TARCを活用するコツ。
アトピー性皮膚炎診療にTARCを活用するコツ。
TARC(thymus and activation-regulated chemokine)は、アトピー性皮膚炎の重症度をみるための検査のひとつで、2008年に保険適応がおりました。
使ってみると、感染症におけるCRPのような非常に有用な検査のひとつとはっきり言えます。
しかし、思った以上に実施されていない先生が多いようです。というのもTARCはイメージしにくい結果になりがちで、読み解くのに少しコツが必要だからです。
そこで、TARCをいつもの診療にもっと役立てて頂きたくて、普通の記事には書いていない実践的なコツを盛り込みました。
普段の診療に導入できた!という声をお待ちしております。
※この記事は、専門医・医師向けです。第66回日本アレルギー学会で講演した内容を修正し、情報を追加しています。
※2018.9.4時点では無料としていますが、さらに情報を追加した際には有料とする予定です。順次下記のような情報量で追加していきます。
=更新履歴=
2018.9.4 初版 もくじ、第3章
2018.9.4 第2版 第1章追加
=もくじ=
第1章. TARCとは、どんなもの?
1.1. TARCはケモカイン。サイトカインとどう違う?
第2章 TARCをどうつかう?
2.1. TARCは、アトピー性皮膚炎で信頼性の高いバイオマーカー。
2.2 TARCはどこで作られている?
2.3 TARCは、診断補助・重症度・炎症の程度をみるために使う。
第3章 TARCとアトピー性皮膚炎
3.1 ステロイド外用をつかうと、どれくらいTARCは下がる?
3.2 好酸球では代用できない?
3.3 小児と成人では結果が異なる?
第4章 TARCを活用するコツ。
4.1 みなさん、すでにバイオマーカーを活用されているはず!
4.2 バイオマーカーのみに頼らないために。
4.3 TARCを実感をもって使うコツ。
4.4 TARCは重症であれば必ず高い?軽症でも高い?
4.5 TARCはどこから作られる?
第5章 TARCのパターンいろいろ。
第6章 TARCの目標値はどれくらい?
第7章 TARCを活用するために ~まとめ~
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第1章. TARCとは、どんなもの?
この章は、すこし難しめなので、軽く読み流してOKです。
サイトカイン(cytokine)は細胞から産生されて、細胞に対してなんらかの作用をもたらす物質のことです。
ケモカインはサイトカインのなかでも、細胞の遊走する能力をもつものとなります。
遊走(chemotaxis)とは細胞がある物質に引き寄せられて移動することです。
そして、ケモカイン(chemokine)はchemotactic+ cytokineから作られた造語となります。
サイトカイン(cytokine)=cyto(細胞)+kine(動き)
ケモカイン(chemokine)=chemotactic(走化性の)+cytokine
ケモカインは、分子構造の一番真ん中の構造から、下の4種類に分かれます。
TARCは、真ん中の分子構造が”CC”ですので、「CCLケモカイン」になります。
TARCの受容体(CCR4)はTh2細胞に特異的に発現しているのでTh2系のケモカインとされます。
Th2系とは、アレルギーに関与する群ですので、TARCは「アレルギー性の炎症」に関わるケモカイン、ということになりますね。
第3章 TARCとアトピー性皮膚炎
さて、TARCがどういう物質で、どこから産生されてくるものか、良くご理解頂けたと思います。
最初に、バイオーマーカーの活用は、
①診断補助、②重症度の評価、③発症・再燃の前兆を把握する
という3つの視点から使うことをお話ししました。
アトピー性皮膚炎の病期から考えると、このように図示できますね。
初回時には、診断補助と重症度。
subclinicalな炎症になった時期は、皮下の炎症の程度(=再燃予測)に有用となります。
3.1 ステロイド外用をつかうと、どれくらいTARCは下がる?
では、実際に治療を行うと、どれくらいTARCはさがるのでしょうか?
その点はすでに報告があります(Yasukochi Y, et al. Asian Pac J Allergy Immunol 2014; 32:240-5.)。
成人アトピー性皮膚炎患者56人に関して検討した報告です。
ステロイド外用薬の使用量が多いほどTARCは低下し、1週間あたり9.94pg/mL低下するためには、ストロングクラスのステロイド外用薬1g必要としたと報告されています。
しかも重症アトピー性皮膚炎のほうが早く低下したとされています。
3.2 好酸球では代用できない?
普段の診療で、好酸球数を参考にされている先生も多いでしょう。好酸球数とTARCは弱い相関することがわかっています。
では、TARCの代わりに好酸球数は使えないでしょうか?
実際はつかえないこともないのですが、
①好酸球数は0~100%、②TARCは100pg/ml~30000pg/mlとワイドレンジ
に動くので、TARCの方が、病勢をつかみやすいのです。
3.3 小児と成人では、結果が異なる?
では、TARCは小児と成人では異なるのでしょうか?
TARCは、小児の方が有意に高いことがわかっており、この点は、TARCの活用を妨げているといえるでしょう(Fujisawa T, et al. Pediatr Allergy Immunol 2009; 20:633-41.)。