映画『17歳の瞳に映る世界』 (ネタバレ感想文 )男性の瞳には映らない世界
「男性にこそ観てほしい作品」とどこかで誰かが言っていた。滝藤賢一だったかな?
私もそう思います。男性はもっと女性のことを知るべき。フェミニズムとか思想的なことではなくて。
フェミニズムって、ミサンドリー(男性嫌悪)とかミソジニー(女性嫌悪)がベースになりがちだけど(本来は違うんだろうけど)、嫌悪のためではなくて「好き」になるために互いに理解し合うべきだと思うんですよ。男女の関係に限らず国家間も。
そう考えると、舞台であるペンシルベニア州フィラデルフィアは保守的な街なのでしょう。
未成年の中絶には親の同意が必要であり、さらに中絶は「よくない」という教育までされる。
長距離バスで行けるニューヨークとワシントンの中間あたりに位置し、独立宣言が行われた「THEアメリカ」な土地のせいかどうか知りませんけどね。
じゃあ望まない妊娠をした場合はどうすんのさ?
「行為におよんだオンナも悪い」「拒もうと思えば拒めたはず」「メス犬め」とか言われるんですよ、きっと。そう考えると共和党支持者が多い土地柄なんでしょうな、知らんけど。
でも確かに、私の記憶では、ペンシルベニアのシーンは白人ばかりだった気がします。ニューヨークに出てきて初めて黒人が出てくる。
原題は NEVER RARELY SOMETIMES ALWAYS。
劇中、医者の質問の回答として与えられる「四択」。めちゃくちゃ秀逸なタイトルだと思うんです。
ところが何だよ!この邦題(私はクズ邦題にすぐ怒る悪癖がある)。
と思ったら、確かに『17歳の瞳に映る世界』だったんですよ。
エリザ・ヒットマンは17歳の主人公オータムの視線に丁寧に寄り添います。
観客は、彼女と一緒に「世界」を見るのです。
彼女(女性)にしか知り得ない世界(だから男性が知るべき)、加えて、前述したように、さしてアメリカ事情を知らない私でも土地柄に思いを巡らせることができるほど、彼女の瞳(それは監督の視線でもある)はこの世界をしっかり捉えているのです。
必要以上に大きなスーツケースは、彼女たちが抱える事態の大きさの象徴。
鼻ピアスは何だろう?もしかすると自傷の一種だったのかもしれませんし、変化を求める心象かもしれません。
ニューヨークに出てきた数日間、オータムはほとんど寝ていません。さらに天気は常に曇天か雨。
「17歳」という大人でも子供でもない特別な年齢。そんな彼女の瞳に映る世界は、どんよりした空なのです。
そしてラスト、バスの窓から明るい陽射しが差し込み、彼女はやっと眠りにつくのです。
おそらくそれは、わずかな希望の光なのでしょう。
余談
『17歳のカルテ』(99年)、『17歳の肖像』(2009年)、フランソワ・オゾンにも『17歳』(2002年)という映画がある。「17歳物」という一映画ジャンル。
日本でも70、80年代アイドル黄金時代は南沙織『17才』(71年)から始まり、森高千里のカヴァー『17才』(89年)で終焉したと言われていますが、それは関係ないな。
(2021.07.25 TOHOシネマズシャンテにて鑑賞 ★★★★☆)
監督:エリザ・ヒットマン/2020年 米(日本公開2021年7月16日)