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カレー

小さい頃、カレーが嫌いだった。
カレーというか、「家のカレー」が嫌いだった。

三交代制の仕事をしていた父。夜勤の週が始まる日の夜ごはんは「カレーライスに付け合わせのサラダ」と決まっていた。寝起きの父は母の話に、唸るような声で返事をしていたのを覚えている。カレーを食べて、身支度を整え、お弁当を持って、出かけていく。寝るには少し早い時間に、私たちは「いってらっしゃい」と見送る。

実家のカレーは、ジャワカレーとかこくまろカレーとか、そういったよく見るもので作っていたと思う。うん、多分ジャワが一番多かった。ヤシの木が変に見慣れている。

私は当時辛い物が苦手で、まぁ今もそれほど得意じゃないけれど、とにかく小さい頃は甘口。小学校中学年くらいから、中辛と甘口を混ぜていたような気がする。割合は覚えていないけど、私のカレーは大鍋ではなくミルクパンからよそっていた。

学校のカレーは小さめにカットされた野菜が甘めのルーに馴染んでいて、麦ごはんとぴったりで大好きだった。

一方実家のカレーは、味がしなかった。ただしょっぱくて、ごろごろしたじゃがいものもさっとした食感に、スプーンが進まなくなる。(ジャワをディスっているわけではない。そもそも私のカレーもジャワだったのかは不明。)母は料理上手だと思うけれど、母のカレーはとにかく好きじゃなかった。

でもそれを大人になるまで、親には言えなかった。「夜勤の始まりはカレー」と決まっているようだったから。

学校よりも家の記憶が強く残ったせいか、大人になってもカレーはなんとなく距離を置きたい料理だった。

ところが今は、自分でルーを買ってきて作ったり、なんらかのレトルトカレーが常備されているくらいには、好きな食べ物になっている。それは無印良品とYouTuberのおかげ。

「無印良品のカレーはおいしいよ」とどこかで耳にして、なんとなく気になり店舗に行ってみると、その種類の多さにびっくりした。それぞれ簡単に説明書きもあって、自分の苦手そうなものを避けることができた。

初めて手に取ったのは「トマトのキーマ」だったと思う。それがおいしかった。甘味も酸味もほどよくて、おいしいと思えた。実家のしょっぱくて味のないカレーとは別物だった。それからいくつかほかのものも試してみたけれど、スパイスが強いのも苦手で、結局キーマが好き。

またあるとき、お気に入りの料理系YouTuberがバーモントカレーの甘口をおいしそうに作って食べていて、それを見ているうちに私も食べたくなってすぐに買いに行った。スパイスを使ったインドカレーもおいしいけれど、戻ってくるところは「バーモントカレーの甘口」なんだとその人が言っていた。バーモントカレーは中辛じゃなくて甘口こそが至高なんだと。

自分でつくったバーモントカレーの甘口は、これもまたとてもおいしかった。ちゃんと香りがして、甘味もあって、もさもさの食感にならないように小さくカットしてよく煮込んだ野菜たちも食べやすかった。決して野菜が苦手なわけではないし、じゃがバターなんかも大好きだけれど、カレーのなかのもさもさじゃがいもだけは許せない。

自分の人生において一定期間、「カレーが苦手です」と言っていた時期もあった。けれども、今は「無印のキーマとバーモントカレーの甘口は好きです」くらい細分化できている。

ついでに数日前、人生初のカレーパンも食べてみて、おいしいと思った。だからカレーパンも好きです。ちなみにカレーパンは読んでた小説に出てきて、買いに町に出たくなるほどおいしそうな描写がされていたから。

影響を受けやすいのはいいことだなぁと思う。

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