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【Phidias Trio vol.9 “Re-interpret”】稲森安太己さんインタビュー(1)

2023年9月13日、杉並公会堂小ホールにて、Phidias Trio 9回目の定期公演を開催します。

今回は、国内外で活躍する作曲家・稲森安太己さんに、「F.シューベルトの《冬の旅》を現代の視点から新たに解釈し、その素材を再構築する」というコンセプトで新作を委嘱しました。テノールの金沢青児さんとともに、この70分の大作を初演します。

過去と現在、そして未来を見つめ直す遥かな旅。
是非みなさまのご来場をお待ちしております!


先日、委嘱作曲家の稲森安太己さんにインタビューを行いました。今回の新作、《Illusion einer einsamen Reise im Winter 1827》についてのさまざまなお話を、数回に分けてご紹介します。

新作のコンセプトについて


—私たちが今回の作品を委嘱した際に、稲森さんに提示したコンセプトは「シューベルトの『冬の旅』を題材に、その素材を再構築した新作」というものでした。
どの程度まで原曲を踏襲した形にするか、もしくは素材を分解してしまって再構築するかなど、そのあたりの自由度は完全に稲森さんにお任せしていましたが、この新作のコンセプトはまずどのようなところから決めていったんでしょうか。


稲森  今回提出した作品と、一番初動の段階でやりたかったことっていうのはちょっと違ったんですよ。当初は、結構オーケストラ的な発想だったわけです。(以前書いた曲で)シューベルトの12のレントラーを題材にしたオーケストラ曲があるんですね。その曲は第1曲目が一番長くて、第1曲をテンポを3倍ぐらい遅くして、なおかつ音価を4倍遅くして、つまり12倍遅くする。それを曲全体の下敷きにして、少しずつ2曲目、3曲目、4曲目…と重なっていって層になっていって、また消えて次の層が出てくるというような作品でした。
 『冬の旅』では、ミュラーとシューベルトが見てる、作品の時間経緯、物語の展開が違ったから(注・もとのミュラーの詩を、シューベルトは順番を入れ替えて作曲している)、それを何か層状にして生かすことはできないかなっていうのを最初にやっていたんですよ。でもそうしたら、どうしても楽器も何かあと10個ぐらい足りないし、大きく順序が違うから、後半になるほど帳尻が全然変わってくるので、これはちょっとさすがに作曲しきれないなと思って。で、今ここに書き出したスケッチで、自分が見えてなかったものってなんだろうな、っていうのを改めて練り出した。
 僕、まずシューベルトの原曲を書き写すっていうのを最初にしてるんですよ。コピーじゃなくて、自分が作曲をするのに便利なように、隙間をあけて、音とか書き込んでいきやすいようにして、コメントしていくみたいなことを結構やっていました。どれだけ同じ音が頻出するかとか、あるいはこの1個の音が1回しか出てこないとか、それが何か特別な意味を持ってるかな、みたいにチェックしながら。そう言うところに、全体の中で、そこに何か楔みたいなイベントがあるといいな、とか考えたりとかする。そうすると、一つの世界を語る上での方法論、統一性みたいなのが出てくるんじゃないかなと感じました。
 骨組みだけ抜き出して、それをいろいろオーケストレーションしていって元の構造を薄くするとどうなるかとか、そういう実験もやったんですが、シューベルトがあんまり崩れていくのはやっぱり楽しくなかったんですよね。そこは自分の最終的な決断に、結構影響があった。いろいろ解体して試してみたりはしたんだけど、この分量を解体し続ける意味も見出せないなっていうか、やっぱりシューベルトが聞きたいしっていう感じもあって、なかなかジレンマがありましたね。


Phidias Trioの編成について考えること


—歌とピアノの原曲を、歌とこのトリオの編成に書きかえるにあたって、考えたことは何でしたか?

稲森  トリオの編成にっていうよりは、何度も演奏を聴いているフィディアス・トリオにっていう感じのことですかね。自分としては、例えば今書いてる小節の1小節前のバランスはとても良くて、3人が綺麗にうまくいっているとしますよ。その次の小節、その勢い、その続きで書くんだけども、でも麻衣子さんがすごい突出しちゃうぞとか、岩瀬さんがすごい突出しちゃうぞとか。じゃあこれはどう混ぜればいいんだとか、なかなか悩みながら。できるだけ自然にリハーサルの中で自然にほぐれていくような方がストレスなくていいなと思ったりもして、結構その辺は難しいところでもあったんですよね。割とそんなに難しい現代音楽の奏法とか、新しいものとか使ってないのにも関わらず、3人で揃ったときにこの音色なんですよね、っていうのを神経質に決めてるので、だからなんていうのかな、演奏大変そうだなって思いながら(笑)。


—まさに今、リハーサルでいろいろ頑張っているところです(笑)。
(続く)

稲森安太己 プロフィール
1978年東京生まれ。東京学芸大学にて作曲を山内雅弘氏に、ケルン音楽舞踊大学にてミヒャエル・バイル、ヨハネス・シェルホルンの両氏に師事。西ドイツ放送交響楽団、ギュルツェニヒ管弦楽団、ブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団、新日本フィルハーモニー管弦楽団等の演奏団体によってドイツ、イタリア、アメリカ、ベルギー、日本ほかの国で作品が演奏されている。2007年日本音楽コンクール第1位、2011年ベルント・アロイス・ツィンマーマン奨学金賞、2019年芥川也寸志サントリー作曲賞ほか。ケルン音楽舞踊大学、デトモルト音楽大学、洗足学園音楽大学非常勤講師を経て現在、熊本大学特任准教授。

公演情報

【Phidias Trio vol.9 "Re-interpret"】

2023年9月13日(水)
19:00開演(18:30開場)
杉並公会堂 小ホール(杉並区上荻1-23-15)
一般3,000円 / 学生2,000円(当日券は500円増し)

【プログラム】
稲森安太己:
Illusion einer einsamen Reise im Winter 1827 (2023 委嘱新作・初演) ※原曲:フランツ・シューベルト《冬の旅》
Prelude for clarinet and piano (2022)
Ubi caritas et amor for violin solo (2011 舞台初演)

フランツ・シューベルト:
楽興の時 第2番 変イ長調 D780-2

 あらゆる芸術作品は、無限の解釈の可能性を秘めている。ある作品をどのような視点から見つめ、そこから何を見出すのか — そのプロセスには、作品を解釈する者の哲学や価値観、生きる時代が鏡のように映し出される。
 今回のフィディアス・トリオの公演では、国内外で活躍する作曲家・稲森安太己に、「F.シューベルトの《冬の旅》を現代の視点から新たに解釈し、その素材を再構築する」というコンセプトで新作を委嘱。“アイデンティティの喪失”という普遍的なテーマを持ち、時として前衛作曲家の創作の源泉ともなってきた《冬の旅》は、およそ200年の時を経た現在の東京で、何を映し出すのか。ゲストに古典から現代声楽曲まで幅広く精通するテノールの金沢青児を迎え、新たなクラリネット三重奏の表現を探る。

【出演】
テノール 金沢青児(ゲスト出演)
Phidias Trio(フィディアス・トリオ)
 ヴァイオリン 松岡麻衣子
 クラリネット 岩瀬龍太
 ピアノ 川村恵里佳

主催:Phidias Trio
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京

*このコンサートはサントリー芸術財団佐治敬三賞推薦コンサートです。

【チケットご購入】
https://phidias-vol9.peatix.com/

【お問い合わせ】
phidias.trio@gmail.com

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