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元恋人は麻薬

私は初恋によって、自分の愛着形成の問題が表面化したんだと思う。

生きていくために本能的に周りを基準に生きてきてしまった。だから自分の感覚がわからない。わからないというか、信じられない。自分の感覚はおかしいから、人に話すなんて怖くてできない。また嫌われちゃうから。

こうしてどんどん周りに合わせることを覚えていく。

大人になってから、さらに自分のことがわからなくなった。それが元恋人と付き合っていた頃の話。


元恋人と私はまるで真逆の人間。彼は「自分は自分、他人は他人」と考えられる人で、自分の意思をしっかり持っている人だった。好き嫌いもはっきりしてる。それが私には強すぎた。

好きな音楽も、好きな映画も、好きな食べ物も、行きたい場所も、欲しいものも、違うことだらけ。そこでお互いが理解しあえるのなら、うまくやっていけるのかもしれない。

それでも私は、周りが正解・自分は間違いで生きてきちゃったもんだから、彼が正しい・私は間違いに変わっていってしまった。彼と同じにならないと、彼が好きなものを好きにならないと、私は嫌われてしまう。私は間違っているから。

彼と付き合っていくうちに、好きな音楽も、好きな映画も、行きたい場所も、欲しいものも、どんどんわからなくなった。彼との違いを感じてしまうから、彼と話すことができなくなってしまった。彼に自分の好きなものを伝えても、「そんなのつまんない」と言われてしまうから、怖くて。

思い返すと、本当に身のある会話をした覚えがない。

私たちはいつも、話すこともなく、ただただくっついていた。物理的に。どちらかといえば私がひっついてた感じ。

中学生くらいから、人に触られることが極端に嫌だと感じ始めた。男女関係なく、なかよしこよしで腕を組まれるのさえ鳥肌が立つ。どこかで読んだけど、これも愛着形成がうまくいかなかった人に現われる特徴らしい。

そんな私をおもしろがって触ってきたのがその元恋人だった。ノリの良さに任せて触れ続けた彼。いつも一緒にいていろんなことを教えてくれて助けてくれる憧れの彼に、少しずつ気を許しはじめた私は、いつの間にか彼に安心感を抱くようになった。

付き合い始めると物理的に触れる時間も部分も大きくなって、いつの間にか私は彼の体温が手放せなくなっていく。彼がめちゃめちゃに甘やかしてくれるもんだから、私は小さな子どもがお母さんお父さんを呼んでいるかのごとく、彼に甘えるようになる。

人にはみんな、甘えのゲージのようなものがあって、小さい頃から少しずつ甘えを積み重ねてゲージを満たして大人になっていくらしい。でも、愛着形成がうまくいかなかった人のなかには、甘えを満たすことなく大人になってしまった人がいる。

私はその満たされなかった空っぽのゲージを、彼によって突然に満たされた。それはもう急激に。満たされたというか、知らなかった甘えることのその甘さに、猛烈に酔った。

だからこそ自分は彼の前では間違ってはいけなくて、嫌われてはいけない。手放したくないから。この甘美なあたたかさを。

そうして彼に嫌われないように頑張っていても、いつかは無理がくる。彼も私も疲れてしまって、3年の交際を経て別れることになった。


カウンセラーさんにこの恋の話をすると、これはただの失恋だと簡単に片付けられるものじゃないという。

今まで許されずに生きてきた人が、突然それでいいんだよと受け入れられてしまう。自分では何がいいのかもわからずに、でも受け入れられてしまって、私という人間の中身をいろいろ見られた挙句、最後にはやっぱり無理だったわ、と突き放されてしまう。

彼によって空っぽの自尊心を持ってしまい、さらにそれを彼の手で奪われる。その傷はとても大きく、深い。

特に私はHSP気質を持っていて記憶が濃いから、相手の声や匂い、体温なんかも昨日のことのように思い出すことができてしまって、あの甘すぎる幸福感は麻薬のように私を苦しめる。

彼は麻薬だと思ってください。

手を出してしまうとこの上ない幸福感を得られる。だけど心は蝕まれてしまう。簡単に忘れることなんてできない。下手したら一生、あなたに残るでしょう。


彼との3年という交際期間は、私の今までの人生で最も幸せを感じた時間だった。それは間違いない。と同時に、ぐらぐらだった自分をさらにさらに失っていく時間でもあった。

彼と別れてもうしばらく経つ。思い出す時間は確実に少なくなっていってるけれど、いまだに猛烈に彼のあたたかさを思い出して、苦しくなるほど泣くときがある。

そのたびに、「麻薬だ。麻薬だ。禁断の果実だ。戻ったところで本当の幸せは手に入らないんだから。」と言い聞かせている。

本当に私として生きていくためには、彼のあたたかさではなくて、自分で自分をちゃんと認めてあげることが必要。そのために私は改めて、自己認識と自己開示へと進もうと思う。

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