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映画『サマーフィルムにのって』 (ネタバレ感想文 )セカイ系ビューティフル・ドリーマー

おそらく監督は、映画(映像)に対する危機感を抱いているのでしょう。
ド腐れキラキラ映画ばかりが全国上映され、本格派よりお手軽胸キュンがもてはやされ、思考を必要としない短絡的な短編動画が主流となる。好きを好きと口にしないのが映画の魅力なのに、逆に好き好きしか言わないアバンギャルド感。監督が言いたいことは痛いほどよく分かります。

こうした風潮、特にド腐れキラキラ胸キュン厨房デート映画なんか、我々世代にとっては『斬る』対象なのです。斬られりゃ痛えぞ!しかしこの映画は「共存」の道を探ります。
時代ですね。

他にも、監督達は女性で、男はそれに振り回される召使いというのも現代的です。
『アナと雪の女王』がそうなんですよね。あの映画、男ども全員が全員、女性のための道具にすぎない。

「何読んでるの?」「ハインライン」という台詞から、すわ「宇宙の戦士」か?『スターシップ・トゥルーパーズ』なのか?はたまた「月は無慈悲な夜の女王」か?と思う間もなく(<思うなよ)あっさり『夏への扉』が提示され、早々に『時をかける少女』も提示されていることから、あータイムトラベラーなのね、このイケメンが高柳良一こと深町君なのね(<逆だ)と、これまたあっさり分かってしまいます。
しかしそこは肝ではなかったようで、早々にネタバラシします。冒頭に書いた通り「映画・映像が軽んじられている」という監督の主義主張のための道具立てにすぎません。

んー、もしかすると、この『サマーフィルムにのって』というタイトルは、「夏への扉」を意識した(もじった?)タイトルなのでしょうか?
ただ、いまいちピンとこない。
わざわざラストにもタイトルを出すからには、「なるほど!そういう意味だったのか!!」と思わせなきゃいけない気もします。私が気付かないだけかもしれませんけど。

自主映画を撮っていた身からすると、それほど「あるある」でもない。
自主映画あるあるは細野不二彦「あどりぶシネ倶楽部」というマンガに全て描かれているんですよ。
監督はレンズを通して主演女優に恋をし、告白してフラれる。これ、あるあるだと思うでしょ?真のあるあるはこの先なんだ。フラれた後に編集作業が残ってるの。フラれた女の映像を泣きながら編集する。これ、自主映画(監督)あるある。

この切なさがこの映画には欠如していると思うんです。
切なさの餌はたくさん撒いてるんですよ。でも切なくない。真に迫ってこない。

その原因は「セカイ系だから」というのが私の見立てです。
個人の狭い世界が未来の(映画の)危機に直結してしまう。「社会」という中間世界がないんです。親も部活顧問も担任も、大人は誰ひとり出てきやしない。
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)や『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)は「大人不在」に意味がある。押井守や原恵一は、大人不在という「SF設定」が物語の軸であることを心得ている。
でもこの映画の大人不在は「ご都合主義」でしかない。

これが大学生ならまだいいんですよ。
でも高校生って、大人との関係(というか枷)が「生きる世界」だから、その葛藤の中で青春物が成り立つと思うんです。昨年の傑作青春映画2本『アルプススタンドのはしの方』も『のぼる小寺さん』も多少なりとも教員が存在し、ただ登場するだけでなく、見守ったり導いたり反面教師であったり大人の存在意義がある。
ああ、だから「大学生の青春物」ってないのかな。『サマータイムマシン・ブルース』(2005年)くらいしか思い付かない。

そうした社会という枠(枷)を取っ払うとどうなるかと言うと、主人公のご都合主義で構築された「セカイ」になってしまう。その結果、「実は全部彼女の妄想でした」「夢オチでした」「ちゃんちゃん」って言われても納得しちゃう。だって全部彼女の「理想郷」だからね。いやむしろ妄想の方がすべて辻褄が合う。何だよ、河原の廃車の秘密基地とか。
つまり「ご都合主義の妄想」に見えてしまうから真に迫ってこない。切なくない。
劇中「誰かの物語に割く時間がない」といった台詞がありますが、リアリティを持った「誰かの物語」は「私の物語」になり得るのです。しかしご都合主義の「他人の夢セカイ」は面白くない。私の物語にはなり得ない。斬られても痛くない。

ただ、ラストバトルは悪くないんです。アクションがかっこいいだけでなく、登場人物の気持ちも乗っている意味のあるアクション。バトルの必然性がある。むしろこれをやりたくてこの映画を撮ったようにさえ思います。それはそれで悪くない。この監督の「JKでチャンバラやりてえんだ!」って気概すら感じる。
万一これがグダグダだったら「お前、今まで何を時代劇を語ってたんだ!」と怒ってましたけどね。
(2021.08.18 池袋グランドシネマサンシャインにて鑑賞 ★★★☆☆)

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監督:松本壮史/2020年 日(2021年8月6日公開)

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