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死後の行方

人が亡くなったあとも、世界は続く。

そんな当たり前のことに私は衝撃を受けざるを得なかった。
母が亡くなったその週末、両親はふたりでそれぞれの実家を訪れることになっていて、その小旅行から戻ってきたら、音楽が好きな母のために、オーディオ機械を買おうねと話していた。ちょっと早い母の日と誕生日のお祝いに、奮発して良いのを買おう、と。
母とふたりで選んで、色も、どっちが良い?って言い合って、カートに入れてあった。

葬儀も終わり、贈る相手を失ったのに、それは今も変わらずオンラインショップのカートの中に残っている。

両親の家のストックルームには、小旅行に行く前に母が買っておいてくれたゴミ袋や、洗剤の詰め替えが置いてある。

そして旅行中だった母のキャリーバッグの中には、途中で寄ったショップで買った、ふたりで共有してる化粧品が入っていた。


持ち主を失っても、キャリーバッグは消えない。

きっと母が自分で置いたであろう、その場所にただ静かに佇んでいる。

そんなふうに、母がいなくても、母がいた時と変わらずそこに在るもの、
在り続けるものがあるということに、それはそれはものすごく衝撃を受けたのだ。


同じように、私の世界も続いていく。

ただ、ひとつ、母がいないままで。

母と過ごした時間だけを遠く、うしろに残して。



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