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カンヌライオンズ 2022 報告会「CANNES LIONS REPORT 2022」実施レポート 前編

世界3大国際クリエイティビティフェスティバルのひとつ「カンヌライオンズ」が、3年ぶりに現地開催されました。
その報告会「CANNES LIONS REPORT 2022」をピラミッドフィルム クアドラ(以下:クアドラ)主催で2022年8月4日(木)に実施しました。
クアドラからは視察4回目となるクリエイティブディレクターの阿部達也が登壇。
現地に足を運んだ5名のゲストスピーカーをお招きし、現場で感じた世界のクリエイティブの今などを二部構成でディスカッションしました。
今回は、その中から第一部「BEYOND CREATOR」の様子をお届けします。

クアドラとしては初の試みとなるオンライン・オフライン同時イベントでしたが、
約400名にご参加いただき、大盛況で終えることができました!

第一部「BEYOND CREATOR」

第一部「BEYOND CREATOR」では、アジア太平洋地域を代表する広告祭の一つであるアドフェスト2022でPR・メディア・eコマース部門の審査員を務めた東急エージェンシーの室屋慶輔さんとともに、今年のカンヌライオンズの傾向を振り返り、クリエイターとしての今後の在り方についてディスカッションしました。

東急エージェンシー 室屋慶輔さん

今年のカンヌライオンズで変わったこと

まず、今年のカンヌライオンズで変わったことは何だったのか?
3つのポイントがありました。

新部門「クリエイティブB2Bライオンズ」の導入

1つ目は、新部門「クリエイティブB2Bライオンズ」の導入。
2013年頃からB2B作品を評価するカテゴリーの導入は検討されていました。
しかし、近年B2B作品の受賞がますます増加していることをうけ、今こそグローバルな舞台で評価するタイミングだと考えられ、ついに今年から新部門として導入されました。
以前からB2B作品の受賞が多くみられていたこともあり、新設部門にも関わらず、188社、37各国から415作品ものエントリーがありました。
現地では審査員より「B2B作品はクリエイティブ感が無いのでは?と思われがちだが、B2Bこそ人と人とのコミュニケーションが重要視され、デザイン思考を実践する能力が必要である」と語られました。
審査員からの注目度も高く、今後ますます盛り上がりをみせる部門であると考えられます。

エントリー数の歪な変化

2つ目は、エントリー数の歪な変化。
今年はコロナ禍ということもあり、全体のエントリー数はコロナ前の2019年と比較して18%減少していました。
しかしながら、ブランドの価値向上や商品の販売への貢献度を評価する「クリエイティブ・エフェクティブネス部門」では、昨年から83%という大幅な増加がみられました。
これは、ブランドのマーケティング担当者が「クリエイティブ・エフェクティブネス部門」への投資の重要性や、長期的なブランド構築の推進におけるその価値をますます理解している証であると考えられます。

世の中で起きた5つの変化

最後に3つ目は、世の中で起きた5つの変化。
Googleが毎年発表している検索動向について分析したレポート「Year in Search」から、ビジネスと生活において、5つの変化が起きていると考えられます。これはカンヌライオンズだけでなく、世の中全体として起きている変化です。

  1. デジタルのメインストリーム化
    コロナ禍で外出や接触ができないことから、デジタル技術を使ったコミュニケーションが拡張・普及していきました。

  2. 人生観の見直し
    コロナ禍において経済的な変化が起きたことや、予想だにしなかった未来になっていることから人々の人生観が見直されました。
    身近なところでいうと健康意識の高まりがその一つと言えるのではないでしょうか。

  3. 距離を埋める
    これは1.に近い部分はありますが、コロナ禍で物理的な距離が空いてしまっている中、デジタル技術など様々なコミュニケーション方法を活用し、心の距離を埋める工夫がなされました。

  4. 真実の追求
    コロナ禍において様々な情報が溢れる中で、一体何が正しく、何を信じるべきか受け手側がきちんと考えるようになりました。

  5. 不平等の拡大
    日本ではなかなか感じにくい部分もありますが、世界的にコロナの影響で経済的格差などの不平等が拡大していきました。

この5つを一言にまとめると「大切なものを見直し、デジタルで効率化していく」と言えるのではないでしょうか。
本当に必要なものが何であるかを考え、無駄な時間や労力は無くしていく。ビジネスや生活において、断捨離が行われていったと考えられます。

今年のカンヌライオンズで変わった3つのポイントから、コロナの影響で物事への向き合い方がシリアスになり、表面的なものはもう求められていないため、ブランドはよりクリエイティブに助けを求めだしていると感じられます。

クアドラ クリエイティブディレクター 阿部達也

今年のカンヌライオンズの傾向

開催年によって様々な傾向がみられるカンヌライオンズですが、今年は一体どんな傾向があったのでしょうか。
まず、今年のカンヌライオンズで会場を驚かせたのはウクライナのゼレンスキー大統領の映像出演でした。
ゼレンスキー大統領が映像内で「困難な状況にはクリエイティブが必要だ」と述べたように、今回のカンヌライオンズでは「The Creative Comeback」をテーマに掲げ、パンデミックや戦争の影響を受ける社会や企業の問題解決の手段としての、クリエイティブの力にフォーカスされていた印象でした。

「The Creative Comeback」帰ってきた2つクリエイティブ

カンヌライオンズのテーマとして掲げられた「The Creative Comeback」ですが、具体的に「Comeback」したクリエイティブとして、報告会では以下の2点が挙げられていました。

  1. Creative×BX ビジネスとクリエイティブのいい関係
    ※BX(ビジネストランスフォーメーション)=業務改革

  2. Craft & Entertainment クラフトの追求とエンタメコンテンツ化

この2つの傾向について、具体的に説明していきます。

  1. Creative×BX ビジネスとクリエイティブのいい関係
    これは今年の一番大きな傾向でした。
    今までは、ブランド側のビジネス的思想と、エージェンシーやプロダクション側のクリエイティブ的思想がそれぞれ相互理解に至るには距離がありました。
    しかし今年の傾向としては、その双方がお互い歩み寄り、よりビジネスとクリエイティブがセットで考えられている作品が増えてきました。

    この状況を表した最たる例は「アンハイザー・ブッシュ・インベブ」という世界的有名ビールメーカーが、クリエイティビティの力を信じ、その可能性の限界に挑戦する広告主を表彰する「クリエイティブ・マーケター・オブ・ザ・イヤー」を受賞したことです。
    採用プロセスや社内教育においてクリエイティブな視点を重視し、会社全体としてクリエイティブ文化に注力するこの会社が、多数の部門で受賞したことで注目を集めました。

    また、審査員からは「ビジネスもクリエイティブも企業成長には欠かせない」ということが語られました。

  2. Craft & Entertainment クラフトの追求とエンタメコンテンツ化
    今年のカンヌライオンズでは、より作りこまれた作品が評価される傾向にありました。
    例えば、プロモーションムービーもただ機能説明を行うわけではなく、ドラマ仕立てにした1つのエンタメコンテンツとして完成している作品が高く評価されていました。

受賞作品の7つの傾向

今回のカンヌライオンズで受賞した作品には7つの傾向がみられました。

1つ目は、ファクトの暴露。(受賞作品数:28作品)
社会問題を包み隠さず伝えたり、メーカーが自社商品の認知度を公開するなど、事実を事実のまま伝える作品が評価されていました。

2つ目は、エンタメの提供。(受賞作品数:22作品)
先ほどの「Craft & Entertainment クラフトの追求とエンタメコンテンツ化」と同様にはなりますが、映像や音楽を楽しんでいたら実は広告だった、というようなエンタメ性の高い作品が評価されていました。

3つ目は、新プロダクト・新サービス開発(受賞作品数:18作品)
ここ数年で増えてきている、新プロダクトや新サービスの開発などビジネスを絡めた作品が評価されていました。

4つ目は、当然の権利の尊重(受賞作品数:14作品)
クリエイティブビジネスの力を活かし、国や企業、法律を変えることで、発展途上国や障害のある方など、社会的に立場が弱く、権利が無い人たちが権利を持てるよう訴えかける作品が評価されていました。
以前からこのような作品はありましたが、今年はより評価されていた印象でした。

5つ目は、一時的なスペシャルプレゼント(受賞作品数:12作品)
一時的にスペシャルなものをプレゼントし、話題にしようという作品が評価されていました。

6つ目は、技術で喪失を補完(受賞作品数:11作品)
戦争によって失われてしまうものや、身体機能として劣っている機能などを、テクノロジーの力で補完していく作品が評価されていました。

7つ目は、ピュアクラフト(受賞作品数:7作品)
作りこまれていて、クオリティの高い作品が評価されていました。

さらにこの受賞作品の7つの傾向をさらにまとめると、ほとんどが

  • ジャーナリズム

  • クラフト

  • 新ビジネス

に集約されていることがわかります。

まとめとして、今年のカンヌライオンズの傾向を一言で表すと「市場ドリブン(市場をもとにしたもの)+思想ドリブン(思想をもとにしたもの)」であると考えました。
クリエイティブがビジネスに寄与し、ブランドの成長にもつなげる手段でもありつつ、だけでなく、社会に対してどういった思想を訴えかけることができるかがポイントになってくるのではないでしょうか。
しかし、どちらかに偏るのではなく、企業活動として継続性を保ちつつ、企業の思想を伝えるというバランスが重要になってきます。

ただ面白いことに、カンヌライオンズで評価された作品のほとんどは市場と思想の比率が五分五分になっていることに対し、アドフェストで評価された作品は思想に偏りがちな傾向がありました。
カンヌライオンズという全世界を対象にした場に集まる作品の方は、意識レイヤーが高いという事実が表れています。
アドフェストはカンヌライオンズのトレンドに半歩遅れて追従しているため、そういう意味では、まだいいこと言うだけの広告に留まっていると言えます。

日本でやるべきこと

今年のカンヌライオンズをうけて、これから日本は何をやるべきなのでしょうか。
広告界の有識者からは「日本に足りていないのはジャーナリスティックな視点である」「日本は企業活動がまだまだ動ききれていない」という声が上がっています。
つまり、今年のカンヌライオンズ受賞作品の傾向にあった「ジャーナリズム」「クラフト」「新ビジネス」のうち2つが日本には足りていないことが分かります。
日本には死者が出るような大きな社会課題は無いですが、何かしらの理不尽によって生まれた被害者は少なからず存在します。
その人たちに手を差し伸べるために、クリエイターが力を発揮すべきなのです。

では、ここにビジネスをうまく絡めるのはどうすればよいのでしょうか。
クリエイティブは、感情、アイデアなど非言語的な分野です。
対してビジネスは、全て言語化可能な分野になっています。
つまり、クリエイティブとビジネスは思考が全く異なるため、相互理解が欠かせないのです。

その上でクリエイターがやらなければならないことは、アイデアを世の中に寄与していくことです。
クリエイターはアイデアを考えることに100%の力を注ぎがちですが、実はこの段階での完成度はまだ50%で、残り50%のアイデアを実行していくことが重要になってきます。
カンヌライオンズにおいてもエントリーして終わりではなく、その先にあるものに目を向けていかなくてはなりません。

まとめ

さて、ここまで第一部「BEYOND CREATOR」でお話しした、今年のカンヌライオンズの傾向やクリエイターとしての今後の在り方について振り返りました。
現地で参加されていない方にも、今年のカンヌライオンズの雰囲気を感じていただけたでしょうか?
後編では、今年のヤングライオンズコンペティション国内予選を見事勝ち抜き、現地での本戦に参加した若きクリエイターをお招きしてディスカッションを行った、第二部「YOUNG LIONS SESSION」の様子を振り返りたいと思います!
後編記事も是非ご覧ください!

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