伝わる緊張 〜旅する写真家のミャンマー旅日記

旅は一期一会 いくらフレンド、と言われても

バンコクの空港で一泊して、ようやく翌朝にヤンゴンについた。空港で「タクシー!!」の掛け声をすり抜けて、歩いて空港の外に出てみる。アジアにきた。日差しは強く、眩しい。またミャンマーの地を踏むことができた。シャッターを押しながらも、そんな嬉しさが溢れ出ていた。

ざっくりと行こうとするところは決めていたが、ちゃんとは決めていない。途中からバスに乗っても、しばらく赴くままに歩いてみよう、そう思った。

 空港から出た外の景色は、ヤンゴンの中心で見るそれとはまた違って、なんとなく庶民的な暮らしが見え、楽しくてしょうがない。でもほどなくして、一人の青年と出会った。目があうとどちらからともなく、話す雰囲気になっていた。自然と口が開く。とはいっても、おたがいの言葉がわかるわけでもない。とりあえず、長距離バスターミナルに行きたいんだけど、どっち?とあやふやなミャンマー語で聞いてみる。そういうつもりで言ったんじゃない、そう思ったけれど、彼はバイクでバスターミナルまで行ってくれるという。もう少し歩きたい気持ちもあったが、彼なら、旅は一期一会。そう思ってついていくことにする。

 バイクにまたがり、走る。途中線路を渡り、大きくない道を何回も曲がる。僕は彼の背中でミャンマー語を少しでもおばえたい。そんな下心から、僕はミャンマー語の本を見ながらいくつも、の単語を投げかけた。取り合えず名前は聞いたが、それ以外のことはまるっきりダメだ。名前だって聞いた数秒後には難しく、なんども聞いていた。僕がミャンマー語で何か聞こうとして、わからない、そんなやりとりをしていたが、運転中だというにもかかわらず、彼は後ろに手を出し、本を見せろという。バイクを運転しながら本を確認する彼。もし何か飛び出してきたら、きっとひいてしまう。危ないったらない。そうはいっても彼は親切で、好意的だった。それに青年は、やたらと物をくれようとする。小さな額のお金、最初はミャンマーのだと思ったら、後でよく見るとロシアのお金、それもピン札に近いものだった。代わりに日本のお金をくれと言われるのかと一瞬思ったけど、違った。いいよ、いいよ、って言っていたけど、そうして僕は折れた。僕はバイクを運転しながら渡す、そのお金を財布に入れた。今度は自分のサングラスをくれようとした。それはさすがにもらえない。いくら、フレンド、と言われても。しかも、僕には必要のない物だった。


伝わる緊張

アウンミンガラーバスターミナルというヤンゴン最大の長距離バスターミナルに着いた。とりあえず僕は、ゴールデンロックに行こうかとバイクに乗りながらも考え、何となく心を決めたので、彼にそこへ行くための玄関口となる町、キンモン(キンプン)へ行くバス会社の前まで行ってもらった。このバスターミナルはなにせ広い。バス会社がぎっちりと立ち並び、その前に自社ますが止まる。ヤンゴンからミャンマー各地に行くのだと思うが、端からはじまで歩いたらどれくらいかかるだろうか。とにかく広い。

 一時間後のバスに乗ることにしたので、それまで、この広いバスターミナルを歩いた。お金を払って、バスチケットを買ったわけだし、ここに戻ってくる必要がある。絶対に迷うことはできない。それくらいに、ただただバス会社の立ち並ぶ路地、並ぶ大型バス。同じような景色がずっと続く。

 僕は慎重に、通過する道を数えたり、必要以上に、うろちょろと周りを見て、迷わないための情報をたくさん得ようとしていた。バスターミナルらしく、道々には、たくさんのレストラン、露天があった。フルーツを売っていたり、ティッシュや水、バス旅に必要なものは揃いそうだった。

 僕は何人か、心惹かれると思った人に声をかけ、写真を撮る。まだ旅は始まったばかりで、僕自身ものすごく緊張している。でも僕は写真を撮りに、この美しい人たちの、心揺さぶられる景色たちの写真を撮りに、ここミャンマーにやってきた。僕は緊張という感情、気持ちを少し麻痺させて、彼女に近ずく。声をかけてしまえば、もうやるしかない状況。ある意味で僕はハイになっている。なんでもあり、もうどうにでもなれ。


  僕の緊張が、彼女にも伝わる。でも、僕は静かにシャッターを押し続ける。そうしたら、カメラとの息が急に合わなくなって、シャッターが一瞬きれなくなる。オートフォーカス(カメラのピントを自動で合わせてくれる機能)がとっさに追いつかなくなったのだと思うけれど、写真を撮ることに舞い上がっている僕は、焦る。必死に。なぜこんな時に、と思うが仕方がない。それを彼女にもわかるようにやとりあえず指をくにゃくにゃダンスさせ、この最悪にタイミングの悪い状況を表現した。そうしたら、文字通り、くっくっくっ、と笑ってくれたのだ。その後すぐに、カシャ。ちゃんとシャッターが切れた。

思ったより時間が経ってしまったようだった。チェーズーデンマーレ。
ありがとうございます。

そう言って、バス会社へと急いだ。



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