T先生のこと(マガジン22)
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またT先生は、体験談を交えていろんな話をしてくれた。
ある時は、一人の生徒のことを話した。彼はクンダリーニヨガ のワークショップで色々な感情が刺激されたのか、体をよじらせて号泣しはじめたのだという。過去に辛い体験があったようだった。その時に、彼女がどう思い、他の生徒たちがどのようにしたか。
T先生は、私たちが経験しうるだろうことを想定し、その時に対処できるようにシェアしてくれたのだろう。彼女の講義は、考えさせられるものでもあった。
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ユーモアがあり親しみやすい一方で、先生には、厳しい面もあった。
「毎日同じ場所にマットを敷いてはいけない」と私たちはきつく言われた。
ヨガの教えでは、固着や執着は、否定すべきこととされる。
「自分の気に入った場所を作りそこに執着することは、ヨガの教えに反します。あなたたちは、ここで、そういうことを学んでいく必要があります」と先生は言った。
私たちは、毎朝、昨日とは違う場所を探して、マットを配置することになった。
トレーニング三日目のこと。
授業が終わると同時に、一人の生徒が、スマホを取り出してSNSをチェックし始めた。
トレーニングの参加者たちがしょっちゅうスマホをみることを、T先生はよく思っていなかった。けれど、授業中ではなかったし、その生徒も悪気があった訳ではなく、習慣のように行なっただけなのだろう。
「あなた」とT先生が大きな声を出した。その厳しい口調に、スタジオ内の全員が驚いて顔をあげた。
先生は、スタジオの出口を指差しながら、大きな声でつづけた。「そういうことは、この場を出てからやりなさい!」
スタジオ中が、しんとなった。どうしていいかわからず誰もその場から動けなかった。
T先生は、その生徒から目を離すと、私たち全員の方を向いた。そして、厳しい面持ちで言った。
「皆さんは、何しに来てるんですか」
低い声だった。
「ここは、神聖な場所です。
皆さんが、自分の中の神と繋がる場所です。
そこで、何をしているんですか」
You need to think about what you came here for.
「あなた方はどうしてここに来たのか、よく考える必要があります」
そう言って、先生は口をつぐんだ。
小柄なT先生の迫力は、スタジオの空気を一変させていた。
彼女は、本当に真剣だった。
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T先生は、短い期間で、できるだけ多くことを私たちに伝えようとしていた。レクチャーだけをしにきたのではなかった。
1週間のうちで、私たち一人一人に、人間として、ヨギーとして、生まれ変わるような機会を与えようとしていたのだと思う。参加者一人一人の行動、あり方をよく見ていた。その人は、どんな人間か。そして、何が必要か。
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グループ作業の時、私はT先生の担当のところに入ることが多かった。私は相変わらず英語で苦戦していたし、何も貢献できないことに傷ついていた。小学生だったら、「〇〇ちゃんも入れてあげる」ようなことが行われるだろうが、もちろん、大人が集まっているのだからそんなことはない。
私の存在はないようなものだった。ほとんど口を挟めなかった。ただ、せめて、気持ちだけでも貢献する為に一生懸命だった。誰かが喋っていたら真剣に話を聞いて大きくうなづいた。目があったら、なるべく笑顔を作った。
T先生は、きっと見ていたと思う。
何か言われた訳ではない。それに、偶然グループを担当することが多かったから、そう感じただけかもしれない。
ただ、なんとなく、T先生から、注意を向けられているように感じていた。劣等生の私を、心配していたのだろうか。
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次の話に続く
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