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聖教新聞・名字の言・影絵作家の怒り・2024/05/24

日本の影絵作家の第一人者である藤城清治氏。その100歳を記念する展覧会が福岡市博物館で行われており、足を運んだ▼童話や風景などを鮮やかな色と光で織り成す影絵の数々は、息をのむほど美しい。鑑賞者からは「メルヘンの世界に引き込まれた」「まるで、おとぎの国を訪れたよう」と感嘆の声が相次いでいた▼一方、その制作現場を知る人の多くが、作風からは想像もできない氏の姿を目の当たりにしている。「何かに対して怒りを叩きつけているようだ」と。第2次世界大戦中、氏は海軍少尉として戦場で地獄を見た。展覧会の図録には「何かへの怒り、何かへの強靱な意志が芽生えたのは、その瞬間だったと思う」(ジャーナリスト・岡本愛彦氏)とあった▼戦争の残酷さ、生命の尊さを深く深く知るゆえか。氏の影絵は、木の小さな一枚一枚の葉だけでなく、その葉の裏にいるかもしれない虫一匹の命さえも“粗末にするな!”と訴えかけるような緻密さ、繊細さだ▼御書には「瞋恚は善悪に通ずるものなり」(新742・全584)とある。戦争や暴力に対しては断固として怒るが、大事なのは、その怒りを平和創造へのエネルギーに変えていくこと。そうした精神を育むことの大切さを思った。(実)

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