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インドのひとたちとわたくし。(15) -お金は、貸しません

 ごく近しい友人から「2、3カ月でいいので金を貸してほしい」と頼まれてしまった。こういうことは前にも経験がある。こちらの方々は金融機関より先に、友人や雇い主を頼りにしてくることが多いように感じる。したがって当然、借金を巡るトラブルの話もよく耳に入る。
 前にも店舗で雇っていた若い女性スタッフから給料の前借りを求められ、少ない額ではあったが、習慣化するのはよくないと考え、心を鬼にして断ったことがある。今回は、そのとき以上に本人の財政状態について、なぜそうなったのかという経緯もふくめて、ある程度の事情を知っている。困っていることはわかっているし、助けてあげたいのだが、どうにも気が乗らない。

 会社でも私個人でも出せない額ではない。借りたら利息を払うというが、そういう問題ではないのだ。いちど貸し借りの関係をつくると、きっと次も、そのまた次も頼られる。それはもう健全な友人関係ではない。
 聞くとクレジットカードの限度額オーバーなのだという。複数の銀行から借りているようであった。田舎に所有している土地が売れればすぐ返せるというのが彼の言い分である。ただし今、土地の値段が下がっていてなかなか買い手がつかないので、売却できるまでの間、貸してほしいということなのだ。
 家族もいるし高齢の両親の面倒も見ている。窮状はわかるのだが、クレジットカードの限度オーバーしてまで使ったんでしょ、土地が売れるまで銀行に待ってもらえばいいじゃないの、と内心の私が怒っている。銀行にはいい顔をして、土地が売れないリスクをこちらに押し付けるわけ。納得できんわそれは。
 私が貸さないことで、ほんとうにより困った状況に陥るのかもしれない。仕事への熱意にも水を差すかもしれない。そういうこともじゅうぶんに考えられるので、真剣に三日ほど悩んだ。

 三日後、意を決して、二人きりで話をした。

 まず第一に、会社が資金繰りに苦労していることは彼だってよくわかっている。この先もなにがあるかわからない状態で、とても会社から貸す余裕はない。しかもこのやり方は常習化しやすい。こういうのは会社の幹部としてふさわしい行為とはいえない。
 次に私個人が貸す場合、たぶん、これまでのような友人としての関係が壊れてしまう。そんなのは私は絶対に嫌だということを告げた。彼の苦しい立場がわかったうえで、こういう厳しいことを言わなければならないのは本当につらい。こっちが泣きそうになる。彼は頷きながらじっと聞いていて、「その通りだ。わかった、自分でなんとかできると思う」と言って、私の手をぽんぽんと軽くたたいた。

 なら最初からそうしてくれ。借金を頼まれて断るこっちが説明しながら涙が出そうになるなんてどういうことよ。まったくもう。

( Photo : A ladybird in Nainital, 2018 )

 

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