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言語と哲学、記号論好きのための小説: 「言語の七番目の機能」ローラン・ビネ La septième fonction du langage

2015年に出版され、読もう読もうと思いつつ後回しにしていたら邦訳が出版されるほど時間が経ってしまいました。
今年出たばかりです。

持っていたので原書(フランス語)で読んでます。

アンテラリエ賞という文学賞を受賞しています。

ちなみにローラン・ビネ、2019年発刊の最新作 Civilizations (英語綴りなのにはアメリカ原住民がテーマであることが関係あるでしょうね)はアカデミー・フランセーズでグランプリを獲得。
出した小説3作、高い評価です。
一つ、ジャーナリスティックな本を書いてまして、オランド大統領の選挙戦密着記なんですが、これはあんまり...でした。
時事ネタですし日本に馴染みが薄過ぎるためか邦訳は出てません。
オランドについてのビネの評価はその後ガッカリどころではなく、ケチョンケチョンにけなすに至りました。

さて、数々の文学賞を獲得するのもさもありなんなローラン・ビネ、と思わせてくれる本作。
ロラン・バルトが交通事故で亡くなったのは史実ですが、そこから消えた書類の行方と誰が彼を殺したのか?という謎解きに始まる記号論、言語論、哲学と言ったアカデミズム満載のミステリー。
本作発表当時存命だったウンベルト・エーコも登場しますが、彼の作品に通じる、実在の人物を使ったフィクションであり、知と言語の嗜好を楽しむ物語に仕上げています。

余談ですが、
Laurent Binet ローラン・ビネ
Roland Barthe ロラン・バルト
この日本語表記...。
RとLの違いを表せる方法はないものでしょうか。
Vをヴと書くなんて画期的発明を是非ともRにもしていただきたいです。
Laurent とRoland のロの音節の長さはフランス語では同じです。
なんでローランとロランなのか???

物語にはとても多くの人物が登場します。
実在の人物も架空の人物もいっぱい。
名前をメモされることをお勧めします。
ちょい役みたいに思える人が後から急に現れるのです。
メモしても無駄だったという人物もいますが、後から「この人なんだっけ?」が満載です。

東欧やロシアの人たちのセリフのフランス語の独特な訛りをアルファベットで表現していて、rrrrrrrrrr なんてあるあるな感じでちょっと笑えます。
巻き舌のRです。
フランス語のRは舌は巻きません。
舌を巻くRと巻かないRの言語についても少し言及されていて、語学オタクにはゾクゾクします。
邦訳ではどう書き表しているでしょうか?
スラヴ系の文がそのまま出てくるので、Deeplで訳しながら読んでいます。(フランス人もそうやって読んだでしょうか?)
時間がかかります。

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(↑ボローニャ)
ボローニャ編からはイタリア語が頻出。
エーコの登場です。
世界で初めて università (英語のuniversity)の名を冠したのがボローニャ大学。
エーコはここで教鞭をとっていました。
当時のイタリアの世相も色濃く反映されていて、読みながら勉強になります。

パリでもボローニャでも ロゴス・クラブ Logos Club というディベートのファイト・クラブのような秘密の会合が出てきます。
会員ランクとか戦いのルールが規定されていて、正会員同士の戦いは肉体的ペナルティがあります...。
これがグロテスク。
日本ではある世界での特殊なペナルティです。
エーコも若いときメンバーだった設定ですが、彼はそんな目には遭っていません。
さすが。(の設定)

ミケランジェロ・アントニオーニが登場し、このディベート・バトルに参加します。
ゴダールと同年代のイタリア映画界の巨匠ですね。
この頃のモニカ・ヴィッティとの関係は定かではありませんが、ここではカップルになっています。
ネタバレになるので書けませんが、市井の老婦人との闘いはかなり高度なディベートです。

テーマについて自分のとる立場、賛否・肯定否定・好き嫌いと言ったことを規定されてするのがディベート大会ですので、自分の考えは賛成でも反対する立場を与えられればそれで相手を論破する。
こういうことは訓練しないとできません。
西洋の教育ではディベートや論述は小さいころからやりますので、⭕️❌や穴埋め、マークシートのテストが主流の日本の教育で育つと、留学先の大学などでは苦労します。
論文は書き方の良し悪しや方法自体がまったく違います。
留学前に把握しておいた方がいいです。
ものっっっっすごく大変でした。
序論・本論・結論→ 書き順として❌です。
結論を述べるのが先。
誰も書き方なんて教えてくれません。
あちらでは大学に入る時点でできるものなのですから。
論文をたくさん読んで書き方を学んでいくしかありませんでした。
留学前に指導教員に相談してみるといいと思います。
やる気のある学生には丁寧に教えてくれるものです。

これはメールなどで人に連絡する時も同じで、挨拶をしたらまず用件を書きます。
そのあと理由や説明です。
日本のいろいろ説明してから、「それでこうして欲しいのだけど」という伝え方だと、イラつかせるしうまく行くものも行かなくなります。
こういう習慣は案外大事です。

言葉は手段や道具という人がいますが、そうだとすると日本語を外国語に訳せば日本の習慣を持ち込んでも通用する、ということです。
でも言語が違う場所は文化、生活、習慣、思考法、コミュニケーションの取り方の常識が違いますよね。
その意味でも、言語の違いで乗り越えるものはとても大きいのです。
言語だけの能力が高く総合的な文化や社会には疎いのは、わたしには表面的にコミュニケーションできているように思えているだけに感じられます。

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ロラン・バルトの日本びいきの理由がチラッと書かれていて、これはわたしは納得しました。
まったく違う文明世界、言語感覚が彼には解放でもあったのかなと思います。
良くも悪くも日本語の特長とその言語ゆえの思考回路を身につまされて感じるので、人には長い時間をかけないと説明できないのですが、感覚としてビネが表現したことが理解できました。

記号論については本書の中である程度の説明はあります。
フーコーやエーコなどに触れていなくても、これをきっかけに記号論について興味が湧くこともあるかもしれません。
フーコーの性的嗜好の描き方が強烈でした。

その他、この時代のフランスの政争も関わっていて、まったく知らないと名前だけが出てきて「誰?」とか風刺がわからないというのはあると思います。
おそらく邦訳では訳注がたくさん付いていることでしょう。
ジスカール・デスタンとミッテランの周辺事情を知っていると、楽しみは増えますよ。

ボローニャで混沌がさらに混沌とし、イサカ編冒頭でまたこんがらかって、だんだんなんでこんなことになっているのかと、頭の中が大変です。

何度も書き直したこの記事。
キリがないのでいい加減アップすることにしました。
まとまりがないのは最後まで読んでないせいです。

(論文やメール、ディベートのところだけ別記事にあげようかな)

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