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「踊る白馬の秘密」を読んで。

 539回目です。φです。

 今日は素敵な本に巡り合えたので、それについての読書感想文を。久しぶりに一気読みしてしまいました…!

 読んだのはこの本。「踊る白馬の秘密 メアリー・スチュアート (著), 木村浩美 (翻訳)」

 一言で言うなら、馬好きにはぜひ読んでもらいたい。馬が好きになるきっかけとしても読んでもらいたい。ミステリー好きにも読んでもらいたいし、本を通して誰かの成長を見届けたい人にも読んでもらいたい。

 私はこの本に一目ぼれでした。図書館の新刊コーナーに置いてあって、表紙の馬と目が合いまして、すぐ手に取った。手に取ったのだけど、読むのがもったいなくて今日まで表紙を眺めるだけで終わっていました!きれいすぎるんですもの!

 まず、表紙の馬がこのミステリーのキーになっています。こちらの馬はオーストリアが誇る軍馬:リピッツァナー。世界最良の軍馬と言われていました。その後、プロイセン王国が生み出したトラケナートラケーネン)にその地位を譲ることになるのですが、それまではトップに君臨していた馬です。

 今でもその品種は愛されていて、馬術競技や馬車の馬として活躍しています。また、この馬だけを使う古典馬術のショーが、スペイン式宮廷馬術学校で披露されています。”スペイン式宮廷馬術学校”ですが、オーストリアにあります。複雑ですね!

 ちなみにこのショー、「2015年12月、ユネスコ会議で、スペイン乗馬学校の古典馬術の伝統がUNESCO無形文化遺産に登録されました。」と書かれていまして…素晴らしいことです。馬好きなら見てみたいものですね!

 この小説では、この知識も色々と関わってきます。ミステリーとして楽しめるだけではなく、古典馬術の一部にも触れることができます。馬の馬術は長い歴史を持つんだなぁ、と私も改めて感動しました。

 本の内容は惹きこまれるものでした。私はちょっと複雑な家族背景を持つストーリーが苦手です。その苦手な雰囲気を最初は感じました主人公(語り部)のヴァネッサ・マーチは夫のルイス・マーチと上手くいっていなくて、喧嘩をしてしまった。ヴァネッサをティータイムに誘ったカーメル・レイシーは子供に依存する母親で、2人の娘は家から出ていき、夫とも離婚。末っ子のティモシー・レイシーとも上手くいっていない。しかし彼女は末っ子に執着していて、離さない…。

 ティモシーの描写が、私の現状のあれそれに似ていて、「あ、読むのやめようかな」と思った。この状況がより複雑になっていくストーリーなら、読むのやめよう。私はそう思っていました。

 しかしながら、ヴァネッサの快活でイギリス感あふれるユーモアたっぷりな性格、ティモシーとの悪だくみ、まるでにやりと笑いながら大きなことをやってのけるパートナーのような関係。不思議だけど、見ていて飽きない、面白い関係になっていく様子が本当に惹かれる。最初の状況はページをめくるごとに変わっていきます。よどんだ空気に充満していた空間から、空を飛んでオーストリアに行くにつれて二人とも本来の自分らしさを取り戻して、最初のギクシャクした関係は「そんな関係だったね!」と読んでいる側が忘れる程。

 このストーリーでは、ティモシーが大きく成長します。母親と一緒にしかできない、それでいて反抗的な子供、という印象から、どんどんと自信を持っていって、年齢相応の態度や考えを見せながらも必死にその状況を生きて、最後のシーンでは立派なひとりの大人として存在する。

 ヴァネッサも成長します。成長というよりも、より魅力的な人物に成熟する。ルイスに不信感を持って、嫉妬や執着を見せて、気分が上下しやすくて、投げやりになることも多い印象が最初はありました。それがとある事件に出会ったり、ティモシーの四苦八苦する様子から自分を省みたり、自分の意志で様々なことを決めて行動していくにしたがって、大胆でいてどっしりと構えた、それでいてユーモアのある魅力的な人物として存在する。

 途中ではもちろん色々あります。ティモシーの父親は20歳程年の離れた女性と良い感じの関係になっているし、行き当たりばったりにはなるし、重大な事件にも関わっていく。サーカスの劇団と穏やかな関係を作ったかと思うと、実はその劇団に起こった悲劇は複雑なものであって…。

 ミステリーがメインですが、印象に残るのは馬の描写です。表紙の馬、リピッツァナーの描写。馬は生きる芸術作品と言われますが、それを巧みに文章で表現していると私は思いました。

 少しネタバレになってしまいますが、みすぼらしい馬が本来の姿を見せるシーン、文字を読むだけでその情景が頭に浮かぶようでした。途中で気づいたミステリーのコアの部分が分かったとき、その馬への印象も一気に変わった。すべてのことはこの馬の本来の姿が証明するのか。そう分かったとき、震えがとまりませんでした。

 そこでふとタイトル「踊る白馬の秘密」を思い出して、納得。ちなみに原文のタイトルはAirs Above The Ground、和訳すると”人馬一体の空中馬術”です。文中のティモシーの説明を借りると、大昔からある技術で、「軍馬が覚えなくちゃいけない戦闘時の動作」のこと。今では跳躍術として、スペイン式宮廷馬術学校のショーで披露されているようです。名馬中の名馬しかできない技術だそう。

 さて、ミステリーとして面白かったのはルイスの存在です。なんというか、すごいなこの人!という…語り部のヴァネッサ視点のストーリーなので、最初は「なんて人だ」とネガティブな印象を持っていたのですが、彼の素性や行動の理由がクリアになっていくたびに、すごい、かっこいい…そんな印象に変わりました。印象が一番変わる人物だと思います。シンプルにかっこいいです。

 最後はすっきりとするストーリーです。爽やかな終わりで、見終わってからの満足感と余韻が素晴らしい。私はミステリーもあまり読まないし、家族関係が複雑なものも読まない私ですが、この本はそんな苦手意識も吹っ飛ばすような爽やかさがあります。登場人物たちのイギリスならではのユーモアもあって、本当に面白い。ウィットなジョークが盛りだくさんです。

 文章自体もすごく読みやすい。丁寧でいて、すっきり。これはおすすめしたい本です!

 noteの読書感想文に参加して、ぜひ読んでほしいー!と思う一押しの本です!みなさん、読んで!

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