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お母さん、ごめんなさい。 もう「いい子」にはなれないよ

ショックを受けて、過呼吸ぎみです。胸が苦しくてパニックになっているので、頭を整理するために書きます。役に立つようなことは何ひとつ書かないので、これから先は読まないでください。健常な人からすれば、そんなことで何騒いでいるの? と思うでしょうから。

母から聞かされた話です。日中、自宅で庭仕事をしていた94歳の祖父が熱中症で倒れたそうです。台所にいた母は「起こしてくれ」という祖父の声で異変に気づき、庭に出ると祖父が倒れていました。意識はあり会話もできましたが、視線が定まらず自力で立ち上がることができません。母は50メートルほど離れた隣家に住む親戚に助けを求めました。親戚一家は病院に勤める医療職者です。すぐに20代の夫婦が駆けつけ、祖父を手当てしました。祖父をベッドに運び、声がけをしながら脈を測り、氷で脇や首を冷やし、スポーツ飲料を飲ませ、枕で足を高くし、マッサージを行いました。数時間後、祖父は元気になってテレビを見ながら夕食を食べられるまでに回復したそうです。めでたしめでたし・・・

と、ここまではよかったんです。ここで話が終わっていれば、「おじいちゃん、無事でよかったね」で済んでいたはずです。事情を説明し終わった母が口にした一言がいけませんでした。「看護師さんてすごいのねえ。あんたにも期待しちゃうわ」

母からしたら、「将来あなたも看護師になって親戚夫婦みたいな応急処置ができるようになったら、いざというときに助かるわ」という軽い気持ちで言ったんだと思います。だけど、今のわたしにはきつかった。とてもとてもきつかった。言われてすぐに胸が苦しくなって呼吸が浅くなり、頭が真っ白になって、逃げるようにその場を離れました。パニックになりながら、なんでこんなに苦しいのか必死で考えました。

出した答えが「母の期待に応えられないから」でした。わたしはいちおう大学には通っていますが、正直なところ卒業できないのではないかと思っています。頭が悪くて進級できない、というのではありません。グループワーク、臨床実習、進級試験、卒業研究、国家試験といったもろもろの関門をクリアしていく過程でストレスが高じ、うつ病が再燃して学業を断念せざるをえなくなる可能性が高いということです。

たとえ最終学年まで持ちこたえたとしても、看護師として医療機関に就職する可能性は低いと思います。保健師になるか、そうでなければ医療関連の民間企業に就職するかもしれません。看護師になりたくて大学に入ったのに、今のわたしは看護師になるのが怖くて怖くてたまりません。たぶん、あまりに多くの元看護師さんたちがうつ病と診断されて、休業や退職を余儀なくされているのをSNSで目にしているからだと思います。わたしには医療現場のパワハラやマウンティングに耐えられるだけのレジリエンスがありません。もしわたしが職場で同僚から暴言や嫌味を吐かれたら、一発でアウトです。

看護師になる見込みがないというだけではありません。わたしにはもうひとつ、大きな負い目があります。付き合っている人がおらず、未婚で子どもがいないということです。冒頭で祖父の看病をしてくれた20代の彼女は現役の看護師さんで、旦那さんがいて、生まれたばかりの赤ちゃんがいます。母はそんな彼女を見て、わたしにも同じようになってほしい、有能な看護師になって結婚して孫も産んでほしいと思っているんだと思います。「孫の顔を見せろ」と直接言われたことはありません。母はそこまで無神経ではありませんから。ただ、彼氏をつくってほしいということは何度となくほのめかされています。「男の人は苦手」と返すと、「いいひとに出会っていないだけ」と言って、合コンなどの集まりに参加するよう促してきます。

でもねえ、お母さん。わたしはノンセクシャルなの。男の人に親しみは持てても、付き合いたいとか、セックスしたいとか、結婚したいとか思えないんだよ。子どももね、かわいいなとは思うけど、自分の子どもを産んで育てたいという欲求がわいてこないんだよ。どうしてわかってくれないのかなぁ。

わたしは小さい頃から両親の言うことに従順でした。それなりに反抗期はあったけれど、家出したり、タバコを吸ったり、お酒を飲んだり、スカートの丈を短くしたりといった行為はしていません。成績は良かったし、学内委員会の委員長やクラブの部長も務めていたし、先生からの評判も上々でした。つまり、「いい子」でした。親から「勉強しろ」とか「もっと上を目指せ」などと口出しされた記憶は一切ありません。それどころか、わたしのほうが親や先生の顔色をうかがって、大人の喜ぶことをしようとしていました。それでほめられれば素直にうれしかったし、もっと喜ばせようとがんばりました。

それが今になって、親の期待に添えない状況に直面しています。看護師にもなれない、彼氏もつくれない、結婚もできない、出産も子育てもできない。できないことだらけ。世間の人が普通にやっていることが、わたしにはひとつもできない。今まで周囲の期待に応えてきたのに、それができなくなってしまった。わたしはもう「いい子」でも「できる子」でもない。人生初の劣等生に降格です。これが苦しさの原因なんだと思います。

でもさぁ、もう「いい子」でいる必要はないんじゃないの? と思いますよね。もう32にもなるんだし。それに、これはわたしの人生なんだから。どんな職業について、どんな生き方をするか、それは自立した個人が主体的に決定できる問題であって、親の意向がどうあろうが関係のない話です。世の中、職業は看護師だけじゃない。一般企業の事務職だって立派な職業だし、そりゃ多少賃金は違ったとしても職業に優劣なんてありません。独身でも、それが心地よいというのであれば何の問題もありません。結婚も子育ても、やりたい人はやればいいし、やりたくない人はやらなくていいんです。確かに、世の中には独身の女性や子どものいない女性(子どもを生まない選択をした女性)に対して、とやかく言う人はいますよ。だけど、既婚で子どもがいたとしてもバッシングをする人たちはいます(SNSで話題の ”ポテサラ論争” とかね)。独身だろうが既婚だろうが、子どもがいようがいなかろうが批判の標的にはなるんです。だとしたら、世間の目をいわんや親の目を気にするなんてバカバカしい。自分は自分と割り切って、好きに生きればいいじゃない。

そんなふうに吹っ切れればいいんですけどね。頭ではわかっているのに、親の期待を裏切っているという罪悪感から逃れることができません。わたしの中に小さな子どもがいて、その子が大人のわたしをコントロールしようとしているみたいです。こうして文字にして気持ちを整理すれば自然に答えが出るような気がしたのだけど、ダメでした。もうどうしていいのかわかりません。

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