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小説

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2015年2月の記事一覧

座布団の神様

 家には座布団の神様がいる。黒髪交じりの白髪を結い上げて、腰は曲がっているのに背筋をぴしりと伸ばしている。のんびり茶をすするその背中は柔らかく優しかった。

「あれが神のイゲン……」

ホウと息を吐いていると、母にぺしっと頭をはたかれた。

「何言ってんだ、あんたは」

苦笑交じりの声には頭を触る。座敷奥の縁側で昼下がりの光に照らされている座布団の神様は、あまりその場から動こうとはしなかった。いつ

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日陰の男

 山を背にした森の中に蔵が一つ建っている。蔵の屋根に男が一人座っている。蔵の前の地面の上にも男が一人座っていた。蔵の上の男は下に向かって声をかけた。

「おぅい、そこの奴よ。日陰は寒くないかい。上がってきてはどうだろうね」

蔵の下の男は柔和に笑んだ。

「おう、そっちはあったかいだろうねぇ」

蔵の上の男はちょっと伸びをしてみせる。

「そうともさ、日当たりがいいんだ。それに見晴らしがいい」

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花灯りを追う

 四角い箱がある。内壁は白く何の模様もない。何の装飾もなければ、めぼしい家具もない。外壁がどうなっているかは知らない。外からこの箱を見たことはなかった。その中で、髪の長い少女はただ独り椅子に座っている。豪勢な造作の椅子だった。枠木は金、緋のビロードでふかりと膨らんでいる。ただ白いばかりの箱の中と対比して、非常な装飾が目の奥でキンと痛むような光をはじいた。王様が座る玉座に似ている。その中に、身を沈め

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頭の中の揚げ出し豆腐

 それは突然のことだった。頭の中で豆腐が踊りだす。ただの豆腐ではない、揚げ出し豆腐だ。しかも、小躍りかと思うとそういうわけでもない。なかなかにキレのあるヒップホップだった。顔もなく、ただ直接手足のみを生やして踊るさまが非常にシュールで、我が脳内のことながらあきれ果てる。そんな私の目の前で、豆腐が軽快なステップを踏み続ける。

 頭を思い切りはたいた。脳内の豆腐がべしゃりと音を立てて崩れ去る。手足も

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