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カンヌライオンズ 2022 報告会「CANNES LIONS REPORT 2022」実施レポート 後編

世界3大国際クリエイティビティフェスティバルのひとつ「カンヌライオンズ」が、3年ぶりに現地開催されました。

その報告会「CANNES LIONS REPORT 2022」をピラミッドフィルム クアドラ(以下:クアドラ)主催で2022年8月4日(木)に実施。

先日、第一部「BEYOND CREATOR」の様子を振り返る「カンヌライオンズ 2022 報告会「CANNES LIONS REPORT 2022」実施レポート 前編」を公開しました!

今回の後編では、第二部「YOUNG LIONS SESSION」の様子をお届けします。

※ヤングライオンズコンペティションとは
通称「ヤングカンヌ」。カンヌライオンズで行われる30歳以下のプロフェッショナルを対象とした公式プログラム。各国の代表2名1チームが参加し、現地で与えられた課題に対し、定められた時間内に作成した映像や企画書の提出、プレゼンテーションにより、ゴールド、シルバー、ブロンズを決定する。国内予選では、コンペティションの日本代表を選出する。


ヤングカンヌに挑戦した二つのチームが登壇

第二部「YOUNG LIONS SESSION」では、2022年のヤングライオンズコンペティション(以下:ヤングカンヌ)の国内予選を見事勝ち抜き、現地での本戦に参加した、若きクリエイターをお招きしました。ナビゲーターは、第一部に引き続きクアドラのクリエイティブディレクター阿部達也が務めます。

ご登壇いただいたのは、ヤングカンヌ プリント部門日本代表に選出された東急エージェンシーの古林萌実さんとSepteni Japan株式会社の飯島夢さん。そして、ヤングカンヌ PR部門日本代表に選出された電通PRコンサルティングの佐藤佑紀さんと森光菜子さんです。

左から、阿部達也、飯島夢さん、古林萌実さん、佐藤佑紀さん、森光菜子さん

プリント部門・PR部門の予選課題は「孤独解決」

2022年のヤングカンヌ予選では、以下の課題が出されました。

「架空の世界の孤独解決に取り組む団体」
クリエイティブの力で、先進国で孤独に生きる人を減らすにはどうしたらいいでしょうか。孤独問題を解決するためのグローバルキャンペーンを作成してください。

また、プリントチームは解決策を導く見開き2ページの印刷広告を作成する、PRチームはPRキャンペーンをグローバルパートナーと組んでアクションを起こすという追加ルールも。

SNSのタイムラインを利用して孤独を表現

プリントチームは、SNSのタイムラインを模した広告を作成しました。左側に孤独な人のタイムライン、右側にそれが原因で亡くなってしまった方のタイムラインを設置。亡くなってはじめて、タイムラインには「ゆっくり休んでね」「頑張ったね」などのコメントが並んでいます。

「誰かが孤独なとき、それが大切な人であっても私たちはなかなか声をかけることができず、最悪の事態になってはじめて優しい声をかけてしまいがちです。右側に書いてあるのは弔いの言葉ですが、これを救いの言葉に変えていこうというメッセージが込められています」と飯島さんは話します。

次に、プリントチームが本選に向けて行ったことを紹介します。

チーム内で共通言語を持つため、そして海外広告への知見を高めるため、カンヌライオンズの過去の受賞作品を中心にデコンストラクション(広告がどのような意図で作成されたかを構造分解すること)を行ったそうです。

2か月という期間を設け、各自が毎日一事例をデコンストラクションして夜に共有。結果として、事例のタイトルを聞くだけで相手の言いたいことが理解できるなど、マインドセットが構築できたと古林さんは説明します。

ちなみにヤングカンヌは、課題の回答となるクリエイティブを24時間内に提出しなければいけません。制限時間内で着実に作成できるように、本選までの間に予行として8回の24時間合宿を行いました。課題発表が日本時間の20時であることから、提出までのスケジュールを以下のように立てたと話します。

20時~4時:アイデア出し
4時~10時:睡眠
10時~18時:クリアになった頭でアイデアを見直しながら再び作成
20時:提出

このスケジュールで練習を重ねることで、適切な時間配分が掴め、当日も冷静・着実に課題に取り組むことができたそうです。

そして予行で作成した作品は、ヤングカンヌ プリント部門で審査員長を務めた電通の八木義博さんはじめ、海外広告やヤングカンヌに知見のある人たちにフィードバックをもらい、自分たちは何ができていて、何が足りないのかを客観的に把握していくように努めたとか。

「ヤングカンヌのことだけでなく、海外広告の特徴や歴史、日本の広告との違いなども教えていただきました。たとえば海外広告では、ビジュアルを観て『なんだろう?』と疑問に思わせて、それからコピーを読んで『なるほどね』と納得させるアハ体験が重要なんですね。そういった話を聞くことは、課題を制作する以上に大きな学びがありました」(古林さん)

また、フィードバックを受ける際、自分たちならではの強みを先輩たちに言語化してもらったそうです。それによって、いかに自分たちらしさを表現して課題に臨むかという視点が養われたとか。

「ある先輩から『あなたたちはクールな大喜利が得意だね』と言われたのですが、そういう強みって自分たちではなかなか気づけないじゃないですか。ヤングカンヌではどういった広告が好まれるのかだけでなく、二人ならどういう闘い方ができるかを言語化することができました」(飯島さん)

家具を組み立てながら孤独を考える

一方のPRチームは、日常の生活の中で気付きを与えるようなPRキャンペーンを作成すべく、家具の組み立て説明書に書かれている「この家具は二人以上で組み立てください」という言葉に着目し、「孤独では安全に組み立てられない家具があると言い換えられるのでないか?」と考えて課題に取り組みました。

「押しつけがましく説明するのではなく、日常のなかでハッと気づかせるような仕組みにしたいと思いました。そこで孤独な人も、そうでない人も無意識に受け入れているものを入り口にしたらいいのではないか、と考えたんです」(佐藤さん)

通常は1つしか入っていない組み立て説明書を「孤独な人用の説明書」と「孤独ではない人用の説明書」と2つ用意。「孤独な人用の説明書」には、孤独を一人で抱えなくてもいいですよというメッセージを。「孤独ではない人用の説明書」には、この家具を安全に組み立てなれない人もいますというメッセージを記載したそう。

次に、PRチームが本選に向けて行ったことを紹介します。

  1. 過去受賞作品を浴びる

  2. 実際に昨年度の過去問を1日かけて解いてみる

  3. お互いの信じるPRとは? を語り合う

たとえば山手線ブレストを実施し、「孤独と言えば?」というお題に対し、関連する状況や感情などを出し合い、その中で予選提出作品のテーマとなった引越しや家具の組み立てという発想が生まれたそうです。

「先ほどプリントチームがクールな大喜利が得意と言っていましたが、それに対して私たちのチームはチャーミングな大喜利が得意だなと今ふと思いました。たとえば『DIY or NDIY』といったタイトルの言葉選びや、家具を組み立てながら課題について考えていくという手触り感を大事にしているところに、私たちのチャーミングさが表れていると思います」(森光さん)

プリント部門・PR部門の本選課題は「人種差別」

予選を突破し、本選に出場することになった両チーム。本選では、以下のような課題が出されました。

ユネスコの「I Am Antiracist」キャンペーンを支援し、若者(15~25歳)の参加を促すクリエイティブを作成してください。

※「I Am Antiracist」キャンペーンは日常的な場面で遭遇する人種差別に被害者・傍観者としてどのように対処できるかを描いた短いビデオクリップを若者から募集するという内容

ちなみに本選は通常、部門ごとに別々の課題が出されるのですが、2022年に関してはプリント部門とPR部門ともに共通の課題が出されました。

「私は人種差別主義者ではないが…」という言葉から見えるもの

プリントチームは、「I am not racist, but…(私は人種差別主義者ではないが…)」と言いながら差別的な言動をする人と、それに対抗するビデオを撮影する人という2つの立場の人を表現した広告を作成しました。

「I am not racist, but…(私は人種差別主義者ではないが…)」という前置きに着目し、「私は違います」と保険をかけながら差別的な言動をしてしまうという日常の中で起こる差別の現状を明らかにしたいという思いと、差別主義者ではないと口で言うだけではなく、人種差別反対主義者として行動を起こしていく重要性を伝えたいという思いが込められているそうです。

ちなみにゴールドを受賞した作品は、ドイツチームの作品。「若い人に動画を撮ってもらう」という課題に対して、多くの提出作品は告知の役割を担うものでしたが、受賞作品は唯一動画を撮影させるという具体的なアクションを促すものだったので、その点について高い評価を受けました。

またアート&コピーがセットになって価値が生まれるクリエイティブであること、「社会課題について自ら発信したい」という若者のインサイトまで捉えていた点も評価につながっていたと古林さん。

残念ながら受賞には至らなかったプリントチーム。本選を経て、次のような反省点があったと振り返ります。

「『人種差別』がお題として出されたとき、テーマのなかで何を言うべきかという思考に潜り込んでしまったなと。もちろん誠実に見つめて考えることは大切ですが、若者に対してどのように伝えるべきかという引きの視点も持ちながら課題に挑んでいく姿勢が大事だと感じました」(飯島さん)

「ゴールドはそれが優秀で。実は作品のなかで人種差別の話を一切していないんですね。どこに課題を置くかが評価を分けたのかなと思います」(古林さん)

また、ビジュアルが添え物になっていたり、言葉が補足的になっていたりすると高い評価は得られないと感じたそうです。加えて、思わず動いてしまうような広告を作成すること、そのためには誰もが一瞬で理解できる分かりやすさが必要だという気づきもあったとか。

「私たちが審査員に言われたのは、やりたいことはわかるけど、理解するまでに時間がかかったと。ゴールドをはじめとした受賞作品と比較してみると、私たちの作品がなぜ受賞に至らなかったのかという理由を強く感じました」(古林さん)

社会課題に対して誠実に向き合う姿勢は大切ですが、それを多くの人に普及させるためには、愛らしさや皮肉など人間らしいユーモアも必要になります。それを入れ込むことの難しさを感じたと飯島さんは最後に語りました。

ピザをシェアする時間を、課題をシェアする時間に

一方のPRチームは、円グラフのようにカットされたピザをつくるキャンペーンを企画しました。

10分の4しかカットされていないピザには、「3分の1の黒人の方は人種差別を受けたことがあるが、10分の4しかレポートしたことがありません」という説明文が。

さらに箱の外には、「人種差別に対するあなたの考えを撮影し投稿してください」というメッセージ書かれています。そして箱はスマートフォンを立てて動画を撮影できる仕様に。

若者に対して、差別反対主義者であるという動画を投稿してもらうのはハードルがとても高く、しかも日常生活で人種差別について話す機会はなかなかないため、どうしたら若者に参加してもらえるかを考えたと森光さん。自然に議論が活発になったり、動画と撮影する場はどこかと考えた結果、パーティーの場であると思い、今回のキャンペーンが生まれたそう。

「参加障壁が高い課題なだけに、いろんな人がピザをシェアする時間を課題をシェアする時間にしたかったんです」(佐藤さん)

このPR部門でゴールドを受賞したのは、インドネシアチームの「FLIGHT ANTI-RACISM VIDEO」でした。若者たちがワーキングホリデーに向かう飛行機のなかでメッセージを流すという施策です。しかもこのビデオは、到着予定時刻の1時間前に設定されており、数時間後には差別の対象になるかもしれないという自分事化がされる設計に。また、若者から投稿された動画を流すという二段階の仕組みになっている点もポイントになりました。

本選を経て、PRチームは次のような反省をしたそうです。

ピザの箱にスマートフォンを立てて動画が撮影できるような仕様にしたことに満足してしまい、長期的なロードマップを引いてクライアントの課題に答えられなかったと振り返ります。また、若者世代をターゲットにしていたこともあり、TikTokなどのデジタルメディアをうまく活用すべきだったという反省も。

「キャンペーンの参入障壁を下げるために、カジュアルなアイテムとしてピザを選びました。しかし、ピザが人種差別にまつわる産物だったなどの背景があれば、より高い評価を得られたのかもしれないなと思います」(森光さん)

ヤングカンヌを終えて。予選と本選で感じた違い

イベントの終盤には、ゲストスピーカー4名がそれぞれにヤングカンヌに対する感想を話す時間もありました。

国内で行われる予選に対し、本選はさまざまな国のクリエイターとの勝負になります。言葉や文化に違いがあるなかでも思考に負担をかけず、多国籍の人が理解できる明快さや、世界で通用するストーリーが用意されていることが重要になってくるようです。

そして最後に、4名それぞれにヤングカンヌを終えての感想を。

「クリエイターとしてどうあるべきかの視点はもちろん持っているが、それ以上に社会で生きる者として、どう考えて感じているかがクリエイティブにも反映されると感じました。社会と向き合ったうえで、クリエイティブと向き合うことの重要性を実感しました」(飯島さん)

「問題は認識した人にしか変えられないということを実感する機会になりました。ヤングカンヌに参加する前は、アフリカの貧困などは自分とはかけ離れた話だと感じていました。しかし今回、社会問題を自分事化して課題に取り組んだことで、問題を知らない人には解決できないが、問題を知った自分には解決に向けて行動を起こす責任が生まれたと実感しました」(古林さん)

「世界共通の社会課題は、濃淡は違えどコトの本質は変わらないのではないでしょうか。特にPRは『自分がその立場に置かれたら…』と共感してもらうことが大切です。ヤングカンヌを通じてPRの本質や社会課題の本質を再確認できました」(佐藤さん)

「With社会課題が主流になっている現代だからこそ、BlandにしないためのBrandingが重要だと感じました。Blandとはおもしろみのないという意味の単語です。社会課題を切り口にするとどうしても似通ったアイデアになってしまいがちですが、自分が行動を起こしたり、解決したくなるようなPRを考えていくことが大切だと感じました」(森光さん)

まとめ

ここまで第二部「YOUNG LIONS SESSION」の内容を振り返ってきました。ヤングカンヌがどのようなものなのか、参加者がどのような思いで臨んだのかといったことが少しは伝わりましたでしょうか?

クアドラでは、今回のカンヌライオンズ視察の経験を活かし、企業・自治体・団体などの皆様の課題解決や価値創造により一層努めていきます。

何か困りごとがあって相談したい方も、一緒にものづくりがしたいと思った方も、まずはお気軽にお声がけください!

(この記事の内容は2022年10月19日時点での情報です)


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