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#19 カレーに合う飲み物は本当に唾液か?中野のroji spice&_で見た、突き抜けたスパイス前菜とカレー

毎週月曜更新、勝手にカレー哲学。
「カレーに合う飲み物は何?」と聞かれると反射的に「唾液」と答えてしまう私です。


認識が世界を作るので、感覚器官である自分の身体が読み取って構成したものが世界だ。
だから感覚をエタノールなどのドラッグで歪めようが何しようが、それはそのとき感覚された世界に他ならないわけで、相対的に違いはあれど「正常な感覚」というものはどこにも存在しないんだと思う。


さらには、スパイスというのも身体に作用を及ぼすという意味で遠からずドラッグの一種だ。そうでなければこれほど多くの人が中毒になり、禁断症状に悩まされる説明がつかない。そしてドラッグとドラッグのチャンポンはあまり良くない。


常に、ベストコンディションでカレーに向き合い、クリエイターの想いを真摯に受け取めたい。そういう理由でカレーを食べるときは基本的に酒を飲まないようにしている。

ただ、最近増加中のスパイス料理の充実したダイニングバーではちょっと飲んでしまうこともある。それがクリエイターの想いだと思うので。


中野の路地裏にあり、古民家風のこじゃれた外見のroji spice &_は卓越したスパイス料理が楽しめるダイニングバーだ。ワイン類も充実しており、デートにも使えそう。


それぞれのスパイスをテーマにしたスパイス前菜があり、大変魅力的である。

例えば、カスリメティとカラスミ香るしいたけのロースト。運ばれてきたときに立ち上るカスリメティ。かみしめるとお汁がじゅわっと。
バタチキの仕上げなんかによくまぶされているあれだが、こんなにシイタケに合うものだとは知らなかった。

さらにカレーリーフ香るひとくちポテトサラダのパニプリ
パニプリと言えばインドでよく食べられているストリードフード。サクサクのプリの中にタマリンドの汁が入れられ、ヨーグルトやコリアンダーチャトニなんかと一緒に食べるさっぱり系スナックだ。
そこにポテトサラダが詰められている。ちりばめられたカレーリーフが香る。

タイ料理好きの人にお勧めしたいのが紫キャベツとバイマックルーのマリネ。ホールのコリアンダーの香りと刻まれたばいまっクルーの葉っぱの香りが、紫キャベツとこんなにも合うなんて。

ほかにもフェンネル香るズッキーニのサラダシナモン香るゴルゴンゾーラのムースなどをいただいた。


すべて食材を引き立たせるためにスパイスがあり、スパイスを引き立てるために食材があるのだと思い知らされるような料理。
今まで全く知らなかった意外な組み合わせの料理を食べて、センスに脱帽するとともにいつまでも実験精神を忘れてはいけないと肝に銘じることとなった。

前菜を楽しんだ後はもちろんspiceカレーだ。全部で4種類のカレーがあり、フルとハーフのサイズが選べる。4種すべてのカレーをいただいた。
先鋒はポークビンダルー。酸味と辛みはそこまできつくなく、むしろ甘みと苦みを感じるようなタイプのビンダルーだった。ビンダルーは店によって振れ幅が大きく、何が正解なのかはわからないがいつも美味しいビンダルー。


次鋒ココナツ。軽く炒めた玉ねぎにココナツミルクで仕立てられたカレーで、具はあと添えのトマトやホウレン草など。
濃厚でごはんによく合うタイプのカレー。ほかのカレーと混ぜつつ、若干マイルド感を出す要素として使ってもいいかもしれない。


さらに中堅ラッサム。ラッサムというと店によっては真っ黒な黒コショウ汁が出てくることもあるが、ここはトマトベースのどろどろラッサムだ。日本米に合う、単体でも満足感をもって食事を完結できるようなラッサムと言えようか。

そして副将、グリル野菜とチキン。うーん、滋味深くうまい。チキンの出汁が強調された感じのシャバシャバスープタイプカレーが心の琴線に触れる。人生の最後には骨をしゃぶりながら死にたい。


おっとここで注文から50分かかる実山椒香る燻製ホタテとシラスのビリヤニが着皿。山椒が実のまま入っているので、すかさずむわっと立ち上る柑橘系の香り。パラパラと仕上がった長粒米の炊き込みご飯は、今まで食べたどんなビリヤニとも違う。

このビリヤニといいスパイスを意外な組み合わせで限りなく生かした前菜といい、どこかに似ているなと思ったら、噂によるとやはりスパイスカフェで修行された方のお店らしい。素敵なTシャツも販売中。


カレー談義にも花が咲き、生きる力をもらった夜だった。
特別な夜にお祝い事をするんじゃなくて、お祝い事をするから特別な夜になるのかもしれないね。



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