えていた。
掘れた穴は、シャベルのサイズに見合わず小さかった。アリの巣と近かったのか、穴から4~5匹の蟻が出てきた。埋めたハムスターはこの蟻たちが食べるのだろうか。

ハムスターの亡骸を取りに部屋に戻って、最後にもう一度だけケージを揺らした。もう死んでるんだから、と決心し、かなり強めの力で揺らした。
その時、隣にいた妻が「足動いた!!」と言った。
もう一度揺らすと、足がぴくぴくと動いた。まだ生きている。なんだか嬉しくなった。ほっとした。まだ助かる。
調べてみると、ハムスターは寒すぎると冬眠をするらしい。けど、冬眠するとほとんどの個体は死ぬらしい。なんだよそれ、と思った。
ドライヤーの温風を遠くから当てると目を覚ますとネットに書いてあった。
10分ほど当てると、徐々にぴくぴくと手足を動かすようになった。15分後には、いつも通りケージ内を走り回っていた。おやつのリンゴチップをあげるとバクバク食べた。つい30分前まで死にかけていたようには見えない。ケージの下にも電気毛布を敷いた。暑くなりすぎるといけないから、床材を少し増やした。

良かった。生きてて、と思った。少し泣いた。


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