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児童書『希望の図書館』/感想

舞台は1946年のアメリカ。
黒人の中学生、ラングストンは、
新しい町シカゴで孤独な思いをしている。

故郷アラバマでの母の死は、
少年の心にぽっかりと穴をあけており、
学校では「南部のいなかもん」とばかにされ、
父との関係もぎこちない。

そんな彼が、ある日偶然、
誰もが自由に入れる図書館を見つけ、
同じ名前の黒人詩人
「ラングストン・ヒューズ」の本に出会う。

彼の本は少年の心の支えとなり、
少年は、新しい町で自分の居場所を見つけていく。
小学校高学年から

自分の気持ちを自分以外の何かや
誰かに理解してもらえることが、
この時期の子どもにとって、

どんなに大きな支え、
そして希望になるのかということを、
この本を読みながらずっと感じていました。

ラングストンにとってその「何か」とは
図書館で出会う本であり、
「誰か」とは、同級生のクレムや、
父、隣人のクルトンさんたちでした。

本や彼らとの出会いや交流を通して、
ラングストンは、シカゴで
居場所を見い出していきます。

ラングストンは、図書館で出会った
ヒューズの詩についてこう言います。

ぼくに……ふるさとのアラバマや
母さんのことを思い出させてくれる。(中略)
だって、ヒューズの詩には、
黒人として生きることや、
北部で暮らしていても南部のふるさとが
恋しいことや、さみしい気持ちがつづられているから。

少年の気持ちに静かに寄り添うヒューズの言葉が、
少年を、「母さんを失った痛みと、
大きらいだったこのシカゴの町から救って」いきます。

同級生のクレムは、ラングストンに、

詩の、どんなところがいいの?

と、「まじめな声で、本当に
知りたがっているみたい」に訊ねます。
そして、「あやふやなぼくの話をちゃんと理解」して言います。

それで、お前が読んでいる詩は、
自分のなかで感じることをすべて、
自分の外に出す方法なんだな。

クレムは、ラングストンにとって、
シカゴで初めての友達になります。

クレムの父は、ラングストンが本を読むことを
ずっと快く思っていませんでしたが、
クレムにとって図書館や本がどれだけ大切かを
理解しようとし始めます。

夜通し本を読んでたせいで、
起きれないなんていうんじゃないぞ
「はい、父さん」思わずにっと笑ってしまった。
父さんがいいたいことは、それだけ?
今でなければ、本を読んでもいいんだね?

読書を父に認めてもらって喜ぶクレムを見て、
温かい気持ちが胸に広がって、涙が出てきました。
そして、最後に父が、

おれを図書館につれてってくれ。
お前がどんなとこに入りびたってるのか、みたいんだ

と言う場面では、涙が止まらなくなりました。

物語の前半は、ラングストンが
母さんとの幸せな思い出を振り返るのを
読むたびに悲しい気持ちになってしまったり、

学校でからかわれる日々を過ごす
ラングストンの姿を見てつらくなってしまい、
読み進めるのをやめようかなと思いました。

でも、ラングストンが図書館を見つけ、
ヒューズの詩と出会ったあたりから、
静かな感動が積み重なっていき、

読み終わったときは、
とても幸せな気持ちになりました。

『希望の図書館』
リサ・クライン・ランサム作、松浦直美訳
ポプラ社、2019年

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