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ライアン・ジョンソン監督『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』感想 王道ミステリを通じた新たなるジェダイの覚醒!

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今回は『最後のジェダイ』のライアン・ジョンソン監督によるミステリ映画の感想です。

Story
NY郊外の館で、巨大な出版社の創設者ハーラン・スロンビーが85歳の誕生日パーティーの翌朝、遺体で発見される。
名探偵ブノワ・ブランは、匿名の人物からこの事件の調査依頼を受けることになる。
パーティーに参加していた資産家の家族や看護師、家政婦ら屋敷にいた全員が第一容疑者。
調査が進むうちに名探偵が家族のもつれた謎を解き明かし、事件の真相に迫っていく―。

日本語版公式ホームページ https://longride.jp/knivesout-movie/ より

豪華スタッフによる王道ミステリ!

 『 LOOPER』『最後のジェダイ』のライアン・ジョンソン監督、『007』のジェームズ・ボンド/ダニエル・クレイグ、MCUキャプテン・アメリカ/クリス・エヴァンスらビッグネームが並ぶ本格ミステリです。
 ジョンソン監督がアガサ・クリスティをリスペクトして製作しているだけあって、本作は昔懐かしい洋館を舞台に、テンポよく事件が展開されていきます。場面によっては時系列が前後することがありますが、特に混乱なく見られる丁寧な構成になっています。

本当に名探偵?ダニエル・クレイグの大転身!

 大富豪ミステリー作家ハーランの変死事件と莫大な遺産の相続問題が絡む今作では、ジェームズ・ボンド、じゃなかった名探偵ブノワ・ブランが暗躍します。この探偵役をダニエル・クレイグはかなりハッチャけて演じていて、キザなボンドと違って、本当に名探偵なのか?と不安になるくらいの胡散臭さ(笑)ピアノ鳴らして遊んだり、ドヤ顏したり、イヤフォン聞いてリラックスしたりと愛嬌溢れるキャラクターです。

怪しすぎる容疑者たち!ハイルヒドラ!なキャプテン・アメリカ(笑)

 ハーランの死は当然自殺などではなく、犯人の悪意が存在するのですが、容疑者であるその家族がオルタナ右翼にネトウヨ、エセリベラルに遊び人と揃いも揃ってクソ野郎ばかり(笑)
 どいつもこいつも世間体を一応気にしていい人ぶっているものの、一枚剥けば我が身第一な偽善者です。被害者とは皆なにかしらトラブルを起こしていて、且つ自分が相続する遺産をアテにしていて、要は動機が全員バッチリ! 
 特に存在感を放つのがクリス演じる、キャプテン・アメリカ!とは真逆のクソ野郎ランサム・ドライズデール!!
 日本語版吹き替えも声優の中村優一ってもう完全にキャップじゃん!てキャスティングにもかかわらず、口から出てくるセリフはクソクソクソ!まさにヒドラ版キャプテン・アメリカ!!
 ただまあ作中で「クソくらえ(Eat shit)」と他の家族に連呼するシーン、そこだけは完全に同意します(笑)

鍵を握るもう一人の主人公マルタ・カブレラ 

 名探偵と怪しい容疑者の間で揺れ動くイレギュラーな存在、もう一人の主人公といえるのが被害者の友人で専属看護師だったマルタ・カブレラです。
 マルタは事件の裏側で起こっていた事情を唯一知っている関係者であり、かつ嘘がつけない体質(意図的に嘘をつくと条件反射で嘔吐してしまう)だったことから、ブランの探偵助手として協力させられることに。
 ところがマルタはある事情から、良心の呵責に悩みながら、捜査を密かに妨害していきます。その緊張関係がいい意味で働いていて、中だるみもなくテンポよく事態が展開していきます。
 
 移民の家族を養いながら富豪一家に献身的に尽くしてきた彼女は、特に被害者であるハーランとは信頼関係を築いていました。
 他の家族が彼女を見下しているのとは対照的に、ハーランは囲碁をしたり、家族に対する相談をしたりと、雇用関係を越えて友人や実の孫のように彼女を思いやっていました。そのハーランの想いの強さたるや、もはや老オビワンや老ルークといったジェダイマスターの域!
 
 物語の中盤、ハーランじいちゃんの遺言が公開されてみたら、全額マルタに相続させる!なんてめちゃくちゃなことが書かれていました。当然家族は大激怒!建前の善人ヅラ引っ込めて夜叉のごとく脅しをかけてきます。
 ここまでくるころには視聴者も「負けるなマルタ!」とすっかり感情移入しているはず。そして終盤、事件は意外な結末に!

マスターを越えて パダワンからジェダイへ

 ハーランの死から始まる本作は、「ハーランの弟子であるマルタが数々のダークサイドからの誘惑や試練に晒されながら、自身の良心に従って行動することで一人前のジェダイへと成長していく物語である」ように僕は感じました。SW EP9がしっくりこなかった身としては、今作でやっと『最後のジェダイ』の続編的な楽しみ方ができました。

 どこの国も抱える移民問題

 本作では移民への差別問題についても考えさせられる内容になっています。本作の富豪家族は移民への差別意識を隠しながらも(実は全然隠れていないのですが)、マルタが遺産相続することになり立場が逆転した途端、その本性をむき出しにして中傷をはじめます。自分は善人と思い込んでいたものの、本当は優位な立場から見下してしただけでした。

 現実でも少子高齢化が急速に進む日本は、万能高機能ロボットが突如大量に出現でもしない限り、労働力を移民に頼らざるを得ない事態になると個人的には思っています。しかし、外国人技能実習生への非人間的な扱いが報道されるたび、さらにその報道に心無いコメントが殺到するのを見るたび、僕は陰鬱な気分になります。
 「外国から人材を獲得する」というのは「安い賃金で使い捨てる奴隷を買う」ということでは断じてなく、「国内の人材と切磋琢磨して共存する人材を受け入れる」のが正しい在り方だと考えます。平等な競争とキャリアアップの道筋が約束されてこそ、雇用に魅力は生まれるからです。
 優秀な人材が日本へどんどん集まれば、当然様々な見た目の上司にある日命令されるようになることも十分あり得ます。そんな時、白人以外の他の有色人種の上司があらわれた時、日本社会(もちろん僕も含めます)は差別意識を越えて彼ら/彼女らを受け入れられるのでしょうか。男女のジェンダーギャップだけでも最悪な日本の現状からとても楽観はできません。 
 実際問題、上司になった人間が女性でも年下でも外国人でも嫌な奴は当然いるでしょうから、部下になって嫌な想いをすることもあります。しかしそれは日本人男性上司であっても同じこと。自分の経験上だけでも、いい人も悪い人もいて、結局人によるんだから余計なラベリングなんて関係ねーじゃねーか!と思っています。

 映画のような逆転劇がいざ自分の周囲で実際起こったとき、果たして僕はハーランやブランのように一人の人間として対峙して紳士的に振る舞えるのか。どうか振る舞えるようありたい、と思います。 

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