見出し画像

【スターバックの本棚】『徳は弧ならず 日本サッカーの育将 今西和男』

『徳は弧ならず 日本サッカーの育将 今西和男』
木村元彦 著 /‎  小学館

画像1

私は、サッカーを深く知りません。そんな私がなぜこの本を、お薦めするのか?

本書に人を育てる上でとても大切な普遍性が描かれているのです。日本サッカーの育将(人材育成の大将という意味でこれは著者の木村さんの造語です)である今西和男さんは誰もが分かる表面的なスキルで選手を評価しません。まだ若いアスリートの潜在的な能力を見つけ、そこに練習の目的、努力することの大切さを教えます。さらに、レポートを書かせてコミュニケーションスキルをアップさせます。メンタルトレーニングでは「お前はどんな選手になりたいのか?そのためにはどこを伸ばす?いつまでに何を体得する?」とひとりひとりに寄り添います。選手生命が終わった後も生きて行くことに困らないように社会人としての教育にも無私の精神で献身的に尽力されます。

風間八宏、高木琢也、小林伸二、片野坂知宏、久保竜彦、等々。すばらしい選手、指導者を雲霞のごとく育て上げます。その中で象徴とも言えるのは、現日本代表監督の森保一さんです。森保さんは身体も小さく技術もスピードもそれほど無い、まったくの無名な選手でしたが、今西さんが、相手の先を見るスキルがあることを見抜いてマツダに入社させます。それもすでに枠が無いので子会社に入れるのです。森保さんの努力もあり、そこから日本代表選手、日本代表監督へと昇り詰めるのです。

今西さんは、1941年に広島に生まれ4歳で被爆し、左足は、やけただれケロイドが残り、劣等感の塊でした。しかし、サッカーと出会い、東京教育大学(現筑波大学)へ進学し活躍、引退後も人を育てることに情熱を注ぎ続けます。その向き合い方に心打たれたのです。シンクロの私の恩師、井村雅代先生も決して身体能力の高くなかった自分を拾い上げ、日本代表にまでして下さいました。厳しいけれど全力で向き合って下さった。重なるものを感じます。そしてそんな今西さんのような方でもパワハラに遭って理不尽な目に遭わされます。けれど、教え子たちは黙っていませんでした。

真の人材育成とは何かを問う感動の記録です。人を育てる立場の方に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

画像2

二村 知子 | Tomoko Futamura
隆祥館書店店主 井村雅代コーチ(当時)に師事し、シンクロナイズドスイミングを始め、現役時代はチーム競技で2年連続日本1位、日本代表として2年連続世界第3位に。現役引退後、隆祥館書店に入社。2011年から「作家と読者の集い」と称したト-クイベントを開催、2016年からは「ママと赤ちゃんのための集い場」を毎月開き、2019年4月からは、宝上真弓先生と子育てに悩む親御さんのために絵本選書の無料サ-ビス、2020年6月より、お客様からのリクエストを受け一万円選書を始めている。

隆祥館書店:http://atta2.weblogs.jp/ryushokan/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?