【企業インタビュー】地域と環境共生しながら、広範囲な事業の強みを活かしてサステナビリティを追求 大日本印刷株式会社の事例
脱炭素化社会の推進に向けて、企業はさまざまな取り組みを始めています。
しかし「何をどうすればいいのか」「他の企業はどんなことをしているのか」と考えあぐねている人は多い様子。
パーセフォニジャパンは、先進的に脱炭素化社会に向けた取り組みを進めている企業様にスポットを当て、みなさまが参考にできる実践法をお聞きしています。第7回となる今回は、大日本印刷株式会社様へのインタビューです。
迷ったり悩んでいる方々の参考になりますように。
【用語解説】カーボンニュートラルとは、発生した炭素(CO2が対象)排出量と除去量を差し引きゼロにする状態です。詳しくは過去の記事【秒速理解】脱炭素社会とは?なぜ目指すのか?達成の第一歩とは?で解説しています。
■インタビューした企業様
大日本印刷株式会社
■お話を伺った方々
大日本印刷株式会社 技術・研究開発本部 佐藤 博 様
大日本印刷株式会社 サステナビリティ推進委員会事務局 鈴木 由香 様
創業時から貫く、環境をベースにした事業活動
ーー貴社の事業内容について教えてください。
弊社は1876年の創業以来、長年培った印刷技術を柱に、より良い社会、より心豊かな暮らしを実現するために何をすべきかを念頭に、事業を展開してきました。近年は、事業ビジョンに「P&Iイノベーション」を掲げ、自社独自の「P&I (Printing & Information)」の強みを掛け合わせるとともに、多くのパートナーと連携を深めて、社会課題を解決し、人々の暮らしをより豊かにするような新しい価値を提供していくことに努めています。
健全な社会と経済、快適で心豊かな人々の暮らしは、サステナブルな地球の上で成り立つ。私たちが何よりも環境というものを事業活動の土台に置いているのはこの考えがあるからです。
ーーDNP社は古くから環境に配慮されてきたとお聞きしました。
最初に環境専任の部署が誕生したのは、1970年代ですね。弊社は、東京の市谷地区に出版印刷の工場をかまえて140年近くたちます。その間、事業活動と地域の住民や環境との共生を強く意識してきました。現在、自社の行動規範に「地球環境の保全および環境と経済の両立」を掲げ、環境マネージメントに全社で取り組んでいます。
例えば、工場からの排出物の環境負荷をいかに下げるかといった点が一例です。また、情報の透明性を高め、積極的に情報を開示することも企業責任だと思っております。そのため、環境レポート・CSRレポートの公開に向けた取り組みへも着手が早かったと思います。
ーーカーボンニュートラルを意識し始めたのはいつ頃のことですか。
当社は、1992年にはすでに環境目標を設定し、製品の製造工程で発生する環境負荷の削減に向けた取り組みを進めています。その後、お取引するサプライチェーン全体で「カーボンニュートラルに貢献する」という意識が根付いたのは、世の中がカーボンニュートラルに注力し始めた2015年以降ですね。
ーー環境負荷が少ない製品と環境負荷の削減をサポートする製品、どちらに重きを置いているのでしょうか。
両方です。使用する原材料をできるだけ低炭素にすることで、製品そのものが低炭素になるようなものもあれば、例えばリチウムイオン電池用バッテリーパウチのように、その製品があるからこそ脱炭素の社会が作れるというものもあります。弊社の事業範囲が広いこともあり、自社製品での低炭素化と負荷削減をサポートする製品の両軸の展開可能になることが強みだと思いますね。
広範囲な事業展開を強みに、知識や知見を集約させる
ーーサプライチェーン全体でのカーボンニュートラルへの舵取りは、どのように進めてきたのですか?
事業体や製品によって取り組みは異なります。例えば、我々の製品の一つに包装容器があるのですが、包装容器は製品のライフサイクルがとても短く、また、海洋プラスチック問題の原因にもなります。どうしても環境負荷が製品サービスの印象に結びつくような場合、事業部側から削減に対する事例や意見が出てくるので、我々も連携して取り組みを進めてきました。
このように、事業部間で活動内容を共有しながら進めてきたというのが実態です。
ーー2021年にはカーボンニュートラル推進チームを組成したとお聞きしました。
個々の活動を連携させ、社全体としてより効率的に展開できるようにするために、体制を作り、チームを発足させました。これまでは、各事業部やサービスチームがそれぞれ課題解決策を探し、あちらこちらで同じような動きを取っていたのですが、現在は多様な視点で活動ができるよう、チームの人材は、製造部門に限らず購買部門や企画部門など、多岐にわたる部門から集めています。点在していた知識や業界の知見を集約させつつ、取り組みを決めています。
ーーチームを組成したことで見えてきたメリットやデメリット、また課題はどんな点ですか。
メリットは、社内で緊密に連携できるようになったことです。事業別の課題や取り組みを集約することで、同じような悩みを持っている人たち同士で、解決法を横展開できるようになりました。情報集約に多少時間がかかっても、様々なプレーヤーを巻き込みながら検証ができることはプラスになっていると思います。
マイナス面は、判断する材料と課題が増える分、優先順位をつけるのが難しいことです。優先順位さえつけられれば、同じ目線で一斉に取り組めるのですが、最初の一歩が大変だと感じています。
――全社の課題となると、経営層や関係部署を巻き込んで協議していくのでしょうか?
そうですね。ドラスティックに変えるためには、経営判断が必要です。社内には、社長が委員長を努めるサステナビリティ推進委員会があり、環境に関する方針の立案や施策の推進は、当委員会を中心に進めています。
対してカーボンニュートラル推進チームは、各事業所や部署などといった拠点を束ねる、いわば行政のような役割を担っています。委員会と共に全社の方針や施策を定め、決まった施策を実行部隊である工場などに実行してもらい、進捗を管理しています。
過去のデータをベースにした、堅実なサステナビリティ活動
ーーこれから取り組む予定の活動はありますか。
脱炭素社会に貢献する製品を生み出すことは、最初から自社のミッションに掲げているのですが、とはいえすぐに完遂できるものではありません。炭素排出量を減らすという活動は、実に難しい取り組みです。一方、数値に表すと単純で分かりやすい一面もあります。まずは、目に見える効果を実感するためにも、炭素排出量を減らす活動をより拡充していくことが、今後すぐ取り組みたいことです。
ここ数年、LCA(ライフサイクルアセスメント)やCFP(カーボンフットプリント)が重要視されていく中で、製品単位での環境負荷を可視化するためにデータを算定できる仕組み作りに注力しています。すでに製品の炭素排出量を訴求しながら事業活動を進めておりますので、今後は算定の仕組みを全事業部に広げ、我々の製品に関してはCFPが見える仕組み作りに着手していきます。
――さらに先の展望として、目指していることはあるのでしょうか。
サスティナブルな活動って、飛び道具ではないんですよね。今後新たに何かをするというよりは、今と地続きの活動をより活発化させることが大事だと思っています。
トップマネージメントのビジョンの浸透と現場を巻き込むことの大切さ
ーー早期からカーボンニュートラルへの取り組みを始めることができた理由についてどう考えますか。
自社拠点のエネルギー使用量の把握することに、早くから取り組んでいたことです。全拠点レベルで環境のマネジメントをすると打ち出してから、社内のシステム部門と工場が連携してデータ収集の仕組みを作ってきました。環境部門が発足した当時から製造時における工場でのCO2排出量データを収集していた土台が、Scope 1、Scope2をほぼ全拠点で把握するところにつながっています。
また、廃棄物や化学物質といった全ての環境データが一元化できていた点も大きかったです。取り組みを進める上で、「どう収集するのか」という0スタートではなく、すでに収集はできているところからスタートしている点がアドバンテージだったと思います。
ーーシステムはどのような設計になっているのでしょうか?
各拠点の人たちが入力すると、本社部門で集計数値が見えるシステムです。当初は環境負荷やCO2排出量への意識が今のように高くなかったので、エネルギーのコストダウンのために、日々の製造状況を把握しようという視点からスタートしました。
それでも現場は戸惑っていたようで、いろいろレクチャーをしたと聞いています。ただ時流が変わっていく中で、このままだと本当に環境が危ないという空気が現場に流れ、従業員の意識も大きく変わってきています。
ーー具体的にどう変化してきていると感じますか。
従来より、環境部門では半期に1回、全工場の取り組みを集約したレポートを作っていました。これまでは、目標の達成状況や、自分たちの事業部の評価や優劣に注目した議論がされる傾向にありました。
今では、脱炭素・カーボンニュートラルというキーワードが各拠点に浸透し、全社の目標への意識が高まったと思います。具体的には、各事業部が全社目標にどう寄与しているのかが明示されるようになったことで、現場でも「なんとかしなければ」という雰囲気が生まれています。
ーー次の一歩が踏み出せない企業さんに、ご経験者としてアドバイスいただけたらなと思うのですが。
他企業さんの環境担当の方は、「環境マネジメント」が中心で、工場などの各拠点を活動に巻き込むことに苦慮しているようにお見受けします。弊社の場合は、環境対策のメンバーが現場部隊を巻き込みます。環境の担当者がちゃんと現場を見て、知って、その上で寄り添うということが大切だと思います。
それから、上層部がきちんと一本筋が通ったメッセージを浸透させること。トップダウンでこういうことやりましょうというメッセージを発信している企業の方が、圧倒的に動きが早いですね。
大日本印刷株式会社の皆様、ありがとうございました!
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最後までお読みいただきありがとうございます。
今回の事例を通じて、皆様の活動のヒントが見つかることを祈っています。
それではまた次回、お会いしましょう!