見出し画像

【アルバム紹介】Dreamland / Alexis Ffrench(2020)

ご無沙汰でした。これからもがんばって更新していくので、どうかご贔屓に。

さてさて、今日は、今一番キテるクラシック・クロスオーバーのアーティスト、Alexis Ffrench(アレクシス・フレンチ)をご紹介します。映画「人魚が眠る家」の劇伴を担当した人です。

とにかく、クラシカルでありながら、新しい。おすすめです。

クラシック・クロスオーバーについて

さて、まずジャンル説明からします。

クラシック界の3つの方向性

私見ですが、「(広義の)現代クラシック」と呼ばれるもの(≒新譜)には3つの方向性があると思います。

  1. 狭義の現代クラシック(または単に現代音楽と呼ばれるもの)
    →「現代美術」に対応するもの。ベートーヴェンとかの時代からのクラシックの延長線上で、芸術性を極めていったキワモノたち。ものすごく先鋭的。服で言うパリコレ(?)。(私の感性では)分かりそうな気がしつつも、結局のところ全く理解できない作品群。

  2. 往時の伝統的なクラシックの様式に則って作曲されたもの
    →古文で言う、「擬古文」のような奴らですね。現代音楽のようには極まっていかず、古き良きしきたりに沿って書かれた新譜。逆に言うと偽物の化石。

  3. ポピュラーに寄ったもの
    →後述。

興味を惹くように、ちょっと面白おかしく書きましたが、この3つが主だった方向性だと思います。

ちなみに、1の具体例として有名なのは、これですね。

クラシックとポピュラー音楽の融合

さて、ポピュラー音楽の業界では、hyperpopというものが花開いていますが、もちろんクラシックにもその波が。

クラシックはハイカルチャーなので、なんとなく若者から敬遠されている向きもありますが、EDMでもPopsでも、近現代音楽の大元を辿るとルーツはクラシックに行き着きます。もちろん、それ以前にもそれ以外にも音楽はあるんだけど、語学でいうところのラテン語のようなポジションです。
※ハイカルチャー:誤解のある雑な言い方では、要するに「習い事」として習う系の文化。クラシック音楽、茶道、華道等々。

クロスオーバー

で、クラシックと他のジャンルの融合したものが「クラシック・クロスオーバー」。ジャンル名というには少し広くて曖昧すぎる。hyperpopのように特定の様式を指しているわけではないです。
※hyperpopを特定の決まりきった様式というと、関係者はカンカンに怒るでしょうが、ジャンルというのはそういうものですよね。

Wikipediaによれば、有名なのは例えばこれ。確かにそうだ。

他にも、映画の劇伴とかも、クロスオーバーのものがたくさんありますね。

アルバム紹介

なんだか、既に文字数過多な気がしますが……。

作曲者のAlexis Ffrenchは、ジャマイカにルーツを持つイギリス人。メインはピアノ。とにかくアルバムを聴いてみましょう。レーベルはSME(US)系のSony Classical。

01.「Dreamland」

軽やかな表題曲、01.「Dreamland」から。8分の6拍子ですね。これがまさにクラシックらしさですが、アルバムを通して、メロディーラインが一筆書きではなく、同じモチーフが聴こえながら、再構成されて気付けば変わっているのが印象的です。

02.「Farewell Song」

02.「Farewell Song」では、ピアノに加えて、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団の演奏が加わり、一気にダイナミックな曲となります。ピアノは、オーケストラの中では多勢に無勢なはずなのに、しっかりと音が浮き立ちつつ融合しているのが印象的です。

ちなみに、オーケストラはもちろんPAがいないので、同時に演奏する楽器の数や、音域、タイミングなどを調整して、作曲段階からバランスを調整し、これをオーケストレーションと言います。いくら録音でも、バンドとかと違ってあんまり派手にローパスとかをかけられないはずなので、オーケストレーションもうまいんでしょうね。

05.「Rivers」

05.「Rivers」は、途端にテンポが落ち着き、なんとも揺さぶられる一曲です。シンセも交じり、幻想的かつ自分の感情を吐露するような内省的な感じを受けますね。特に、中間部の盛り上がりは、不意にグッと掴まれるものがある。

07.「One」

続いて、出だしは普通のピアノソロ曲かと思いきや、中盤以降に突然ゴスペルとなる07.「One」。楽器の持つポテンシャルが印象的なインスト曲の中に突然声楽曲が混ざることで、逆説的に、声楽のもつパワーと、器楽の自由さが際立ちますね。

歌物は、それだけで、なんというか世界観のようなものを具現する力がある。他方で、器楽曲は、人間の声の限界にとらわれない縦横無尽な表現力を思い起こさせます。

08.「These Days」

さて、紙幅の都合から、あともう1曲だけ触れます。ベートヴェンの超有名曲、「エリーゼのために」のアレンジである、08.「These Days」。ベートーヴェン生誕250周年に寄せて書かれたものと思われますが、全然そんな素振りを見せてないですね。タイトルも全然関係ない。笑

アレンジやリミックスって、個人的に、なんというか上手くいっていないものが多いと思うんです。食べ物で例えると、例えば残り物のカレーのアレンジレシピとして、カツカレーが出てきても、カツを載せただけではアレンジとは言えないですよね。逆に、カレーのアレンジですと言って、麻婆豆腐が出てきたら、それはもう嘘な訳で。

その点、この「These Days」は、かなり改変しつつも、原曲のモチーフが何度も立ち現れ、絶妙なバランスを保っている。一聴の価値ありです。

他にも、可憐で切ないワルツ03.「Wishing」、高揚感のたまらない10.「Shine」、ハープとシンセを用いた12.「Crest of a Wave」や、ギターの入った13.「Rapture」など、どれも最高だし新しい!ぜひ全曲聴いてみてください。

あとがき:クラシックは身近だぞ!!

なんだかんだ言って、クラシックっていろんなところに浸透しるんですよね。

ノーリツのお風呂が沸いた時の曲は、超有名ピアノ曲『人形の夢と目覚め』。

JR東日本発車メロディーの古参、『JR-SH2』は、モーツァルトを手本に作曲したと、作曲者本人が言っています。確かに、音色はチェンバロ(※)系シンセで、バロック調の曲になっています。
※モーツァルトの頃によく使われていた、ピアノの先輩。音は小さく、鍵盤の白と黒が逆。

ということで、みなさんもこの『Dreamland』を入口に、クラシック沼にハマってくださいな。

では、また!

この記事が参加している募集

#コンテンツ会議

30,734件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?