記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画『ベルヴィル・ランデブー』 (ネタバレ感想文 )世界で一番好きなアニメ

なぜ20周年を前に5864日ぶりにスクリーン上映されたのか分かりませんが、おかげで私も2004年12月の公開ぶりにスクリーンで鑑賞することができました。感謝感激。なにせ私の2004年ぶっちぎりナンバー1映画だから。いやまあ、DVDもサントラ盤も持っていて何度も観てるんですけどね。円盤なんか滅多に買わない私がここまで入れ込んだアニメはこれしかない。ああ、あと、押井守『パトレイバー1,2』もあるな。

海外と日本ってアニメーションの成り立ちが違う気がするんです。まあ、映画とテレビの違い(製作事情の違い)なのかもしれませんけど。

日本のアニメ(特に近年のTVアニメ)は「マンガ」を動かすことから始まったような気がします。絵は動かない(口しか動かない)けどいい台詞を連発する。碇ゲンドウなんか口すら動かさない。
そう考えると高畑勲は志が高かったんだな。好きじゃないけど。『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)なんか、いま観ると「野心的だなあ」って思う。アニメの可能性を大きく広げたと思うもん。宮崎駿もそうだけど、画面(絵)が止まってることがない。人物の動き(顔だけでなく体全体に)に「表情」がある。

一方、海外(特にヨーロッパ)のアニメは「映画」を絵で表現するところから始まったような気がするのです。ま、勝手な推測なんですけどね。
実際、カナダのノーマン・マクラレンは「アニメーションは動く絵の芸術ではなく、絵の動きの芸術」と言ってるそうですからね。まあ、この人はどちらかと言えば前衛芸術家ですけど。ちなみにノーマン・マクラレンが得意としたシネカリは『この世界の片隅に』(16年)でも用いられている手法です。

この映画は、「脚本は台詞じゃない」ということを如実に表しています。

いい台詞が読みたい/聞きたいなら小説やマンガ、あるいはラジオドラマでいいわけで、動画なんだから「動き」が最大の魅力なのです。
実写そっくりの街並みだったら実写でいいんですよ。実写背景でアニメを動かす「おかしなガムボール」でいいんですよ。デフォルメ等の実写では出来ない表現手法がアニメの魅力なのです。
(そういった意味では萌キャラはデフォルメの一種なのかもしれないな)

これは、素晴らしい音楽も含めて、「アニメーションの魅力」が詰まった映画なのです。

街並みや船の造形。観客もドン引きするほどのブラックジョーク。世界一ユルいカーチェイス。感動もヘッタクレもない再会シーン。バカ犬っぷり。
押しつけがましい感動とか、ワクワクハラハラのストーリーとか、全然まったく一切関係なし。
そう考えると、圧倒的な大人の文化を纏った(かつての)フランス映画らしいフランス映画にも見えてきます。

そうか。ジャン=ピエール・ジュネが『アメリ』(01年)で描いた古き良きフランスの「箱庭」に似てるんだな。

00年代のフランス映画って、時折こうした「古き良きフランス懐古趣味」が垣間見える気がします。
90年代にリュック・ベッソンがフランス映画をハリウッド化させた(ある意味壊した)ことへの反動なんでしょうけど。
一方、2010年代に入り『最強のふたり』(11年)以降、「社会問題とハートフル」映画が多くなってる気がするんですよね。この約20年の間で、懐古趣味から現実社会に目を向けざるを得なくなった、フランスの社会的背景があるのかもしれません。まあ、ハートフルな映画しか日本に輸入されないのかもしれませんけど。

圧倒的な大人のアニメをご堪能あれ。

(2021.07.27 アップリンク吉祥寺にて再鑑賞 ★★★★★)

追記
ひょんなことから、ジョセフィン・ベーカーという1920年代にパリで人気だった黒人ダンサーを知る。『ベルヴィル・ランデブー』内で彼女を連想させるダンスシーンが描かれている(と思う)。


画像1

2002年 仏(日本公開2004年12月18日)

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?