『ふしぎ <霊験>時代小説傑作選』誕生秘話【番外編】~"ふしぎ"の不思議~
9月8日発売の『ふしぎ<霊験>時代小説傑作選』は、2017年11月刊の『あやかし』に始まる、現役女性作家による時代小説アンソロジー第9弾。今回は、シリーズ全冊が重版出来という快挙の"ふしぎ"を、元PHP文芸文庫編集者でもある広報担当者が語ります。
複数の作家による短篇集は当たり外れが激しく、うまくいかないことのほうが多いといわれています。にもかかわらず、シリーズ化されて、最新刊の『ふしぎ』まですべて増刷がかかり、累計29万部(9月15日現在)というのは稀有なケースといえます。
最新刊『ふしぎ』では、「〈霊験〉時代小説傑作選」のサブタイトルのもと、江戸の町を舞台にした"ふしぎ"な物語を5篇収録しています。「睦月童」(西條奈加)、「潮の屋敷」(泉ゆたか)、「紅葉の下に風解かれ」(廣嶋玲子)、「紙の声」(宮本紀子)、「遺恨の桜」(宮部みゆき)というラインアップです。
ここからもおわかりのように、ご執筆の先生方全員が、いま活躍中の女性作家であること、編者である文芸評論家の細谷正充氏による、そのときどきに応じたテーマ設定と作品選定の妙が、成功のカギといえそうです。
細谷氏は本書の解説に、こう記しています。「なかでも売れ行き好調なのが、『あやかし 〈妖怪〉時代小説傑作選』と『もののけ 〈怪異〉時代小説傑作選』だ。やはり妖怪やホラーを題材とした作品は、根強い人気があるのだろう」。そして今回の『ふしぎ』は、その流れに連なるとし、妖怪や幽霊だけではない幅広い"ふしぎ"を堪能できるようにしたと紹介しています。全巻に作品を提供された宮部みゆき先生はじめ、ベテラン、中堅、若手からのバランスのいい作家陣の起用も、編者に負うところが大きいといえます。
参考までに、これまでの全シリーズの書名を紹介すると、『あやかし』『なぞとき』『なさけ』『まんぷく』『ねこだまり』『もののけ』『わらべうた』『いやし』『ふしぎ』。題名をすべて平仮名で統一し、装丁の雰囲気もシリーズらしさを損なわないよう工夫されています。
本シリーズは2019年度を除いて年間3冊ずつ刊行され、2021年度も7月から9月にかけて『わらべうた』『いやし』『ふしぎ』と続けて発刊、3シーズン目を終了しました。このあたりは、編集部および担当編集者の周到な戦略が奏功しました。
「そういえば本書が刊行される頃には、東京オリンピックとパラリンピックが終了しているはずである」。細谷氏は、その後も厳しい現実が続いているはずだとしつつも、「だからこそ、フィクションの力を信じたい。ほんの一時でも"ふしぎ"な世界に遊んで、心をリフレッシュしてもらえたら」と解説を締めくくります。小説を扱いながら、つねに現実と寄り添うことを忘れない姿勢こそ、このアンソロジー・シリーズ成功の源泉といえます。
編集部によると、今後もシリーズの刊行は続くとのこと。愛読者のみなさま、最新刊『ふしぎ』を読みながら、どうぞ次の発刊をお待ちください。
広報担当としても、1冊ずつではなく、あくまで「9巻のシリーズ」として、引き続きPRしていきたいと思います。
マーケティングコミュニケーション部 広報課 根本騎兄