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蜂蜜と春

半年前のこと。

毎日仕事が辛くて、平日も休日も関係なく私の頭は仕事のことで支配されていた。

今あの辛かった時期の記憶を辿ってみると、仕事以外の記憶があまりなくて。

休み時間に気分転換に外に出ても、辛くて逃げたくて消えてしまいたい気持ちでいっぱいで、季節の変化を楽しむ余裕なんてちっともなかった。

視線はいつも足元に落ちていたから、道路を見ていた風景だけが記憶にぼんやりと残っている。

秋に休職をした。

一日中干しても乾かない洗濯物に触れて、冬の訪れを知った。

これまでより心に余裕ができたから、わずかな季節の変化に気がつくようになっていた。

木々が葉を落として山の色が橙から茶色に変わるのは、肌寒さを感じ始めてから少し時間が経ってからであるということ。

社会人になってから住み始めたこの町は、大学の時に住んでいた街よりもずっと大粒の雪が降ること。

冬を超えた蜂蜜は、白く固まってしまうこと。


肌で感じていた厳しい寒さが少しずつ緩まってきた時。

かかりつけの心療内科の先生に、「もうだいぶ回復しているね」と言ってもらえた。

初めは診察の度に涙がこぼれていた。それがいつの間にか涙をこぼすことは無くなって、笑顔で経過報告ができるようになっていた。

丸一日干しても乾いたかどうかもわからなかった洗濯物は、ものの半日ですっかり乾くようになった。

目に映る草木の緑は、少しずつ濃さを増している。

白く固まっていた蜂蜜は、少しずつ溶け出して元の琥珀色に戻っていく。


4月になったら、また社会に戻ることが決まった。

前に進んでいないように見える日々も、よくよく目を凝らしてみればどんどん表情を変えていく。

休職中はなにもできていなくて、「無駄な時間」だと思っていた。

でもきっとそうじゃない。私自身も、止まっているようにみえてきっと少しずつ前に進めているんだと思う。蜂蜜が少しずつ溶け出すように。

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