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『ロシア点描』誕生秘話

小泉悠先生の最新刊、『ロシア点描』が好評発売中です。その発刊経緯を、担当編集者が語ります。

2022年2月24日。ご承知のように、ロシアがウクライナに侵攻を始めた日です。本書の著者・小泉悠先生は、以前から「これほどの規模でロシア軍が展開されるのを見たことがない」と、開戦の可能性を示唆されていました。にもかかわらず、私は「まさか……」と高を括っていました。

いまにして思えば、甘かったといわざるをえません。21世紀の現代に、日本の隣国であるロシアが戦争を始めてしまった。この事実は、永久に動かしようがありません。第二次世界大戦以後、かろうじて続いてきたアメリカ・ロシアの均衡による平和、いわば「戦後」の時代が終わってしまったショックに、打ちひしがれる思いでした。
小泉先生にはかねてより、ロシア人の衣食住をめぐるエッセイを依頼していました。当時の打ち合わせの雰囲気はのどかなもので、先生の研究室でコーヒーを飲みながら、謎めいたこの国の魅力について、談笑しつつ教えていただいた幸せな時間を、いまでもよく覚えています。
ところが本書の内容は、プーチン大統領の蛮行によって色合いを変えました。新型コロナウイルスの蔓延下にある私たちが現状、ロシアを観光で訪れることはかないません。なにより頭に浮かぶのは、突然、ロシア軍の攻撃によって住む家、町、国を離れざるをえず、避難を強いられるウクライナ人の悲しみです。日本人のロシアやロシア人に対するイメージも、好ましくないものに転じたかもしれません。
でも、だからこそ私たちは、この本を手に取っていただきたい。冷酷な指導者に対する憤りが、そのまま他国への憎悪につながってはならないからです。ロシア「政府」とロシア「国民」は違う。この当たり前の事実を前に、むしろいまこそ「ロシアという国は何なのか」について、理解を深める必要があるのではないでしょうか。

連日のテレビ出演やインタビュー、寄稿によりご多忙なのにもかかわらず、小泉先生は原稿を最後まで書き上げ、次のようにおっしゃいました。「自分のロシアに対する『愛』を表現したい」。その真意を、書店のみなさんや読者の方々に、一人でも多く感じ取っていただければ幸いです。

第一事業制作局ビジネス・教養出版部 人文社会課 白地利成

4月号