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映画『いとみち』 自分らしさという道(ネタバレ感想文 )

青森県が生んだ五大アーティストの一人と私が評している横浜聡子。ちなみに他の4人は太宰治、棟方志功、寺山修司、奈良美智ね(<個人の感想です)。

私が初めて横浜聡子作品を観たのは『ウルトラミラクルラブストーリー』(08年)。
その時はミットを構えていた場所とは全然違う予想外の変化球が投げ込まれたので上手く受け止められなかったのですが、その不可思議なセンスにミゾミゾしたので、たまらず『ジャーマン+雨』(06年)をレンタル。そもそもレンタルなんて滅多にしない上、繰り返し2度も立て続けに観た映画は後にも先にも『ジャーマン+雨』しかない。それくらい衝撃だった。
以後、横浜聡子の名を見れば、映画はもちろんのこと、Web配信(『真夜中からとびうつれ』(11年))はもちろん限定公開(『おばあちゃん女の子』(10年))にも足を運び、テレビドラマ(「ひとりキャンプで食って寝る」)に至るまでほとんど観ている。ドラマ「有村架純の撮休」なんか横浜聡子監督回だけで満足しちゃった(正直、今泉力哉がイマイチ好きじゃないせいもあるけど)。
『ウルトラミラクルラブストーリー』もう一度観たいな。『ジャーマン+雨』スクリーンで観たいな。どこかで上映してくれないかな。

かねがね言ってるんですが、横浜聡子は映画に対する「野生の勘」みたいなものがあるような気がするんです。「天然」と言うよりも「真性」と表現する方がシックリくる。
さらにこの人の映画には、上手く説明できないけど、何やら日本的な土着性みたいなものを感じるのです。田舎くさいというのとも少し違うし、昭和的な何かというのとも違う。新藤兼人的な、あるいは今村昌平的な日本の土着性だとずっと思っていたんですが、もしかすると棟方志功や寺山修司的な何かなのかもしれません。ま、青森県と縁もゆかりもない私の勝手な青森幻想ですけどね。

この映画、大きな括りとしてはオーソドックスな少女の成長譚であり、「自分らしさ」を見つける物語と言えます。横浜聡子らしくない。細かく見れば、泣き方を忘れた女の子が泣けるまでの物語であり、彼女の目に見える景色が変わる物語とも解釈できます。
それを支えているのはリアリティー。方言だけではありません。いと役の駒井蓮ちゃんはすごーく練習したのでしょう、三味線を弾くその姿は堂に入っていました。映画の説得力ってこういうこと。
ネタバレになりますけど、拍手喝采しないのがいいんですよ。だって彼女は、他者の評価を得たかったわけではないんですから。自分自身の「言葉」=「自分らしさ」を見つける過程だったのですから。横浜聡子のこういう謙虚さが好き。

ところで、近年、女性監督による地方女子の葛藤映画が増えている気がします。
岨手由貴子『あのこは貴族』(21年)とか、箱田優子『ブルーアワーにぶっ飛ばす』(19年)とか。山戸結希にも初期の『おとぎ話みたい』(13年)などにその傾向が見られます。いやまあ、男子だってあるんですけどね、『祭りの準備』とか(<古いな)。
そこには、地方出身者であり女性である監督自身の自己投影が見え隠れする気がするのです。
この『いとみち』もその系統の一つとみなしてもいいのかもしれません。
しかし何だか横浜聡子は、そんな葛藤やコンプレックスをスルッとヌルッと超えてしまっている印象があります。「田舎と都会」という構図よりも「この世とあの世」の構図の方に興味がありそうです。青森大空襲のクダリにその片鱗があるような気がするんだよな。むしろそれが横浜聡子らしさ。

余談
これが浅虫海岸か。太宰治『津軽』に出てくる。いつか聖地巡礼で行きたいな。

(2021.06.26 ユナイテッド・シネマとしまえんにて鑑賞 ★★★★☆)

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監督:横浜聡子/2020年 日(2021年6月25日公開)

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