インドのひとたちとわたくし。(132)-コロナと経済、インドの場合
デリーのパンデミック『第三波』がなかなか収束しないこともあり、これまで以上に外出には慎重になった。
それでもデリバリーや買い物代行サービスが充実していて助かっている。
買い物代行の『Dunzo』では、前にスーパーマーケットでの買い物を頼んだら、萎れた葉物野菜が届いてがっかりだったので、今は代行人には野菜果物専門店に「おつかい」に行ってもらっている。スーパーとは違ってさすがに店のひとが選んで袋に詰めるので、どれも新鮮でなかなかよろしい。白菜なんて小玉だけどずっしりとした立派なのが来る。
冬場に出回る『マスタード・リーブス』は、日本の「からし菜」と一緒だ。一把頼むと、ひと抱えもある、我が家の小さいシンクからはみ出すほどの恐ろしい量が来るのだが、漬物にすれば大量消費できる。こちらのひとは、ピュレにしたこの野菜を、手のひらくらいの小さいチャパティに、白いバターと一緒にのっけて食べる。グジャラートの家庭の味だとシャァムに聞いた。冬場だけのアミューズだ。
卵、乳製品、魚介類、肉類もひと通り、購入先を決めてある。美味しいのを探すのが難しいのがパン類だが、ときどき行っていた高級ベーカリーが配達してくれるとわかった。ただしパンの値段の半分くらいの送料を取られるのだけれど。
私たちが毎日食べる野菜の多くは、近郊やパンジャブ、ハリヤナといった隣接する農業州から運ばれてきていると思うのだけれど、今その供給元である農家のひとたちと中央政府が揉めにもめている。それぞれの州からトラクターに数か月分の食糧を積んだ大勢の農民が抗議活動をするためにデリーに続々と集結していて、市内に入る高速道路入り口のいくつかでピケを張っている。
一時は警察が出動してホースの水や催涙ガスを放ち、一触即発の状況であったが、裁判所が「平和的な集会は問題ない」と判断し、デリー州首相も「やらせてあげるべき」と述べていた。そこで中央政府が対話のために特定のスタジアムに全員が入るように要請したところ、これまた抗議者の反感を買ってしまい、彼らは絶対にそこへは行かないと、州境で陣取っているのだった。
野党第一党はもちろんこの抗議活動を支持しているし、パンジャブはシーク教徒が多いことから、シークの寺院グルドワラが抗議者に無料の食事を配ったり、宿を提供したりしている。
中央政府がこの夏に議会を通した法案は、農産物市場の自由化に関するもので、最低価格保証制度の撤廃や、民間企業の参入などをうたっている。政府は、これが既存の農家にも大きなビジネスチャンスになるとしきりに訴えているが、中小規模の多い大半の農家はそんなことを信じていない。今でも政府が統括する市場の仲買人に買いたたかれてしんどい思いをしているようなのだ。中央政府に対する不信感は強いだろう。
農業州であるパンジャブは、彼らの抗議活動を積極的に支持していて、私たちが以前出会った、パンジャブ出身の女性大臣は抗議の意思を表明するために大臣の職を辞してしまったくらいだ。
抗議活動は市民の権利だからやるのは構わないが、ニュース映像を見ていて『マスクポリス』として気になるのは、数百人の単位で各地から集まった農家のひとたちがあまりマスクを着用していないことだったりする。彼らが野営しているキャンプには満足にトイレもない。心配だ。
近々、大規模な世論調査が予定されているハイデラバードでは、現与党の有力政治家が現地に乗り込んで、演説会や派手なパレードを繰り広げているが、これまた集まって熱狂しているひとびとにマスク姿は少ない。
インドはしょっちゅう選挙があるので、ものごとを長期で考えることがみんな苦手だと以前にラチットが教えてくれたが、確かにそんな一面が垣間見える。。
先日も第2四半期のGDP が発表され、前年同期で7.5%の落ち込みで済んだと、メディアが楽観的に報じていた。第1四半期のマイナス24%に比べれば、そりゃ安心できる数字かもしれないが、身の回りで起きている事象や、私たち自身が置かれている状況を考えると、本当にそうなのかと疑わざるを得ない。
ヴィッキーが頼みの綱にしているゴアの事業家は、事業資金を確保するため、ゴアの地所の一部を売却することにした。そのうちの一部を私たちの会社に、将来の株式交換を条件に貸し付けてくれると言っている。ところが、ロックダウンに入ってすべての役所の手続きが止まり、9月に契約締結する予定が今の今までずれこんでいる。
こちらでの土地売買手続きは非常に時間がかかる。登記所の役人があからさまに『スピード・マネー』を要求してくるのも当たり前らしい。今回、ゴアのひとは日本円で評価額「億」のレベルの土地を少々、値下げしてどうにか買い手を見つけたのだったが、その相手がムンバイに住む70歳のひとで、ムンバイを擁するマハラシュトラ州は、コロナ感染拡大防止のため今、デリーとの航空、鉄道のすべてを運行停止にすることを検討してる。ムンバイからゴアのフライトもキャンセルが増えているらしい。そもそも家族が高齢のそのひとがゴアに出向くことを反対しているというから話が進まない。
割といろいろなことがネット申請で済む社会なのに、土地登記は未だに売り主と買い手の本人双方が判事の前で書類に拇印を押し、証明の写真撮影をしなくてはならないというから、これでは手続きがいつになるのかもうわからない。
フェスティバルや婚礼のシーズンだから、感染リスクがあっても、ひとびとがマーケットに繰り出して買い物をすることは止められない。が、それをもって「経済回復の兆し」などとはとても言えない。消費者ベースではなく、ビジネス・ベースでの需要が肌で今ひとつ感じられないのと、コロナ第三波によるいろいろな措置があらたな足かせとなってしまっている。
こちらの経済ニュースはどちらかというと、見通しが楽観的なのが常なのであるが、先日は珍しく、トップ・アナリストのひとりが次の四半期はまた落ち込むと、深刻な表情で述べていた。今の私の感覚はむしろ、こちらのほうに近い。
‐ 農民たちの抗議活動( Hindustan Times, 1st Dec. 2020 )
‐ ハイデラバードの政治キャンペーン( Indian Express, 1st Dec. 2020 )
‐ 第2四半期のGDP減少は前期より縮小( Business Standard, 28th Nov. 2020 )
‐ マハラシュトラ州がムンバイとデリー間の旅行を禁止( India Today, 23rd Nov. )
‐ 経済の楽観主義は不当( The Wire, 30th Nov. 2020 )
( Photos : In Noida, 2020 )
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