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【Phidias Trio vol.9 “Re-interpret”】稲森安太己さんインタビュー(3)

2023年9月13日、杉並公会堂小ホールにて開催する【Phidias Trio vol.9 “Re-interpret”】に向けて、委嘱作曲家の稲森安太己さんにインタビューを行いました。今回の新作、《Illusion einer einsamen Reise im Winter 1827》についてのお話の続きです。

終わりのない旅

—稲森さんは、私達の演奏や人柄をよくご存知なので、ある程度(最終的に)どういう形になるかを想定できると思うんです。それに加えて、なにか、その想定を超えてほしいなというような思いもあったりするんでしょうか?

稲森   ありますね。でもそれは別にフィディアス・トリオにだけじゃなく、誰に対してもあるかもしれません。自分がこの曲今までで一番いい演奏してくれたなって思う人でも、次はもっといい姿にしてくれるんじゃないか、っていうふうな期待もしてるし。
逆に、演奏家としては、1回1回何かまだできることあるかなっていう感じとかってあるんですか?

—あります!毎回ありますね。終わりがない・・。

稲森   そうですよね!だから一緒ですよ、終わりがない。冬の旅をやっていて、そのプログラムノートに書いたこととちょっと通じる話なんですけど。この旅は終わってない、というか。完結してるように見えて、完成品のようにしてるけど、でもこの旅は終わってないっていうようなことをちらっと書いたじゃないですか。そういうことでもあるんで。
例えば、トリオが一番よく演奏してくださってるのは《スキャピュラ》(稲森安太己 : Scapula(2020, 委嘱新作) https://www.youtube.com/watch?v=6E8tljbYBFI)ですよね。
《スキャピュラ》は割と頻繁に演奏してくださってるから、結構もうすごい立体感も出てきたし、生き生きとしてきて、聞いていてすごく楽しいんですけど。あの曲の大変な所は、とにかく技術。音楽的には割とシンプルな曲なのに、技術的に大変だから、お互いに聞けるようになるのに本当に時間かかるというか。楽譜を見たら楽譜に書いてあることはかなりクリアだから、何か悩まなきゃいけないことっていうのがいっぱいあるわけではないけど、自分たちの耳が準備できるまですごい時間がかかるっていうのが、一番あの曲は難しいと思うんです。
この曲(《Illusion einer einsamen Reise im Winter 1827》)は、逆にそういうものでもなくて、知っている曲が元になってるから、そこからどういうふうな演奏になってるかとか、そういう方に耳がまずいくと思うし、それで技術的にも難しいところ結構あるけど、でも、現代音楽的な意味で難しいところっていう、すごく複雑なリズムをやらなきゃいけないとかいうのはほとんどないから、割と素直に楽譜を読めると思うんです。
だからこそなんですけど、どんな響きなのか、どんな音楽表現なのかっていうことに、いちいち「おおっ!」って思うような発見・出会いを、僕がシューベルトの《冬の旅》を何度もにらめっこしながら発見していったのと同じような発見を、追体験してほしいなっていうのはありますね。
逆に僕から質問いいですか?どうですか?これ面白かったとか、音を出してみて、「えっ!」って思いました、みたいなとこってあります?

—(岩瀬) 一番びっくりしたのは9曲めですね。《Rückblick (回想)》。
これは最初もう全然しっくりこなかったというか。そもそも原曲がかなり速いんですよね。その曲を、敢えてテンポ76(ゆっくり)の指定なので、全然違うっていうことに最初は戸惑いました。原曲のようにやるべきなのか、だけど、原曲のようなテンポではあの楽譜は弾けないし。
結局思ったのが、《スキャピュラ》をやったときの、あのサウンドを覚えていて、そのイメージを共有して実際トリオで合わせてみたら、しっくり来たんですよね。これは逆に、稲盛さんの曲をやってなかったら、結構迷う曲なんだろうなって。
何度も経験してるので、その稲森サウンドっていうのがやっぱりどこかにあって、やってみたらしっくりきたみたいな。面白いですね。

稲森  (笑)ありがとうございます。僕も最初は何度かいろんな歌い手さんの演奏を聞いて、《冬の旅》の世界に浸ろうっていうのをやってたんですけど、作曲を始めてからあんまり聞かないように逆にして。楽譜と向かい合って、とにかくシューベルトが書いた音と向かい合って、そこから見えるものとやっていこうっていうふうにすると、テンポが変わってくるというか。別の曲だったらそのテンポでいいかもしれないけど、僕がそこに見てる、この音楽構造の中には何か違う表現が眠ってるかもしれないなっていうのも、この歌詞の内容と鑑みてもね、そういうところで結構違いにはなったりしましたね。

—(岩瀬)《冬の旅》っていろんな録音を聞いてみたら、もういろんなテンポがあるので。
例えば、稲森さんが何かの特定の録音を参考にして、それを何となくベースにしているのかなって最初思ったときもあったんですけど、この9曲目を弾いた後に、これは多分オリジナル(の楽譜)を稲森さんが実は想定しているんだなっていうのに、いろいろ見えてきたものは大きかったかなと。原曲との、つまりピアノ伴奏のパートとの決別、じゃないですけど、ちゃんと割り切ってできるようになったきっかけの楽曲が、9曲目でした。

稲森   なるほどね。面白いです、そういうことですよね。多分これが再構成とか、再作曲とかの面白みなんじゃないかな。

稲森安太己 プロフィール
1978年東京生まれ。東京学芸大学にて作曲を山内雅弘氏に、ケルン音楽舞踊大学にてミヒャエル・バイル、ヨハネス・シェルホルンの両氏に師事。西ドイツ放送交響楽団、ギュルツェニヒ管弦楽団、ブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団、新日本フィルハーモニー管弦楽団等の演奏団体によってドイツ、イタリア、アメリカ、ベルギー、日本ほかの国で作品が演奏されている。2007年日本音楽コンクール第1位、2011年ベルント・アロイス・ツィンマーマン奨学金賞、2019年芥川也寸志サントリー作曲賞ほか。ケルン音楽舞踊大学、デトモルト音楽大学、洗足学園音楽大学非常勤講師を経て現在、熊本大学特任准教授。

公演情報

【Phidias Trio vol.9 "Re-interpret"】


2023年9月13日(水)
19:00開演(18:30開場)
杉並公会堂 小ホール(杉並区上荻1-23-15)
一般3,000円 / 学生2,000円(当日券は500円増し)

https://phidias-vol9.peatix.com/

【プログラム】
稲森安太己:
Illusion einer einsamen Reise im Winter 1827 (2023 委嘱新作・初演) ※原曲:フランツ・シューベルト《冬の旅》
Prelude for clarinet and piano (2022)
Ubi caritas et amor for violin solo (2011 舞台初演)

フランツ・シューベルト:
楽興の時 第2番 変イ長調 D780-2

 あらゆる芸術作品は、無限の解釈の可能性を秘めている。ある作品をどのような視点から見つめ、そこから何を見出すのか — そのプロセスには、作品を解釈する者の哲学や価値観、生きる時代が鏡のように映し出される。
 今回のフィディアス・トリオの公演では、国内外で活躍する作曲家・稲森安太己に、「F.シューベルトの《冬の旅》を現代の視点から新たに解釈し、その素材を再構築する」というコンセプトで新作を委嘱。“アイデンティティの喪失”という普遍的なテーマを持ち、時として前衛作曲家の創作の源泉ともなってきた《冬の旅》は、およそ200年の時を経た現在の東京で、何を映し出すのか。ゲストに古典から現代声楽曲まで幅広く精通するテノールの金沢青児を迎え、新たなクラリネット三重奏の表現を探る。

【出演】
テノール 金沢青児(ゲスト出演)
Phidias Trio(フィディアス・トリオ)
 ヴァイオリン 松岡麻衣子
 クラリネット 岩瀬龍太
 ピアノ 川村恵里佳

主催:Phidias Trio
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京

*このコンサートはサントリー芸術財団佐治敬三賞推薦コンサートです。

【チケットご購入】
https://phidias-vol9.peatix.com/

【お問い合わせ】
phidias.trio@gmail.com


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