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水と共に挽いた時、スパイスの香りはより強まるのか?チェティナードチキンカレーの場合【カレーのカガク】
チェティナード料理を作る際に「ウェットマサラ」を作る工程が入るレシピがいくつかある。「ウェットマサラ」というようなはっきりした名称がついていないこともあるが、文字通りスパイスをローストして香りを立たせた後、水を入れながらミルサーなどでグラインドする方法である。
これはチェティナード料理特有の調理法というわけではないと思うのだが、チェティナード料理について調べていると頻度高く登場する方法である。
なぜスパイスを挽くときに水を入れるのだろうか?以下の2つの目的があると聞いたことがある。
・スパイスの総量が多いので水を加えてペースト状にし、強火でボコボコ煮立てることで食べやすくする。
・水と一緒に挽くと香りが飛びにくい
南インドのカライクディを訪れ、実際にチキンコロンブを作ってもらって食べた時、たしかに水を入れながらウェットマサラ方式でマサラを挽きながら料理を作っていた。口に入れた後の香りにおいて芳醇なアロマをより感じられる気がする。(個人の感想です)
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本当にウェットマサラ方式でスパイスを挽くことで香りが立つのだろうか?確認するため、簡単な比較実験をしてみた。
実験方法
こちらのレシピを使用し、チェティナードマサラの材料は同じで挽き方を変え、3種類を作り比べてみた。
①レシピ通り、スパイスをローストした後ミルサーで水を加えながらペーストを作る。
②スパイスをローストした後アンミッカルを使用。最低限の水を入れながら挽き、手でまとめながらスパイスペーストを作る。
③油を加えずにドライローストしたあと、ミルサーでパウダーに挽いて使ってみる。
この実験から次の二つのことがわかるはずだ。
①と②を比較したとき、水を加えてウェットマサラを作った時の器具に由来する差分がわかる。すなわちミルサーで挽く場合と石臼で挽く場合でどのような影響が出るのか。
①と③を比較すると、ミルサーでスパイスを挽くときに水を加える・加えないかが仕上がりの香りにどのような影響を及ぼすのかがわかる。
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①スパイスをローストした後ミルサーで水を加えながらペーストを作る
レシピ通り、スパイスをローストした後最小限の水を加えながらミルサーでペーストを作る。ガガガッという音を立てて、刃が削り取るようにスパイスを粉砕している。出来上がったものを見ると大きめの粒が残っているように思えるがそれ以上は細かくならなかった。
ミルサーだと挽くのにそれなりの量の水が必要となり、薄くなりがち。
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②スパイスをローストした後アンミッカルを使用して挽く。
最低限の水を入れながら挽き、手でまとめながらスパイスペーストを作っていく。アンミッカルは石板と棒で構成されているが、スパイスを押し潰したら棒を回転させず滑らすように潰して回していくことがポイント。
アンミッカルを使うと砕けたスパイスが散らばり、粉砕しにくいが、ミルサーよりも少ない量の水でペーストを作ることができる。
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③スパイスをローストしたあと、ミルサーでパウダーに挽く
軽く乾かすようにスパイスをローストした後、ミルサーでパウダーに挽く。いわゆる通常のマサラの作りかた。
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結果
マサラ以外は同じ条件で調理して食べ比べてみた。テクスチャはほぼ同じだが、色がちょっとずつ違う。
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①スパイスをローストした後水を加えながらミルサーでペーストを作る
食べる前の香りが強く、辛味も強いがいろいろな香りが一気に同時にやってくる印象。滑らかな舌触りである。
②スパイスをローストした後アンミッカルを使用して挽く
食べた時の最初の印象が控えめだが、食べているうちに後からだんだんと香りがわかってくる感じ。手作業なのでどうしても大きめのスパイスの粒が残っていて、噛み締めたときにちょっと固い時がある。
辛味はマイルドで丸い印象がする。
③スパイスをローストしたあと、ミルサーでパウダーに挽く
辛さだけが引き立っている印象。全体のスパイス感としては①より弱く②より強い。
考察
立ち上る香りの強さが①>③>②となったのはなぜか(ミルサーでスパイスを挽くときに水を加える・加えないかの差分)
仮説に過ぎないが、水を入れることで
・水溶性の香り成分を水に溶出させて捕まえられる
・温度が上がりすぎて揮発する成分を減らせる
・スパイスの粒が滑らかになる
のかもしれない。
ミルサーで挽く場合、スパイスの温度が上がりすぎて香りが飛んでしまうということがよく言われる。そのため温度が上がりにくい石臼で挽くといいと言われるのだが、手作業と機械作業では挽かれる細かさが全く違うので②より③の香りが強くなった。(仮に同じ細かさまで挽け他なら②の方が香りが強いはずだ)
同じミルサーを使用した①と③を比較した場合①の方が香りが強かったのは上のような理由でスパイスの香り成分が揮発せずに残っていたためかもしれない。
食べた時の鼻から抜ける香りの強さが②>①>③となったのはなぜか(水を加えてウェットマサラを作った時の器具に由来する差分)
ミルサーは刃が回転してスパイスを切断する仕組みだが石臼は押しつぶす形になるので、香気成分が含まれている細胞は満遍なく押しつぶされる。ニンニクのみじん切りと押し潰しの比較を考えてみるとわかるのだが、潰したほうがニオイが強くなる。
ただ、手作業なので②はつぶれていない細胞が多く、食べたときに奥歯で潰されたあまり挽かれていないスパイスから香りが飛び出してきただけではないか。
どのように使い分けるべきか
今回、作り比べたものを数人に食べてもらって感想を話し合ったが好みは分かれた。個人的にはアンミッカルでスパイスを挽く手間もあるだろうが②のカレーのスパイス感が奥ゆかしく最も好みだった。
辛味の感じられ方はかなり差分があった。(③>①>②)これは単純に唐辛子が挽かれた時の粒子の細かさによると思う。
流石に毎度アンミッカルでスパイスを挽くわけには行かないと思うが、スパイス感を強めたいときや唐辛子を強調しすぎたくない時、ミルサーに水を入れてウェットマサラを作って使ってみることでいつもと違った仕上がりのカレーが作れるかもしれない。
まあそこまで考えた上で水を入れてマサラを挽いていたのではなく、単純にアンミッカルで作業する上で水を加えた方が挽きやすいからではないかとも思う。
今回のtopicsに関してThe Bangalaで料理を教わった先生に聞いてみたところ、サンバルパウダーなどのマサラはパウダーでいいがココナッツが入るものはペーストにしないといけないという。
「スパイスの総量が多いから水を入れる」という説に関してだが、マサラをペーストにすることでスムースな食感になり、マサラの香りと味がよく出るといわれている。今回の食べ比べに関しては確かにそうだったかもしれない。
皆さんもやってみてください。
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