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5行だけフィクション

「朝、鳥の声を聞くと、寝たくなりませんか」
彼は「いいえ」、とだけ答え、朝は起きる時間ですと言わんばかりに窓を開ける。

「月は何色だと思いますか」
私は瞬時に「青」と答え、「何色ですか」と尋ねた。
「赤です」

「ドビュッシーの月の光のイメージが強すぎて、青です」
私はそういって笑ったけれど、「それなら余計に、赤です」

外は雨が降っているらしい。つぶじゃなくって、線の雨。かさをさして雨の線に隙間をあけたくなるが、鳥の声を聞いた私は眠たくてしょうがない。やわらかな布団により深く潜り込んでいく。

ドビュッシーの月の光は赤かったっけ。ねむねむとした私の頭の中ではドビュッシーは再生されない。まあいいや、とろとろと眠りに落ちる。

開けた窓の外に手を伸ばすと、つい引っ張られて身体が外に出て行ってしまう。一所懸命に布団の中に戻ろうとするが、ふわっと浮いているから雨も悪くないかな、と思ってしまった。

彼を部屋においてきてしまった。朝ご飯はロールパンなのだけれど、5個なんだよな。3つ、食べたいな。

青よりはもっと濃い色、怖くなるほどの濃い青の底に、落ちているのか浮いているのか分からない気持ちになる。音は何も聞こえないような、すーーっと一筋だけ聞こえるような、深い深い底にたどり着いた。ここなら踊れる。私は覚えたてのダンスを踊る。手と足は不自然に宙を舞い、ここでも踊れないか、と楽しくなる。

手を斜め上に伸ばすことだけが上手にできた。すっと右手をあげてみる。踊る必要なんてなかったのかもしれないけれど、それでも下手なダンスを踊り続けてしまう。誰も笑ってもくれないんだから、大丈夫。

こんな底でもよく聞こえるくらいの強い風が吹いた。波ができたから、ここは水中なのかもしれないな、と思った。

ロールパンは3つ、りんごと一緒に並んでいた。鳥の声を聞いたから、安心して眠りにつくことができる。

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