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映画『水を抱く女』奇異な印象と神秘性(ネタバレ感想文 )

私だけかもしれませんが、ドイツ映画ってちょっと不思議な感覚があるんです。うまく説明出来ないんですけど、何かこう、人物の感情が分かりにくいというか、感情の流れが不自然に感じられるというか。『ブリキの太鼓』(79年)、『ベルリン・天使の詩』(87年)、『バグダッド・カフェ』(87年)なんかでも似たような感覚があったんですが、この映画もそうでした。

そう考えると往年のドイツ映画的な映画だったのかもしれませんが、その「不透明な感情」が逆に「主人公の特異さ」にハマった気がします。
もっとも、監督の意図したことではないのでしょうけど。

冒頭の男女の会話。なかなか話が始まらない、始まってもなかなか話が見えない、裏でビートを刻むようなワクワクする構成ですが、主人公ウンディーネは「殺す」と不穏当な発言をし、「電話じゃそんなこと言ってない(留守電を確認したら言ってた)」とキレたり、その後は更衣室でメチャクチャ雑に着替えたりします。
例えば邦画でこんなキャラだったら、「なにこの女?」って感情移入出来ないような気がするんですよね。その後のラブラブな姿を見せられても「なにこの女?」ってずーっと思っちゃいそう。
でもこの映画では、この「奇異」な印象が、やがて神秘性に見えてくるから不思議です。

その要因の一つは主演のパウラ・ベーアの魅力。
私はフランソワ・オゾン『婚約者の友人』(16年)でしか観ていなかったのですが、THEジャーマニーな感じのとても魅力的な女優です。彼女の魅力がウンディーネとしての神秘性に一役買っていると思います。

もう一つは「水」の使い方。
壊れた水槽から流れ出る水は、ウンディーネにとって新たな出会いのきっかけであったと同時に、それまでの彼女の「負の感情」も流したのです。彼女の恋愛がリセットされた瞬間。

そこから「水の精」の伝説を巡る話になるわけですが(私には湖の主=ナマズ伝説に見えましたが)、それはさておき、私は「ベルリン市史」の話が面白かったんですよ。
この監督の作品を観るのは初めてだったのですが、実はこっちがやりたかったんじゃないかな?
分断された過去を持つベルリンという都市は非常に興味深い。

ここからは私の勝手な推測です。
彼女の居住区と潜水夫の男の生活地域、電車で移動する二人の位置関係が分からないので的外れかもしれませんが、女は旧東ベルリン側にいて、男は旧西ベルリン側にいるんじゃないかと思うんです。

つまり、かつてこの街がそうであったように、この男女は別世界の住人だったのではないかと。

もしそうだとしたら、ベルリン市史を執拗に語った意味もあると思うんです。

調べれば位置関係も判明するんでしょうけど、仮に判明しても外国の地理的要素は皮膚感覚では理解できないんですよね。
日本だったら分かるんですよ。例えば『ガメラ2』(96年)で南下するレギオンの首都圏侵入を防ぐ自衛隊の最終防衛ラインが足利に置かれるんですが、栃木県境を流れる渡良瀬川、その背後に利根川があって防衛ラインとして理にかなっているとかね。ま、仙台から飛来したガメラに踏みつぶされて「足利フラワーパーク」なんかは壊滅しているはずですが(<何の話だ?)。

余談
心肺蘇生の胸骨圧迫のリズムが、ドイツでは「ステイン・アライブ」なんだなあ。日本では「アンパンマンのテーマ」なんですよ。同じリズム。

(2021.04.25 新宿武蔵野館にて鑑賞 ★★★★☆)

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監督:クリスティアン・ペッツォルト/2020年 独=仏(日本公開2021年3月26日)

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