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物語【絶望への秒読み】第七話

伊賀咲夏陽いがさきなつひ。僕が連絡を取ろうとしていた相手だ。同じ年の幼馴染。小中高と同じ学校に通っていた。高校を卒業して別々の進路へ進み、最近は連絡も取っていなかった。この終末が迫った今、なぜ脳裏に彼女の姿が浮かんだのか。その理由は明らかだ。僕は彼女の事が好きなんだ。


小学生の時はよく一緒に遊んでいた。中学になるとそれぞれ別の友達ができて、少しずつ距離ができた。高校生になった僕は夏陽の事が好きだと気づいたが、昔のように気軽に話せなくなっていった。 高校卒業後はほとんど連絡を取らず会うこともなかった。

これから夏陽が家に来るかもしれないと知り、心がざわつく。複雑な思いが頭をよぎりめまいがする。



家のインターフォンが鳴り響く。パールもつられて鳴いている。伊賀咲家が訪ねて来たようだ。


「いらっしゃい。」父さんと母さんが笑顔で出迎える。


「お久しぶりです。」夏陽の父親も笑顔で挨拶する。


夏陽はいるのか、そればかりが気になっていた。

「久しぶりだね。」二十歳になった夏陽が目の前にいる。



「おばあさんに線香をあげさせて下さい。」夏陽の父親はそういうと仏壇の前に立ち深く手を合わせ、しばらく黙とうしていた。


「ありがとう。」父さんと母さんが言った。


「お前も」と父親が夏陽に線香をあげるよう促す。夏陽も同じように深く手を合わせ黙とうしている。


「夏陽ちゃんありがとう。それにしてもまた綺麗になったわねー。」母さんは自分の娘のように接している。


まぁ確かに。僕は心の中で呟いた。


「何見惚れてんの!」母さんが僕を叩きながら言った。



皆んなが笑顔になって笑いが起きる。


この感じ久しぶりだ。僕は一瞬だけど終末のことを忘れていた。



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