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お金では絶対に買えないオールドコーヒー豆を頂いた話

珈琲は熱々のままで提供されるものだとばかり思っていたが、小さなドゥミタスカップで、わずか60ミリリットルばかりの量であえてぬるいまま提供される香り豊かなオールドコーヒーを知ってから、また自分の中での珈琲の概念が変わった。

初めてオールドコーヒーを飲んだのは銀座のカフェ・ド・ランブルでそれから十一房珈琲店が次だったと記憶している。その当時は美術に全く興味がないけどサブカル好き女子にモテるためには趣味は「美術館巡りです」みたいな感じで言っとけばOKみたいな、軽い気持ちでオールドコーヒーを飲んでいた記憶がある。当然、画と一緒で自分の鑑賞力が低ければ、どんな名画でも自分なりの価値等見出すことができず、オールドコーヒーに対しても何か値段は高くてぬるいコーヒーだけど、とりあえずそんな貴重なコーヒーを知っている自分はコーヒーマニアなんだというよくわからない自負だけがあった。

それからずいぶんと自家焙煎珈琲店を巡った後に、とあるお店にたどり着いた。のちに自分の中で世界No.1の自家焙煎珈琲店となるお店なんだけど。

そのお店に初めて訪問した日はたぶん10年くらい前の平日の21時頃でお店には客が一人もおらず、ダンディなマスター1人だけだったのでカウンターにぽつりと一人で座ってみた。注文前にマスターがアイスピックでわざわざ氷を削ってその氷でさりげなくお冷を出されて、なんだか最初からBarにいるような居心地になったのを覚えている。

メニューを出されてみていると、何やら〇〇オールドビーンズと書いてあり、しかも650円という破格で提供されていた。
美味しくなるかわからないのに何十年と生豆をエイジングし、わずか60~90ミリリットルの液体として提供される、この貴重なコーヒーがこんな値段で飲めるなんて…

当時何を頼んだのか覚えてはいないけど、とりあえず衝撃的すぎて3杯立て続けに飲んだ記憶だけは覚えているのと、とにかくオーダーしてからコーヒーを提供されるまでのマスターの所作の美しさに感銘を受けた事だけは確かな記憶だ。並々とお湯が入った1.5リットルほどもあろうカリタの銅ポットを軽々と片手で持ち右腕は固定の一点集中で、左手でネルをゆっくりとゆらゆらと回しながら、きれいな細長いお湯がコーヒー粉に注がれてコーヒーの香りが広がってくる、この至福の時間はいままでに味わった事のないコーヒー体験でかつ、味はさらに衝撃的だった。

当時住んでいた家からそのお店は距離で言うと約17㎞ほどで普通は電車で行くのが楽なんだけど、ちょうどロードバイクを買った時期でもあったのでわざわざ自転車を飛ばしてコーヒーを飲むためだけに通って、マスターに今日も自転車で来たの?と顔を覚えてもらえる関係性までたどり着くのに約2年。

そのお店はいつも常連さんが集い、常連さんは「いつもの」と言うだけで、マスターはお客さん毎に豆を使い分け、お客さん毎に抽出速度や時間を調整していて、コミュニケーションせずとも完璧なまでのチューニングを行っていて、なんて素敵なお店なんだと感激した。

それから10年の月日が経ち、シンガポールから日本へ帰国するたびにそのお店に寄って計1㎏くらいの珈琲豆を5種類くらい買ってシンガポールへ持って帰るようになっていた。その際いつもサービスのような形で違う豆を入れてくれていたり、何もシールが貼ってない正体不明の豆を入れてくれてたりで、毎回一番ワクワクするお土産となっていた。

自分で調達できない場合も同様だ。
なかなか当地で好きな珈琲を見つけられずにいたので、日本からのお土産で何よりも嬉しいのが、とりあえずの新鮮な焙煎豆という感じになってしまっていた。

正直そんなにめちゃくちゃ仲が良い友達でも限定した珈琲店の珈琲豆をお土産で頼むのは気が引けるというくらいの配慮は多少あるものの、3人くらいはそのお店の珈琲豆を買ってきてと頼める間柄の友達が居るくらいの(かなりの)図々しさも持ち合わせているので、その3人の1人がシンガポールへ来てくれるというので、そのお店の珈琲豆代行購入を頼んでみた。

重いのにほんまにすんません。。。

だけど中を開けてみると、今回もとても楽しみなラインナップかつ頼んでもない珈琲豆も何種類か混ざっていた。そこにちょこんと「オールドマンデリン」と貼られた、頼んでもない豆のシールがあってテンションが変な事になってしまった。

通常販売は絶対されていないオールドコーヒー豆がはいっていた。

某上野駅のオールドコーヒーを売りにしている珈琲店でいくと、十五年ものの珈琲豆は100g、5000円くらいの値だったと記憶しているが、間違いなくこのお店のオールドコーヒーはその倍もする30年近く寝かせたもので、自分からオールドコーヒー売ってくださいなんて絶対に言いたくない”敷居のようなもの”を自分の中で作っていたので、この「オールドコーヒー」を開封してウィスキー樽のようなほのかな香りをかいだ瞬間に、宝物をもらったような気分になった。

世の中にはスペシャルティコーヒーや、超希少なコーヒー豆という事で限定販売されたお金で買えるコーヒー豆がほとんどだろうけど、お金だけでは絶対に買えないオールドコーヒーを手にした自分は真っ先に妻と一緒に飲みたいと思った。妻はコーヒーを飲むとお腹が痛くなるという事で、全くコーヒーが飲めなかったが、そのお店の珈琲だけはなぜだかお腹が痛くならないみたいなので、二人でゆっくりと至福の時間を楽しみたいと思う。


終わり。

#珈琲 #コーヒー #自家焙煎珈琲 #オールドコーヒー #オールドビーンズ #noteコーヒー部










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