見出し画像

「あり方」や「価値観」でつながるペンギンガレージのコミュニティ運営術

コミュニティを運営している方、あるいはなんらかのコミュニティに参加した経験がある方で、次のように悩んだ経験はありませんか?

「参加者同士が活発に交流してくれない」
「一部の人だけが頑張って負荷が大きくなっている」
「メンバーの熱量が違いすぎて活動がちぐはぐ」

コミュニティ運営に携わる方々と話をすると、こうした悩みは「あるある」です。

「ペンギンガレージ」は、フリーランサー同士で健やかな生息域を共創する目的で2020年末に立ち上げたコミュニティです。

おかげさまで現在まで約2年弱運営を継続でき、当初2人だったメンバーは12人まで増え、定期的な運営MTGやラジオ収録、季節イベントを実施しています。また、メンバーのやりたいを小さく実験する「ラボプロジェクト」では、誰かの行きたい旅先に集合して気づきを深める「ペンギンおとなの修学旅行」を開催したり、活動はさらに活発になっています。

今年の秋には北海道東川町にある北の住まい設計社の家具工房を見学に
旭山動物園に本物のペンギンさんに会いにも行きました

立ち上げ時や運営をするなかで悩んだり、失敗したりすることもありましたが、多くの経験を経て、持続的なコミュニティのヒントが見えてきました

今回は、ペンギンガレージがこれまでの試行錯誤を通して気づいた「持続可能なコミュニティの運営術」についてご紹介したいと思います。立ち上げた当初にどんなことを考えたのか、また運営するなかでどんなことに気をつけ、どんな施策に取り組んだのかーー。
コミュニティ運営を始めようと考えている方や、「ペンギンガレージ」というコミュニティの仕組みに興味のある方は、ぜひご覧ください。

「ペンギンガレージ」ってどんなコミュニティなの?と気になった方はまずこちらからご覧ください。

コミュニティの立ち上げは「課題(イシュー)」から始めよ

コミュニティを始めるときに大事にしてよかったのが、「立ち上げるコミュニティはどんな課題(イシュー)を解決するためのものなのか?」を突き詰めて考えたことです。
改めてペンギンガレージを立ち上げから振り返ったときに、最初の「課題(イシュー)」が明確だったからこそ現在まで軸がブレずにこられたといえます。

そもそもペンギンガレージを立ち上げたのは、「自分たちがほしいコミュニティが世の中にない」というのが出発点でした。

フリーランスの多くは、仕事面や金銭面などつねに漠然とした未来への不安を感じています。その不安を埋めるために仕事を詰め込んでいった結果、余白の時間がなくなって人生の充実感(QOL)が低下して...という悪循環に陥ってしまう。

システム思考でフリーランスの不安を分解した

こうした悪循環を断ち切る役割を果たすコミュニティが、フリーランスには必要ではないか?と考えるようになりました。

すでに世にあるフリーランス系のコミュニティを調べてみると、初学者が学びを深めることを目的としたスキルアップ型や、一人のインフルエンサーのもとに集うファンクラブ型など、集まる意味や目的で4つくらいに分類できました。

それらをより詳細に見て特徴をプロットしていくと、「何年か経験を積んだフリーランス同士が、フリーランスならではの悩みや困りごとを共有しあえる」ような互助会的なコミュニティがまだ世の中にはないことに気づきました。

そんなコミュニティがあれば、自分たちが抱える漠然とした不安による負のループを断ち切れるかもしれないとーー。

そうして、イシュー(課題)が明確になってくると、自分たちが求めるコミュニティの条件が少しずつ見えてきたんです。
過去から現在まで数ある組織を100個近く調べながら、コミュニティでどんな活動が必要か、どんなメンバーで構成されるべきかなどを考え、自分たちが求めるコミュニティ像を形にしていきました。

なかでも最初に意思決定したのが「持続的なコミュニティ」であること。一人ではできないような新しいチャレンジをしたり、フリーランスならではの中長期的な課題意識を共有しあうことができる互助会的なコミュニティを目指すなら、自分たちが50歳、60歳になっても残り続けるものでなくてはならないと考えたからです。

今振り返っても、イシューを起点にして「持続的なコミュニティ」という軸ができたのは大きかったといえます。持続可能であるためには一過性・短期的なことをすると立ち行かなくなるので、「何を大事にするか」という目線をあわせられたのはよかったです。

「ミッション」ではなく「あり方・価値観」でつながる

持続可能なコミュニティを目指すと決めてから、具体的にどうすればいいのか?を議論しました。

そのなかで出てきたのが、「コミュニティにはミッションはいらない」というものでした。組織をまとめる上で、ミッションは大きな求心力になります。成し遂げるべきミッションがあるから、人はそれに引き寄せられます。しかし逆に言えば、ミッションで強く結びついた人は、なんらかの理由でミッションが揺らげば簡単に離れていってしまいます。これでは、持続的なコミュニティとはいえません。

だから「ペンギンガレージ」は、明確なミッションを設定しないと決めました。多様なバックグラウンドをもつ人間が、個々の目的をもちながらつながりあえる関係を目指すことにしたんです。

では、ミッションをもたずにどうやって多様な人間をつなぎとめるのか? そのポイントは「あり方・価値観」にあります

ペンギンガレージというコミュニティの「あり方」に惹かれ合った人間が集まり、「これは大事だよね」という「価値観」を共有し合うことでつながれるのではないかと。そうした考えに基づいて、コミュニティのあり方を示す「コンセプト」や「ビジョン」、行動指針になる「バリュー」を初期の段階から言語化しました。

「あり方」や「価値観」を共有しあえば、個々人のバックグラウンドや掲げている目的が異なることは、コミュニティを維持する上で問題にはなりません。

  • 一人では得られない学びや機会、スキルを補い合う

  • 短期的ではなく、中長期的な課題をみんなで解決する

  • 互いを尊重しあい、背中を預けられる

このように言語化することで、それに共感できるメンバーが集い、「あり方」や「価値観」でつながるコミュニティが作られていきました。

ただ、最初からすべてをきっちりつくりあげたわけではありません。
やや抽象度の高い「あり方」や「価値観」を決めたうえで、それを具体的な「会則」や「会員規約」として具体化するのですが、それらは集まったメンバーで「ペンギンガレージをいい場所にしていきたいよね」という話をしながら少しずつ作っては直しを繰り返して今の形にしました。

昨年末には、メンバーみんなで集まって「ビジョン」や、自分たちは何者かを打ち出す「タグライン」を見直すためのワークを行いました。初期メンバーと新しく入ったメンバーでは理解が異なっている部分が見えてきたので、その重なりを言語化していったんです。

オフライン会場とオンラインのワークボードを併用

コミュニティは、発起人や代表者に権力が集まりやすい構造を抱えています。それがまかり通ると、メンバーを離れた密室での意思決定が横行し、コミュニティそのものが壊れてしまうということが往々にして起こりえます。

持続的なコミュニティを目指す以上、組織の「あり方」や「価値観」ははっきりと言語化し、それらを具体化するプロセスも透明化することが大切だと考えています。

誰かが頑張らなくても回る「仕組み」をつくる

コミュニティの立ち上げを経て、次に気をつけたのが運用フェーズでの「仕組み」づくりでした。

コミュニティがうまく立ち行かなくなる原因に、「コミュニティ運営の負荷が少人数に集中する」というものがあるからです。

たとえば立ち上げメンバーの数人が、よかれと思って企画から事務作業までを少数でがんばって回したとして、初めのうちは参加者も楽しんで盛り上がれるかもしれません。しかし、それではメンバーは「お客さま」のような状態で積極的な関わりが薄れていきます。

そして、少数で頑張っていたメンバーが疲弊して抜けていくと、コミュニティ自体も消滅してしまいます。「誰かががんばって回す」という状態は、一時的にはうまくいっているように見えても、持続可能とは言いづらいのではないでしょうか。

だから、コミュニティを運営していくフェーズで気を配ったのが、誰か一人が頑張らなくても回る「仕組み」作りです。フリーランスはただでさえいろいろなプロジェクトに入っていて忙しいので、とにかくコミュニティ運営のインフラには必要なお金を投資して手間をかけないようにしてきました。

たとえば、「ペンギンガレージ」の情報は「Notion」に集約しています。ホームページ作りも、組織運営に関する情報をまとめたwikiもあるので、わからないことがあればNotionを読めばすべて解決できます。

ほかにもSlackでのやりとりは流れていくので、保存したいメッセージにスタンプを押すとNotionのデータベースにたまるようにしたり、とにかく自動で回る仕組みを作るためにインフラ整備には惜しみなく投資しています。

また、これは立ち上げ時からうまくはまって現在も運営上で大事にしているのが、メンバーの多様性です。

立ち上げメンバーの古澤と松下の2人が、サービスデザイナーとソフトウェアエンジニアというまったく異なるスキルセットをもっていたおかげで、やるべきことの役割分担が自然な形でできあがりました。コンセプトやブランドづくりなどの柔らかな部分は古澤が担当して、会員規則やインフラ整備などカチッとした仕組みは松下が担当するというように、「これは僕がやる。じゃあこっちはお願い」というのが自然に発生して、それがとてもしっくりきました。

現在はメンバーが12人まで増えていますが、デザイナーやエンジニア、マーケター、税理士、司法書士など本当に多様なメンバーがそろっています。そのおかげで誰か一人が頑張るのではなく、それぞれのメンバーが自分の得意やスキルを活かし合い、協力し合える状態が自然と生まれる状態ができあがっています。

何かに取り組むときも、メンバーが手を動かしながら、アウトプットしたものを見て柔軟に軌道修正して作り上げていくようなことができています。

コミュニティ運営は試行錯誤の連続

「ペンギンガレージ」の立ち上げから現在までの運用を振り返ってみて、改めて大事だったと感じるのが、

  • 初期段階でのコミュニティの設計

  • 運用段階での仕組みづくり

でした。

特に「あり方」や「価値観」といったものは、あとから変えようとすると困難が伴います。メンバー間で共通認識であったものが途中で変わってしまうと、メンバーが集まる理由がなくなってしまいます。

だからこそ、コミュニティを立ち上げる段階から、なんのためのコミュニティなのか、どういう人に集まってほしいのかといったことは時間をかけて設計することをおすすめします。

最後にひとつ、持続的なコミュニティを運営するポイントとして付け加えたいのが、コミュニティに新たに加わるメンバーの入会フローやオンボーディングの取り組みです。コミュニティもさまざまありますが、お金を払えば加入できる反面、加入しても基本的に放置で自分でキャッチアップしなければいけなかったりというパターンがみられます。

まだまだ試行錯誤している段階ではありますが、「ペンギンガレージ」は入会フローとオンボーディングの設計にはかなりこだわっています。
「あり方」や「価値観」を共有できたとしても、たとえば不平不満が多い人や、他者の意見を「でも」と常に否定的に捉えてしまう人が入ってくると、既存メンバーがしんどくなって離脱したり、活発な発言がしづらくなるということが生まれます。そのため入会フローやオンボーディング期間をあえて長くとり、それでも中長期的にいい関係を続けたいと思ってくれる方だけが自然と残ってくれるような工夫をしています。

ほかにも、月次のふりかえり会を設けたり、「個人の健やかな状態」についてみんなで対話しながらつくるワークをしたり、一緒に活動するメンバーの人柄や思考をお互いに触れられる機会を意図的につくっています。コミュニティのイベントとしてそういう機会を定期化することで、「雑談がしづらい」「相互理解が進まない」といったオンラインのデメリットを克服できるようにしています。

以上、「ペンギンガレージ」の運用を通じて気づいた、持続的なコミュニティを運営するためのポイントをご紹介しました。ペンギンガレージ自体もまだまだ試行錯誤しながら変化を続けている身ですが、立ち上げフェーズや初期の運営フェーズのコミュニティに携わる方々のヒントにしていただける情報になったのではないかと思います。
もしペンギンガレージにご興味をもってくださった方がいればぜひこちらへ遊びに来てください。

執筆:佐藤 圭太


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?