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映画『いつかギラギラする日』 (ネタバレ感想文 )当時の時代錯誤感も今となっては許容範囲

映画館で鑑賞した1992年の公開当時でも年寄り臭く古臭い「時代錯誤」感のある映画でしたよ。しかし、一昨年、27年ぶりの再鑑賞をした際に「今となっては許容できる誤差の範疇」と思うようになりました、という話を(寄り道しながら)書きます。今回なぜかまた鑑賞。3度目。意外と嫌いじゃないんだな。そう何度も観るほど好きでもないけど。
(以下、以前の感想のリライトです)

いろいろ「事後情報」を語りたい映画なんですよ。

自宅で不倫相手に自殺されたスキャンダル女優・荻野目慶子を深作欣二が救ったはずが結局自分の愛人にしちゃうきっかけの映画だとかさ。
この映画の荻野目慶子(当時28歳)の痛さは、彼女を見つめる深作欣二(当時62歳)の痛さが出ちゃってるんですよ。本当はいい女優なんだぞ。市川崑『獄門島』(77年)観てみろ(<子役時代かよ)。図らずもこの映画の千葉真一が深作欣二の姿に重なっちゃうんですよね。若い女と付き合うと寿命縮めるな。

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あと、バンド役で出演していた恩田快人にエキストラのYUKIがデモテープを渡してJUDY AND MARY結成のきっかけとなった映画だとかさ。JAMはさあ、恩田快人主導のロックバンドがTAKUYA中心のポップスバンドに変わっていく様が(恩田快人視点だと)悲しいんだよね。私の中でレベッカと重なる。木暮武彦が作ったギターロックバンドが土橋安騎夫中心のシンセポップスバンドへ変わっていくの。俺、デビュー曲「ウェラム・ボートクラブ」好きなんだけどな。レベッカの場合は男女関係も絡むからなお切ない。

おっと、全然関係ない話を長々語ってしまった。

こうした周辺情報はどうでもいい(<自分で語っておいて)。
この映画の本質は、実はプロデューサー「山師=奥山和由」にあると思うのです。

故大林宣彦の言葉を借りれば「監督天国」だった当時の日本映画界で(特に大林宣彦はやりたい放題だったからな)、プロデユーサー主導の映画作りを目指していた奥山和由。映画のポスターに監督名と並んで「製作」とデカデカ名前出るのは奥山くらいしかない。
で、そのプロデューサー主導で生まれた企画が「深作欣二にアクション映画を撮らせる」。
ところがこれが「時代錯誤」の始まりだったと私は思うんですね。深作欣二がアクション映画を撮っていたのは70年代。この10年は文芸作品にシフトしていた。実際、『仁義なき戦い』(73年)の頃に比べたら切れが悪いし。

結果、野沢尚に書かせた脚本は深作欣二では実現せず、奥山プロデュース作として北野武に回されて監督デビュー作『その男凶暴につき』(89年)となります。
もっとも、たけしが脚本を大胆に書き直したことに対して野沢尚は死ぬまで恨み言を言ってましたけどね。
余談ですが、たけし映画は脚本家泣かせらしく、『みんな〜やってるか!』(95年)のテロップに脚本料未払いの制作会社名を見つけた田中陽造が「俺の脚本料がウンコに化けている」と言ったとか。

話戻って、「深作にアクション映画を撮らせる」奥山企画は、最終的に「丸山昇一脚本」で落ち着きます。ところがこの丸山昇一も、私に言わせれば「時代錯誤」なんだ。
ドラマ「探偵物語」、『処刑遊戯』(79年)『野獣死すべし』(80年)からそのキャリアをスタートさせた丸山昇一は、まるで「松田優作に囚われた男」。あるいは「松田優作症候群(シンドローム)」。もしかすると自分が松田優作だと勘違いしているのかもしれません(<そんなわけあるか)。
つまり「本当は松田優作を想定して書いたんだろうな」と想像しちゃうものが多すぎる。この映画も例外ではありません。どこかで松田優作の幻影を追っている。これも「時代錯誤」感。
奥山的には、『傷だらけの天使』ショーケン×『探偵物語』の脚本家という狙いだったのかもしれませんが、台本を見たショーケンは「Vシネみたいだ」と不満を言ったとか。ショーケンご不満の真偽の程は分かりませんが、Vシネが映画を脅かしていた時期であることは間違いありません。

そんなVシネ感を払拭するためだったのか、制作費がどんどん膨張して(3億の予定が11億になったとか)制作会社が一つ潰れたという話もあります。そういやこれ以降、山田洋行ライトヴィジョンの名前を見なくなった気がするけど、そうなのかな?
そしてなんと言っても、深作欣二の若者描写がダサいのよ。なにその赤い風船?お爺ちゃんボケてんの?

ところが21世紀の今となっては、いずれにせよ「昔の映画」なんです。
当時感じた時代錯誤感なんか全部まとめて同じ時代感なんです。
「ロックだぜ」的なことも、内田裕也も死ぬまでそんなこと言ってたよね、お爺ちゃん達若い頃はロックロック言ってたのね、くらいにしか思われない。そして奥山和由の足跡の一つとして「そういや時代の寵児とか言われてたな」程度の思い出になるわけです。めでたしめでたし。

ただこれ、ガンアクションとかカーチェイスに重点を置いちゃったのが「見劣り」の要因で、もう少し知的攻防戦に比重を置いていたら、もっと面白かった(今でも面白かった)んじゃないかな。ショーケンは見てて飽きないし。
(2021.08.06 CSにて鑑賞 ★★★☆☆)

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監督:深作欣二/1992年 日

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