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院内見聞録 入院シーズン3 9日目

2022年5月21日
4:30、5:48(ドレーン)に目覚める。確か、4時半よりも前に一度目覚めたような気もするが、時刻を確認する前に再び寝入ったと思う。手元の夢メモ「古い家電コレクション、サーファー昔話、授業参観、水たまりに入る車、大きくて目立つ、校長先生、フォード」断片的に思い出すイメージはあるのだが、ストーリーはあまり思い出せない。が、トライしてみる。

ドレーンの先につながっている大小のバッテリーのようなもの(実際にはそんなものはない)があって、昔のものから新しいものまで箱にパズルのように大小取り混ぜて保管しているのを見せてもらう。(授業参観ではなく)課外学習でバス?ワゴン車?ランドローバー? 何か大きめの車に乗っている。運転手はわたしと同世代と思しき元サーファー。パリピならではの昔話を聞かされる。途中で川を渡ることになり、そのまま進んでいくが、途中で急に深くなった箇所があり、車全体がすっぽり水の中に浸かってしまい、空いてた窓から濁った水が入ってきて、瞬時に頭まで水に浸かってしまう。

その後、すぐに水から上がれたのだが、パリピ運転手は大笑いしている。笑い事じゃねえぞ、あんな汚い水に浸かったのだから感染症が心配だろうが。砂州にバスを停めて外に出ると、大きくて黒くバットモービルみたいなトゲっぽい改造を施したバイクが停めてある。どうも運転手の私物というか、通勤に使ってるバイクらしい。だれかがフォードだというのが聞こえる。バイクのこと? それともバスのこと?  校長先生については一切思い出せない。

その続きか、別のときか、バスの中で偶然隣の席に乗り合わせたムロツヨシから、今の仕事を辞めて新しい仕事をしたいという相談を受ける。順風満帆にキャリアを築いているし、辞めずに何か小さな新しい仕事をやってみるだけでいいのでは? というと、顔を指されて人が集まってくるから、小さなことから始めようとしても大事になるのだという。確かに…。そのときバスの車窓から見える街並みに酒屋さんがあったので、酒蔵ならあまり外部の人に会わないのでは? というと納得した様子。やってみます、と言ってバスを降りて行った。そのときに以前の仕事に使ったと思しき真っ赤な帽子(ソンブレロみたいな形だけど素材がメッシュのような柔らかい物なので形は保たれない)をお守りがわりに持っていった。バスの窓から見ると、さっそくさっきのお店の中にいるのが見えた。そこは酒屋で酒蔵じゃねぇぞ。いつの間にかムロツヨシは田中圭になっていて、満面の笑みでさっきの赤い帽子を振っているという夢。

朝の検温36.7。やっとサプリを返してもらう。月曜日に退院するには今日決めないといけないらしい。ドレーンの量が減ったので、回診のときに頼み込むつもり。まずはチケットの確保だ。メールチェックとDuo1レッスン。そしてついに翻訳の課題が終わった。授業のときはまったく意味が分からなかった物語だったが、やっとそういうことかと分かった。これで週末は本を読める。

朝食の玉子焼きは安達の好きな甘いタイプ。しかし、わたしはあまり甘いおかずは得意ではない。とはいえタンパク質は今の時期重要なので残さず食べる。そういえば、東京のお蕎麦屋さんで、初めて甘い出汁巻きを食べたときは何かの罰ゲームかと思った。甘い玉子焼きがあるのは知っていたが、甘い出汁巻きがあるなんて思いもしなかったから、ひと口食べたとき、うへぇ、店の人、塩と砂糖を間違えてはるやんと思ったのだけど、頼んだ人が「やっぱりここの店の出汁巻きはおいしいわ」というのを聞いて、東京ではこれが正解なんだ…とびっくりした。そして上京したばかりのころ、どこでカツ丼を食べても甘ったるくて美味しくないと思っていたのだけど、あるとき「ぶらり途中下車の旅」を見ていたら、出てきたカツ丼を食べて阿藤快が「この甘じょっぱいタレがたまりませんねぇ」と言っていて、そうか、これが江戸の味なんだなと納得したのだった。自分の好みじゃないからといって美味しくないとか思ってごめんねー。お茶にビタミンCを溶かし、それとは別にA、B、D、Eを飲む。鉄とマグネシウムは夜に飲む予定。

終わってもうた…。
9:59からぴあの販売ページをリロードし続けること数分。ずっと混み合ってるというアラートが出てたんで、わたしは5分ぐらいやってたんだけど、文字通り秒で販売終了していたらしく友達からは2分の時点で「終了だって」とLineが来ていた。じゃあ、もう退院23日じゃなくていいよ。いや、25日には美容院に予約もしてるし、朝はBestiaでおそらく「ラスまほ」に行くつもりだから、やっぱり退院せねば。

執刀医の先生の回診。退院が23日になった。ドレーンはあまり長く置いていても感染の原因にもなるので1週間で抜くようにしてますとのこと。イヤッホイ!「何か楽しいことがあるんでしょ?」「でも、チケット取れませんでした…」「今、分かったの?」「はい…(ガクリ)」今日は本を読んで過ごす。

今朝、若い女の子(声の感じから20代)が退院した。昼食の直前にその子が退院したベッドに認知症っぽいおばあちゃんがやってきた。何を聞かれても、分かんない。すぐ忘れちゃうんだもんと言ってる。耳が遠いから、先生、看護師さん、本人の声が全部聞こえてくる。ちょっとめくりますよ~。ヤダ、エッチ。途中から何を言われてもヤダというフェーズに入る。なるほど、おばあちゃんのイヤイヤ期ね。じゃあ、採血しますね。痛いのヤダ。病院ではタバコは吸えないですからね。ヤダ、それなら帰る。なんか可愛くなってきた。可愛いけれど、毎日ずっとこの調子だとイライラしそう。医療従事者の方々は優しくいなしながら接していて、大変な仕事だなと思う。

しかし、そのおばあちゃん、わがままは言うけど愛嬌はあるし、病室に来る医師や看護師が名乗るたびに、毎回ちゃんと名前を聞き直して「〇〇さん?よろしくね」というし、妙に堂々としている感じもあって、長年商売をしていた人なのかなと思う。ま、たとえ聞いたとしても全部忘れちゃったと言われるのが落ちだろうが。あと、おばあちゃん、体に心電図とかをつけられるたびにエッチ、スケッチ、マイペット(*1)と言う。その“マイペット”って何やねんと思っていたら、看護師さんも同じことを聞いていた。何でか知らないけどそう言ってたんだよ、とおばあちゃんは言うのだけど、それはエッチ、スケッチ、ワンタッチでしょうに。どう考えても韻の感じからこっちが正解でしょう。さらにおばあちゃんの前職は経理事務らしい。今もお勤めに行ってると言い張ってたけど、それはウソだろう。経理事務だったかもまあまあ怪しい。

それよりも、ずっとこの病院にはお高い個室にしかWi-Fiがないと思ってた。実際にわたしの病室にはないんだが、デイルームに行けばフリーWi-Fiがあることに今日気づいた! もう入院して1週間以上経ってるよ! あんなにチビチビとテザリングしなくてもよかったんじゃん。デイルームにパソコンを持っていくだけでよかったんじゃん。あとでネットの漫画読もうっと。昼の検温37.0。えーーーー。

それにしても、ここの看護師さんもみんなすごく優しい。もしかして、今の看護師さんてみんなこんなに優しいの? わたしが子供のころは、すっごく優しい看護婦さん(そう呼んでた時代よ)も少しはいたけど、怖い看護婦さんがたくさんいた。よく考えると、今の若い人たちはおしなべて優しい。わたしたちが若いころは、みんなもっとギラギラしていて、自分の欲望を隠さない人が多かった。今の人たちの優しさや欲のなさが、ときに物足りなく感じたことがないと言えばウソになる。だけど、自分の欲に忠実な余り、他人にハラスメントしまくるよりも、優しい人のほうがずっといいし、そういう人が多い世界のほうがいいよねぇ。

Wi-Fiエリアで漫画を読み、ちょっと確認したいことがあったので退院してからにしようと思ってた、9割方出来上がってた原稿の確認したいことが確認できたので送る。このフリーWi-Fiに気づいてなかったことを不覚!と思っていたが、ないと思っていたからこそ、今回To doがめちゃくちゃ捗ったので、それでよかったのだと思う。毎日To doを積み残すわたしにはほぼあり得ないことだが、やらなきゃいけないことは全部終わった。あとは読みたかった本を読むだけ。

食事のたびに結構な量のアスコルビン酸を溶かして飲んでいるが、まだ耐用量には達していないらしくお腹は下らない。が、ガスは溜まる。効いてる証拠だ。B、鉄、マグネシウムも飲む。わたしは歩行にも問題がないので食後は自分でナースステーションの前にあるワゴンに食器を返しに行く。で、ふと他人のネームカードが目に入ったのだけど、そこに「ごはん150g」って書いてあるのを見てしまった。ちなみにわたしのには180gって書いてある。で、毎回完食しているのだけど、実はご飯はこんなにたくさんじゃなくてもいいのにと思いながら食べていた。なんちゅうても、出されたものは残さず食べるというのが、体に染みついてまんねん。もしかして、早く言えば150gにしてもらえてたのかも。実際、前の病院は150gだったし、それで十分なんだよ。だからお腹周りがぷよぷよしてきたのか。しかし、もう月曜日に退院だから、このまま何も言わず180gのご飯を完食し続けます。

「ジョン・ウォーターズの地獄のアメリカ横断ヒッチハイク』読了。掛け値なしに面白い。特に最悪の旅では笑いをこらえるのに必死だった。自宅で読んでいたら大声を出してゲラゲラ笑っていただろうが、ここは四人部屋。必死でこらえた。時折小さく漏れるフフフッという笑い声のほうが不気味かもしれんが。よくこんなとんでもないことばっかり思いつくよなと一瞬思ったが、あんな映画の脚本を全部自分で書いているのだから、そんなのはお手の物なのだった。夜の検温36.7。

認知症のおばあちゃん、何度付けられても勝手に心電図や酸素計を外し、わたしは外してないとすっとぼけ、再び付けられるたびに例のエッチ、スケッチ、マイペットを言う。ナースコールを押しては、看護師さんが「どうかしましたか?」と来ると「どうもしないけど、ちょっと立ってるだけ」「じゃあ、少しお散歩しますか?」のターンをもう20回ぐらい繰り返している。看護師さんはそのたびに優しく対応している。他人事ならかわいいが、自分事として考えると何という忍耐力。

小学生の頃見たねむの木学園の映画の中で、宮城まり子にお茶を持ってくる確か自閉症の男の子がいるのだけど、まり子に「ありがとう」と褒められうれしくなって何度も何度も持ってくる。(確か17回? うろ覚えなので回数の記憶に自信なし)そのたびにまり子は初めて持ってきてくれたかのように「ありがとう」と言うのだ。あの場面を思い出した。

これ、わたしにできるかな。他人相手ならギリギリできるかもしれないけど、身内に対しては? この前帰省したときに、前日にすでに話していたことを当日になって父がうるさく言い出したときに「昨日、言うたやん」と強めに言った後で、あ、昨日のことまったく覚えてないんだ…、と反省したことがあった。身内だとこれまでの関係性もあってつい厳しくなりがち。


  1. ふと退院してからググってみたところ、こんなものを見つけた。あのおばあちゃん北海道出身だったのかな?


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