見出し画像

ホラー小説「ドールハウス」第3話 悪夢

最後に作者からのお知らせがあります。

前回はこちら

注意喚起

暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています。
この小説はフィクションです。実在の人物及び事件とは関係ありません。


5.美夏

急に春香が「話したいことがあるので、最初の部屋に戻りませんか?」と尋ねてきた。
春香の言う通り戻った方がよさそうだ。
春香の「話したい事」って何だろうか?
きっと、いい脱出のアイデアが思いついたのかな?
あたしは期待した。
あの部屋の女の子に気づかれないように、そっと目覚めた部屋に戻る。
さっきの女の子は異常だった。
死体で人形遊びなんて普通なら思いつかないだろう。
あの子は人間ではなくこの屋敷に住み着いている悪霊かもしれない。
あの長い黒髪も幽霊みたいで不気味だった。
きっと、あの子はこの屋敷に迷い込んだ人を殺して人形にしている。
こういう内容でホラー映画が作れそうだ。
そう思いながら、ゆっくり歩くと部屋のドアにたどり着いた。
音を立てないように、ドアをそっと開けた。
開けると、目覚めたときのままだった。
当たり前だが、あの死体は動いてない。
この部屋に入ると、春香は「私を疑わずに、信じて聞いてほしいの。」と話し始めた。
まず、「ニュースでやっていた小柳百合という大学生が行方不明になった事件は知っていますか?」と春香は聞いてきた。
「あたしは最近ニュース見てないから、この事件は初めて聞いたよ。」と返した。
「小柳百合が行方不明になったのを皮切りに、この街で失踪者が相次いで出ているの。」
「さっきの部屋の死体はニュースで見た小柳百合の写真に似ていたの。」と春香は話した。
あの死体はその行方不明事件の犠牲者らしい。
「そして、あの部屋で死体に話しかけていた人は私のクラスメイトの佐々木愛美だったの。」あの女の子は春香の同級生!?
友達が死体に話しかけていたら、恐怖を覚えるのは当然だろう。
「愛美はこの屋敷の持ち主の娘。」
「でも、愛美がこんな事をしていたなんて知らなかった。」
「おそらく、美夏さんをここに連れ去ったのは愛美かもしれない。」
春香はあたしがこの事を知って、疑ってしまうじゃないかと思っていたらしい。
「私は愛美にこの屋敷に誘われて来たの。」
「推測だけど、案内された応接間で飲んだお茶にはおそらく睡眠薬が入っていた。その睡眠薬で眠っていたと思う。」
あの女の子に飲まされた睡眠薬のせいで、春香は眠そうにしていたのか。
「春香は悪い子じゃなさそうだし、あたしと状況は一緒。話を信じるよ。」とあたしは答えた。
今のところ、あたしの仲間は春香しか居なかった。
「信じてくれて、ありがとう。」と春香は返した。
この屋敷とあの長い黒髪の少女のなにかしらの情報がある。それだけで心強い。
あたしは「佐々木愛美とこの屋敷について知ってることがあったら、教えて。」と春香に聞いてみた。
春香は佐々木愛美の事を話した。
どうやら、佐々木愛美は春香の高校では優等生で大人しい子らしい。
そして、家は明治時代から会社を経営していてお金持ち。
家族がこんな洋館を持っているということは、結構恵まれているみたいだ。
あと、春香はこの屋敷の事も話した。
春香が愛美から聞いた話によると、この屋敷は明治か大正時代に建てられていて、戦後まで佐々木家の住宅として使われていたらしい。
数年前まで愛美の祖父が晩年をそこで過ごしていて、祖父が亡くなってからは使われてなかったそうだ。
「ねぇ、佐々木愛美の怪しいと思った所とか殺人の前触れとか気づいた事とかある?」
あたしは春香に佐々木愛美について質問をした。
「特に学校ではそう思った所はなかったわ。愛美は学校では普通に過ごしていた。人と話すことは苦手みたいだけど、周りの人間関係は悪い方ではなかった。でも、部活が同じの私にはよく話しかけてくれた。」
佐々木愛美は学校では普通の子だったみたいだ。
二面性がある子だろうか?
いつもは普通の子で過ごしていて、実は死体で人形遊びをする殺人鬼という感じなのか。
しかし、この部屋もいつまで安全かわからない。
もしかしたら、佐々木愛美がこの部屋に来てあたしたちを殺すかもしれない。
すっとここに居て考えても、無駄だ。
この部屋から出て、この洋館から出る方法を探ろう。
「春香、あたしと協力して一緒にこの洋館から生きて出ようよ。あたしが春香を守るから。」と春香に言った。しかし、調子に乗って自信満々に守ると言ったことは少し反省している。
でも、あんな奴に殺されるわけにはいかない。
「まず、私が愛美さんに案内された一階の応接間を探したいの。もしかしたら、私の持ち物とか手がかりがあるかもしれない。」と春香は言った。
あたしは一階に下りて応接間へ向かうことにした。
春香の記憶だと、あの南京錠がかかっていた扉の近くにある部屋らしい。
春香は応接間と思われる部屋の扉を開けた。
あたしも春香に続いて入った。
そこには、座り心地が良さそうなソファーとテーブルがある。
テーブルの上には湯呑と急須がある。
湯呑を見てみると、飲みかけの日本茶が入っていた。
春香は床やテーブルの周りを、あたしは棚と暖炉の周りを調べている。
暖炉の上にはヴィンテージの置時計が置かれている。
暖炉の中は灰しかない。
応接間はヴィンテージの家具が置かれていて、レトロな雰囲気だ。
美しい空間だが、なぜか不気味さを感じた。
あたしと春香はこの部屋に何かないか探し始めた。

6.春香

美夏さんと二人でこの部屋に何かないか探している。
しかし、私は何も見つけることはできなかった。
美夏さんも収穫は無さそう。
どうして、こんな事になってしまったの。
愛美が恐ろしい殺人鬼なんて信じたくない。
「これは悪夢」そう言い聞かせている。
死体に話しかける愛美は人形遊びをしている無邪気な子供のようだった。
私が知っている愛美は知的で優しくて大人っぽい子。
でも、さっき見た愛美は幼い女の子のように見えた。
この違和感は不気味で、説明できない恐怖を感じた。
いきなり、私はある日の事を思い出した。
それは、去年の秋ごろ。
写真部で私と愛美が県の総文祭の設営の手伝いに行った時だった。
会場前で案内をしたり、椅子の片づけをしていた。
一日中立ちっぱなしで、私は疲れていた。
手伝いが終わった後、愛美は「ねぇ、春香。疲れたでしょ。アイスクリームおごってあげるから。一緒に食べない?」と聞いてきた。
私は愛美からアイスクリームをおごってもらう事になった。
疲れた後に食べたアイスクリームはひんやりしてておいしかったな。
優しい子だった愛美からはこんな姿は想像できない。
どうして、愛美はこんなことをしてるのかわからない。
私を信頼していて、仲も良かったはずなのに。
とにかく、この洋館から生きて出ないと。

作者からのお知らせ

「ドールハウス」を読んでくださり、ありがとうございます。

これから、土日の朝9時に定期的に更新することにしました。
もし、作者に事情があって、土日の朝9時に更新できない場合はこのnoteとX(旧Twitter)の@Phenol_adamでお知らせします。

これからも、「ドールハウス」をよろしくお願いします。

よかったら、サポートお願いします。 いただいたサポートは創作に使う資料や機材を買う費用として使わせていただきます。