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<第22回>‟世界最強のゲーマー経営者”のビジネス・テクニック

『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』 
ほぼ日刊イトイ新聞著(ほぼ日)

❶イントロダクション~岩田聡さんを知っていますか?

本書は2019年に発刊された任天堂㈱の元社長、岩田聡さんの「ことば」をまとめた一冊です。
岩田さんは世界に大きな影響を与えた日本人の一人、と言ってもいいでしょう。2015年7月11日に亡くなられたとき、世界中で大きく報道されたことを覚えている方も多いのではないでしょうか。

この本には、天才プログラマーとして、また任天堂の社長として、「ニンテンドーDS」や「Wii」といった革新的なゲーム機をプロデュースした岩田さんの、クリエイティブに対する思いや経営理念、価値観などが凝縮されています。

今回も、本書の「はじめに」から、気になった部分を抜粋してみます。

"岩田さんは、自分を主役にしてメディアで語ることをほとんどしない人でした"
"この本に掲載している岩田さんのことばのほとんどは、ウェブサイトにいまも散在している"
"わたしたちは、いま、そして未来に、岩田さんのことばをまとめた本が求められていると強く感じた"
"本のなかに掲載したどのことばにも、岩田さんの思考と哲学がとけています。それはいまでもわたしたちを勇気づけますし、とてもリアルに行く道を示してくれたりもします"

本書は、一見すると、ビジネス書には見えないのですが、間違いなくビジネス書だと思います。装丁も少々かわいらしく、独特な雰囲気がありますが、紛れもなくビジネス書です。
倒産寸前だったHAL研究所(ゲーム制作会社)の再建も行なった名経営者である岩田さんの思考法をはじめ、実際に行なった任天堂の改革についても書かれており、ビジネス・テクニックとも言える"合理的"手法を学べる本ともなっています。

では早速、読み解いていきましょう!!

❷独断と偏見のお勧めポイント:岩田さんの経営哲学を知っていますか?

おもしろさを見つけることのおもしろさに目覚めよ

あらためて、になりますが、本書は岩田聡さんのさまざまなインタビューやコンテンツで発した「ことば」を集めた本です。ですから、実質的に任天堂の元代表取締役社長の本、と言ってよいかと思います。発売前から、そして発売後も、たいへんな反響があったことは言うまでもないでしょう。
ちなみに、海外での翻訳・発刊もかなり進んでいます。

今回は、とくに「経営」に関わる内容が多い第2章(岩田さんのリーダーシップ)を中心に、「これは!」と思ったことばをピックアップして、要約していきます。厳選していますが、岩田さんの「経営」や「仕事」の考え方が、ちょっとだけ理解できると思いますよ!

"人と人が仕事をするためには、最低限、苦手だろうがやってもらわないと困る、ということを決めないと一緒に働けないんですね。その「最低限のこと」を、ちいさくすることが、経営者としてただしいんじゃないかなと思うんです"

"仕事って、「ボトルネック」といわれる狭い場所ができてしまって、そこが全体を決めちゃうんですよね。ボトルネックより太いところを直したとしても、全体はちっとも変わらないんです"

"人は、手を動かしていたほうが安心するので、ボトルネックの部分を見つける前に、目の前のことに取り組んで汗をかいてしまいがちです。いちばん問題になっていることはなにか、ということが、わかってから行動していくべきです"

"成功を体験した集団を、現状否定して改革すべきではないと思います。改革は現状否定から入ってしまいがちですが、そうするとアンハッピーになる人もたくさんいると思うんです。だって現状をつくりあげるために、たくさんの人が善意と誠実な熱意でやってきたわけでしょう?"

"不誠実なものについて現状否定をするのはいいと思うんですけど、誠実にやってきたアウトプットに対して現状否定をすることは、やってはいけないと思うんです"

"自分たちがつくるものに対して、最初、お客さんは、たいして興味がないどころか、まったく興味がない。いつもそこから、はじまる"

"仕事って、おもしろくないことだらけなんですけど、おもしろさを見つけることのおもしろさに目覚めると、ほとんどなんでもおもしろいんです。この分かれ道はとても大きいと思います"

どうでしょう?
シンプルに経営や仕事のポイントを突いていると思いませんか? 私は、「そのとおり!」と頷いてしまいました。

じつは、ほとんど岩田さんの話し言葉のまま、本文には掲載されています。読んでいて、ちょっと読みにくい、回りくどい部分もあるのですが、そこから岩田さんの人柄や優しさが読み取れることを、つけ加えておきます。

❸深掘りの勧め:岩田さんの有名伝説を知っていますか?

『MOTHER2』の破綻を救ったある提案

最後に、あの「有名なことば」について触れていきたいと思います。

スーパーファミコン用のコンピュータRPG『MOTHER2 ギーグの逆襲』(1994年8月発売)の制作が破綻しかかっていたときに、当時、HAL研究所の社長だった岩田さんが、助っ人プログラマーとして呼ばれました。
ひととおりお話を聞かれたあと、岩田さんは、
"「今あるものを生かしながら手直ししていく方法だと2年かかります。一から作り直していいのであれば、半年でやります」"
と、「有名なことば」で提案されます。
字面だけだと高圧的に感じてしまいますが、実際はすごく感じがよく、全然威張っていなかったそうです。むしろ、下から目線だったとか。
制作スタッフの意思を尊重して、二つの提案をされたのが、すぐわかったそうで、
"初めて会う人なのに、この人の言うことは信じられる、と思った"
と、のちに糸井重里さんは語っています。

これだけでもすごいエピソードなのですが、さらにすごいのはここからです。

岩田さんがまずつくったのが、「スタッフの誰もが修正作業に取りかかれるツール」です。自分ひとりで黙々と作業されたわけではないのです。
そんな方法があるのか! と、みんな驚かれたそうです。そのおかげで現場がまた明るくなって、活気が戻り、「やればできるぞ!」とみんな思えたことが、当時、スタッフは嬉しかったそうです。

これは経営再建にも言えることなのですが、すべて自分でやる必要はないんです。
タスクワーカーになりがちな、現場のスタッフの士気を高めることの重要性を教えてくれるエピソードですね。

『MOTHER2』の制作現場ではほかにも、岩田さんはいくつか有名なことばを残されています。

"「プログラマーはノーと言ってはいけないんです。どうやって実現させるか考えるのは、ぼくらの仕事ですから」"
"「コンピュータにできることは、コンピュータにやってもらえばいいんですよ。人間は、人間にしかできないことをやりたいんですから」"

このほかの岩田さんのことばも、ほんとうに参考になりますよ。
興味のある人は、ぜひ読んでみてください!

◆今回の名言◆

「少なくとも一度は人に笑われるようなアイデアでなければ、独創的な発想とは言えない」
ビル・ゲイツ(1955年~/実業家、Microsoftの共同創業者・会長、ビル&メリンダ・ゲイツ財団共同会長)

さすがに彼からこう言われると、「独創的」の具体的なイメージが湧いてきますね。笑われるだけでなく、もちろん、そのアイデアを実現させてこそ、の話ですが。

★おまけ★最近読んでいる本

『アサヒビール30年目の逆襲』 
永井 隆著(日本経済新聞出版)

「スーパードライ」を超えろ!
過去の「成功体験」にとらわれ、「聖域」が存在する企業が多いなか、2016年ごろから、アサヒビールには缶チューハイから第三のビール、糖質オフなどのイノベーションが、じつは重なって起こっていた! マーケティングから研究開発、営業の現場までの変革の模様は、手に汗握る展開ばかり。お勧めです。


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