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ぺも短篇集

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エッセイや物語など
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#短編小説

サンカク[超短編小説]

サンカク[超短編小説]

 30年前のその日は、丁度今日のようなかんかん照りだった。正直言ってこんな茹だる暑さで行く気も失せていたが今更ドタキャンなど言い出せず、朝の7時きっかりに公園に集合した。今思えば彼らも同じ考えだったかもしれない。

公園に集合して、W君とT君と歩いて山へ向かう。特に会話もなく1時間程で予定通り山頂に着いたが、そこに感動は無い。お目当てはここから1時間先にいる。奴は山頂のような見晴らしの良い所を好ま

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鼠頭

鼠頭

私の高校生時代の思い出はこれと言って無いが、ただ一つだけ鮮明に記憶していることがある。
それは2年生の夏。7月の中旬、茹だる様な暑さであった。そんな炎天下を私は左耳に白いイヤフォンから流れるQueenの"Bycicle race"を、右耳に車の音を聞きながら、自転車でスカートを揺らしておっちら向かって行った。Queenが大好きな私は興味本位で動画投稿サイトでその曲のミュージックビデオを調べたことが

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鬼武者

「怖いんです」
彼はうつむいてそう告げた。男の隣では3m程もあろうかという鬼が目をギョロつかせ、舌なめずりして男を見つめる。両手にはナイフとホークを持っている。
「怖いって、その鬼が?」
「違いますよ」
少し語調を強めた男が答える。
男はずっとつむっていた目を開き震えた声で話し始めた。
「味噌まみれの赤ちゃんが、部屋の四隅から落ちてくるんです…慌てて受け止めるんですけど、既に遅いんです。落ちた赤ち

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