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ブックレビュー “Good Girl’s Guide to Murder Series” Holly Jackson, 2019,2020, 2021-邦題「自由研究には向かない殺人」

イギリスで2019年に第1巻が出版.大変な好評を博しただけでなく、数多くの賞を受賞し話題になったのが” Good Girl’s Guide to Murder”ですが、2巻の”Good Girl, Bad Blood”と 3巻の”As Good as Dead”で完結する三部作ミステリです.邦訳が出ているのは1巻のみ(2022.2月時点).


1巻のみであれば気分転換として気軽に読める”ヤングアダルトミステリ”で問題ないと思いますが、トリロジーとして読んだ場合、お気楽小説とは言い難い内容に.2巻中盤から3巻に向けて次第に深刻さが増し、3巻ではピークに.途中ややだれる時もありますがテンポ良く話は進み、設定もシンプルでNETFLIXの海外ミステリドラマを見ているようでした.

著者としては、一作目出版時はシリーズで書くつもりは無かったとのこと(↓下記インタビュー記事より).しかし、そうとは思えない伏線の設定と見事な回収ぶりでした.私は1巻の読後、疑問と物足りなさが残ったので、3作全て読むことにしたのですが、もちろん1巻だけでも楽しめます.


表題のGood Girl、すなわちPippa (ピッパ)という大学進学を間近に控えた女子高生が主人公.イギリス・ロンドン近郊の小さな架空の町Little Kiltonが舞台.US版では読者がイメージしやすいようにアメリカの地名に変更されているそうです.著者が一時期住んでいたBuckinghamshireのGreatMissendenをモデルにしているとのこと.

Vol. 1 “Good Girl’s Guider to Murder” 
5年前の殺人事件の真相に疑問を抱いた主人公が真相解明を卒業研究のテーマに選び、調査を進める中で、様々な真実が暴かれていきます.設定は非常にシンプル.舞台も小さな町中ですし、登場人物も極々普通の人たちのみ.使用される小道具も、SNSやフェイスブック、スマホ、インターネットの特性がしっかり駆使されていてリアリティを感じさせますがとてもシンプル.

Vol. 2 “Good Girl, Bad Blood”
5年前の殺人事件は一応の解決をみたように思えましたが、今度は友人の兄が行方不明になり、捜索に協力することに.その中で新たな衝撃的な事実が判明.そして1作目の事件の更なる真相が明らかに.

Vol. 3 “As Good As Dead” 
これまでの事件によるPTSDで苦悩する主人公が今度は自分のために真相解明に挑む.自己のモラルに深刻なチャレンジを受けて深く悩む主人公にいたくどきどきさせられ、時にはどんな決断をするのか知るのが不安で読み進めるのが恐ろしくなりました.そして、5年前の殺人事件にまつわる事件の全てが明らかに.ちょっぴりサイコホラー要素あり.結末がグッドエンドかバッドエンドかは読み手や読み方で変わると思います.

主人公の名前の「ピッパ」ですが、在英時にはあまり聞いたことがないなと思い調べてみました.ギリシャ語のPhilippaが由来で”lover of horses”の意があるそうです.馬は特に関係ありませんが、考えてみればキャサリン妃Kate Middletonの妹さんがPippa Middletonなのでした.もしかしたら今のイギリスでは割とホットな名前なのかもしれませんね.

それにしても、Pippaが”Good Girl”というのは、母親業を営む日本人のわたしとしてはちょっといただけない…(笑).Good Girl、すなわち、おりこうさんは、夜中の10時過ぎに町中をうろついたりはしないでしょう.本書内のGood GirlであるPippaは成績優秀、頑張り屋さんで好奇心旺盛.面倒見も良く、「ドラッグやアルコールには目もくれない(!!)」というキャラクターが提示されています.しかし、前半部はともかくとして、「ドラッグやアルコールには目もくれない」というのがなんだか微妙な気持ちに.確かに未成年の麻薬や飲酒はロンドンではさして珍しいことではないのですが.しかし、3巻目でまさしくこの”good girl“というテーマにPippaをチャレンジさせていて、それが読み応えにつながったように思えます.

いずれも、ドラッグやレイプ、特に3巻はグロテスクな描写やモラルに抵触するセンシティブな描写が入るので苦手な方は要注意.

[note]英語学習の観点から
邦訳は第1巻のみ.1巻はまさしくteen向けですが、文章のリズムもとても軽快で読みやすい.単語を無理に覚え込まなくても3冊シリーズを読めば頻出単語は話を楽しみながら自然に覚えられると思います.

これは個人的な感想ですが、3巻目は「わたしにとっては!」とても恐ろしい展開で、怖くて怖くて読むスピードが猛烈に早くなりました.速度を上げて読む練習が無理せず自然にできるかもしれません.

インフォーマルな会話文が多いので音読すれば会話の練習にも.リズムや造語の作り方にふれられます.ただ、若者限定です(高校〜学部生ぐらいまで).いい大人はやめた方が無難.

3巻中途で複雑な動作描写がかなり長い間続くセクションが.英文から動きをダイレクトにイメージしながら読む練習になると思われます.訳語を調べるだけでなく物品は画像イメージまで調べるとわかりやすくなるはず.

邦訳は1巻のみ「自由研究には向かない殺人事件」です.

Happy reading!


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